八話
サチの作った食事は、びっくりするほど美味しかった。ダイエットとかは特にしてないけど、さすがにちょっと宜しくないかなってぐらい食べてしまった。
サチはさっさと食べ終わって、洗い物をしてくれた。おかわりとかも用意してくれた。いい女だよな。
待てよ、これ説得に使えないかな?
ものは試しだしやってみるか。立ち上がると台所の方に向かう。
「ちょっとコーヒー淹れさせてくれるか?」
「サチがやりますから座ってていいですよ」
「ほんとかよ。いい女だな」
「夜もいい女ですよ」
無駄だった。ていうかほんとこいつ、どんどん遠慮なくセンシティブな事言うようになってきてんな。発情期来てんのか?
「このインスタントのでいいんですか?」
「ああ、それ」
「砂糖とミルクいります?」
「なくていいよ」
「わかりました」
少ししてからサチはコーヒーを二つ運んできた。
「お姉様、どうぞ」
やけにシャツのボタンが外れていて、そして何故かさっきは着ていたキャミソールを着ていなかった。
「強硬手段に出てきたな」
サチなんのことかわかんなーい、とでも言いたそうな表情で微笑んで、私の対面に座った。わざとらしく前屈みになったりしてみせる。
二人とも無言だったが、半分ぐらいコーヒーが減った辺りでサチが苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「あの、確かにそれ狙いでやったことですけど、そのー、お姉様、さすがに見過ぎじゃないですか?」
「え?」
「眼が怖いですよ? そんなに見たいんです?」
そんな事を言いながら、サチは更にボタンを外す。
「もういい加減素直になったらどうです? 自分はスケベロリコンだって」
「……座れ」
「?」
「まあ、座れ」
一度大きく息を吐くと、立ち上がろうとするサチを手で制止した。
「もうな、この際スケベロリコンでいいよ。私は。それはそれとしてだ、ちょっと性急過ぎるんだよ。なんか裏がありそうで却って手ぇ出せないのよ。チョウチンアンコウみたいなもんなんだよ、いまのお前は。まあそもそも、普通に引くし」
納得している様子のなさそうな表情を浮かべているが、サチは何も言わない。
「結論が出たらこっちからいうから、変な真似せずに待っててくれ。いいな?」
「んー……まあ、そうですねえ。分かりました。一応待つ事にしますよ。一応。今日の夜中にでも、せいぜい勿体ない事したとか思い嘆きながらソロプレイに励んで下さい」
大きく溜め息を吐いてから、サチはそう答えた。この際今の暴言は聞かなかった事にしておこう。そろそろ突っ込みにも疲れた。
「とりあえず分かってもらえたんならいい」
「ええ。一応は、ですけど。全然納得とかはしてませんけど」
「今はそれでいいだろ。昨日告白の今日ゴールインとかテンポ早すぎなんだよ。生き急ぎ過ぎなんだよ」
「明日死んだらどうするんですか?」
「それは獣の発想だな。明日死ななくていいように人間は発展してんだから」
「それでも不慮の事故とかで死ぬ事もあるじゃないですか」
「その可能性を極限するように法整備とかもされてるだろ。それでも万一はあるけど。そこまでいけばもうどうしようもない事だろ」
サチは目を細め渋い顔をしたかと思うと、ふと何かに気付いたように目を開いた。
「お姉様、そのー、もしかしてなんですけど……賢者タイム入ってません?」
「入ってねえよ」
折角の渾身の説得も台無しだよ。良い事言ったと思ったのに。
「とりあえずこの話はおしまい」
「えー」
「おしまいな。ところでサチはこれからどうするんだ? 帰るん?」
「折角だからお姉様のお部屋でお喋りとかしたいです」
「あんだけ喋ってるのにまだしたいのか。そろそろ喉痛いんだけど」
喋り過ぎって言うよりは叫び過ぎな気もするけど。とはいえ食事を作って貰っておいて食ったら追い返すのっていうのもな。
「まあいいけど。こっちな」
「はい」
サチを部屋に連れて行く。中に入って、サチは一度部屋を見回した。コメントし辛くて困ってるんだろうな。
「物が少ないんですね」
「つまらん部屋だろ。飾りとか置かないから物が増えないんだ」
「この写真は?」
「去年の夏に撮ったやつだったかな」
「一緒に写ってるの誰です?」
「それが文芸部の部長。小学校の時からの友達」
「ふーん」
何となく目つきと声のトーンと雰囲気が変わってる気がした。ストーカーと痴女に続いて、今度はヤンデレでも発動するのか? どんだけ属性豊富なんだよ。しかも厄介な属性ばっかりだな。
「随分と仲が宜しいようで」
「そうか? ぼちぼちだと思うけど」
「こんな写真飾るぐらいなのに?」
「貰い物だし一応飾っとくか、って程度だけどな。あと友達少ないからな、私。小学生の時から未だに親交があるの、そいつぐらいだし」
「そうですかー。ロリコンムッツリチカンヘタレに、更にボッチも追加ですねー」
ボッチってほど友達いない訳でもないんだけどな。まあいいや。
「他の女の子の写真とか、本当なら焼き払いたいぐらいですけど、まあ可哀想なんで許してあげますよ」
「なんで半笑いなんだよ」
「ちょっと自分で勝手にツボってしまいまして。ぶっちゃけ全然気にしてないんですけどね」
あはは、と小さく声を出して笑うと、サチはふっと無表情に戻った。
「あ、でもロリ系の人のとか、あと小学生の時のとか飾ってたら燃やしてました」
「同系統は嫌とかみたいのあるのか?」
「いえ、シンプルにキモいからです」
サチはばっさりと切った。少し顔が引いているし、本気でキモいと思ってそうだ。
「ちょっと自覚ないみたいですけど、ロリコンってキモいですからね? サチがロリ系だからサチなら許すってだけで、他の人相手とかは正直引きます」
あ、これは本気でキモいと思ってるやつだな。最早顔もマジになってる。いつもにこにこしてるサチから笑顔が消えてる。
一応、サチを黙らせる必殺の武器はあるんだけどな。ロリコンじゃなくてサチが好きなだけだ、と言えばいい。ただそれを言うとサチが更に大変な事になりそうだからなあ。
使い時は間違えないようにしないとだ。




