七話
気付いたらもう、家の前だった。サチが私から離れると、先行して鍵を開けてドアを開けてくれた。基本的にはそういう気遣いとかできるいい女なんだよな。使ってるのが脅迫して手に入れた合鍵じゃなかったらな。
「ただいま」
中に入って一応一声かける。返答はない。この時間なら誰もいないはずだから。
「おじゃまします」
サチも上がると、周囲を一度確認するように見回した。台所に向かいながら、更に色々確認する。
「案外綺麗にしてるんですね」
「汚いのって嫌じゃない?」
「正直ズボラそうというか、そこまで気にしないタイプかと思ってました」
「まあ実際そこまで神経質な訳じゃないけど、夜になったら親も帰ってくるから。ある程度掃除とかもしとかないとだから」
台所とつながったリビングにおいてある椅子に座ると、上着を脱いでタイを外す。
「じゃあとりあえず掃除はしなくていいですね。後で気になるところだけやっておきます。先にご飯にしますね」
「ああ、頼むよ。冷蔵庫の中のは何でも好きに使って。あと飲み物も好きなの飲んでいいから」
サチが料理とかしてる間にトイレとかお風呂でも掃除してくるかな。さすがにそんなところまでやらせるのは申し訳ないし。
私が立ち上がったところで、サチが思い出したみたいに口を開く。
「あ。それともわ、た、し?」
「言いたいだけだろ、それ」
「お約束ですよね。けどしたいならして頂いてもいいんですよ?」
「ご飯にしてくれ。お腹も空いたし、何より私はな、自分の作る中途半端な料理にうんざりしてるんだ」
「はーい」
くすくすと笑いながら、サチは一度冷蔵庫を開けて中身を確認する。
「エプロンとかあります?」
「台所に置いてあるよ」
「わかりました」
あ、これかな。という声が聞こえた。見るとサチがエプロンを広げて確認していた。
「脱いだ方がいいです?」
「脱ぐなよ? 脱いだらほんとに殴るからな」
「!」
ハッとしたような顔をして、サチは上着を脱ぎ始めた。なんだ、今の顔。何故かシャツも脱ごうとしている。
「おい、何で脱ごうとしてんだ」
「叩いて貰えるなら脱いだ方がお得かなと」
「ご褒美にしかならないのかよ」
叩かれて喜ぶ奴とか、一体どうやって躾ければいいんだよ。放っといたら放っといたでやりたい放題しそうだし。
とか言ってたらほんとにシャツ脱ぎやがった。
「よくよく考えたら見てもらえるだけでも脱いだ方がお得ですね。ほーらお姉様、ロリのキャミ姿ですよー」
「しまいには摘み出すぞ」
「それならさっさと手え出して下さいよ。こんだけ誘ってるんですから。称号にヘタレも追加しますよ? ロリコン、ムッツリ、チカン、ヘタレ。なかなかのもんじゃないですか?」
「可燃ゴミは明日か」
「捨てちゃ嫌ですよ? 捨てたら夜に枕元に立ちますからね」
「分かったからさっさと着ろ」
ほんと手に負えないな。いっそエロい事をご褒美に使ってしまうか? いや、さすがにまずいか。健全な高校生の発想じゃなくなってきてる。サチのせいだな。
「ちょっと掃除してくるから、ご飯作っといてくれるか。二人分な」
「後でサチがやりますよ?」
「いや、さすがに何でもかんでもやらせるのも気まずいからな」
シャツを着てエプロンを着けたサチが包丁を手にこっちを見てくる。包丁似合うなこいつ。二つの意味で。
「まあ行ってくる」
「先にできたら呼びますね」
「ああ」
とはいっても、そこまでやることなんてないんだよな。風呂は洗剤撒いて流すだけだし、トイレもちゃちゃっと拭くだけだし。
不意に洗剤を吹きながら思った。まさか料理に薬とか盛らないだろうな? これまでの言動から、その程度の事は平然とやってのけそうな気がする。
いや、さすがに心配し過ぎか? いくらなんでもそこまでするかなあ。しないとは思うけど、やりかねない気もするし、さっさと終わらせて戻るか。
終わらせて戻ると、サチは忙しそうにあれこれしていた。
「早かったですね。もうちょっとかかりますよ」
「まあそんな時間かかるやつじゃないから」
言いながら台所に行って、サチが料理する姿を確認する。ほとんど終わってる感じがする。怪しい動きとかも特には見られない。
「どうかしました?」
「いや、何でもない」
「異物混入はしないから大丈夫ですよ? そういうまだるっこしい趣味はないので」
まだるっこしいときたか。多分血とかそういうのを警戒してるって思ってるんだろうな。直接攻撃のために薬とか盛るって心配してるんだけどな。ああ、けどやるとしたら最後か? 今入れたら自分も食べないといけないもんな。
「薬物もいれませんよ? サチはお姉様から自発的に襲ってもらいたいので」
「そんな日が来るといいな」
「サチは正直そう遠くないと思ってますけどね。ただお姉様、ヘタレですからねえ。多少は待ちますけど、いいところで性根据えてくださいよ?」
手を出したら思う壺、出さなかったらヘタレ扱いか。ひどいもんだ。
「でないとサチも、何するか分かりませんよ?」
「あんまりグイグイ迫られるとちょっと引く」
「むー。分かりました、とりあえずは待っておくことにしますよ。けど本当に、早いところ腹を据えて下さいよ? 女の子をあんまり待たせるものじゃないですからね?」
一応、私も女の子なんだけどな。忘れられてるような気がするけど。
「とりあえずご飯食べます? このまま猥談に花を咲かせててもいいですけど」
「猥談はお前が一人でしてるだけだろ。正直こっちは忙し過ぎてツッコミが追いつかないんだよ」
「だから突っ込むならこっちに突っ込んで下さいよ」
サチが自分の下腹部を撫でる。
「止めろ! 指引き千切るぞ! 大体私突っ込むもんないだろ!」
「指でも舌でも突っ込めばいいじゃないですか」
一度大きく息を吸い込んで大きく吐く。腹を立てても解決はしない。冷静さを欠いたらサチに足元掬われる可能性が増えるからな。
「もうな、言う事がいちいち生々しいんだよ。頼むからちょっと落ち着いてくれ。こんな真っ昼間っから盛り過ぎなんだよ。しかも飯の前に。飯と下は相性悪いだろ。せめて飯食べてからにしよう。な?」
「そうですねえ、わかりました」
「納得してくれたみたいで何よりだ」
とりあえず一旦は落ち着くだろうし、飯食べながらこいつの下ネタ対策考えないとな。っていうか、異様にグイグイ来るのが普通に怖いし。




