六話
こいつら勝手に下ネタが増えていく。
そこからサチはその件に関して、一回口を閉ざした。まあサチにしてみれば、自分の武器が特攻武器だっただけだもんな。ラッキーにもほどがあるよな。
そういう私は即死武器を何個もぶっ刺された気分だけど。ロリコンでムッツリスケベレズで触り方キモいか。心が壊れそうだ。酷すぎる。いくらなんでも酷すぎる。
「そんなくよくよしないで下さいよ?」
「くよくよしないやついないだろ、これ」
「ただのロリコンならくよくよの一つや二つしないとダメでしょうけど、お姉様にはサチがいるんですから。ロリですよ、ロリ! しかも十五歳のガチロリですよ?」
そういう問題じゃないけどな。相手がいるとかなんとかじゃなくて、自分がロリコンなのが嫌なんだけどな。
「何してもいいロリがいるんだからロリコンでいいじゃないですか、ねえ」
「煽るなよ。洗脳されてる気になるだろ」
ほんの一瞬、サチの口元が引き攣るったのがわかった。即座に戻ったが、私は見逃さなかった。
「…………」
「…………」
「……なあサチ、お前これ洗脳しようとしてたのか?」
「い、イヤだナーそんなコトあるワケないじゃないデスかー」
実に分かりやすい動揺。というよりはわざとらしい。それは見抜かれたことより、ほんの僅かでも顔に出してしまったことによるものなのだろうか。見抜かれたからには逆に利用してやろう、とか考えてても不思議じゃないし。
「…………」
「あはは……」
「……なあ、サチ?」
「……心が弱ってるところにつけこむのは、常套手段ですよ?」
「この詐欺師め」
「でもお姉様がロリコンなのは事実ですからね!? 思ったよりダメージありそうっぽかったからつけこもうかと思っただけで! 足見てたのも匂い嗅いでたのも触り方キモいのも、全部お姉様が自分から勝手にやってるんですからね!」
「ちょっと待て、他の二つはともかく、触り方キモいは止めろ。それはほんとに傷付く」
「むしろそれが一番問題じゃないですか! 堂々と触るか堂々と握ってりゃいいのに、何で指とか動かして撫でたりとかするんですか! ムッツリスケベが暴走してんですよ!」
逆ギレの様に投げられる言葉が私の急所を的確に刺してくる。まったく、ぐうの音も出ない。キモいんだな、私。意識すると分かる。確かにちょっと撫でてる。無意識でやってた辺りますますキモいな。
「何回でも言いますけど、サチの事好きにしていいんですからね? そんなこそこそセコセコしないで、堂々と来て下さいよ?」
サチが私に体を押し付けてきた。
「そうすれば、サチの全部、お姉様にさしあげますから」
最早どこまでが洗脳なのか、どこまで洗脳されてるのかも分からん。しかしながら、こんな分かりやすいエサに釣られてやるわけにもいかない。サチは何を企んでいるのか、一切分からないのだから。
ちょっと深呼吸してから、気分を落ち着ける。
「とりあえず帰るか」
「そうですね」
これだけああだこうだ言っておいて手を離さない辺り、冗談めかしてばかりのサチも案外本気なんだろうか。
或いはそれも、彼女の策の一つなのだろうか。
とりあえず思うのは、どうあってもサチの事は信用してはならない。彼女の言葉は鵜呑みにしてはならない。常に信じることなく疑い続け、言葉の意味と意図を正確に探らないといけない。
もしいつかそれに失敗した時、私はサチの餌食となるのだろうか。サチの目的が分からないからどうとも言えないけれど。
「なあサチ、一回聞いたと思うけど、何で私なんだ?」
「……可愛くて美人で好みだからじゃないですか?」
一瞬の謎の間の後述べられたそれは、まるで用意されていたみたいに、前回聞いた時と一言一句違わぬ回答だった。本当に本当に、食えない奴だ。
「まあでも、とりあえずは友達だな」
「友達ですか」
「友達じゃあ不満か?」
「サチはとりあえずまあいいですけど、お姉様こそほんとにいいんですか?」
「いいも何も、折衷案のつもりだったんだけどな。さすがに一目惚れで告白されて付き合いますっていうのもな」
何を考えてて何がしたいか分かるまでは、今後どうするかは保留でいい。何だかんだ、私はサチの事を少なからず好意的に思っているから。
「いや、そうじゃなくって。お姉様、したいんじゃないんですか? その、えっちい事とか。ロリコンなんだし。それともそういう事もする友達です?」
「よし、ちょっと歯ぁ食いしばれ」
「嘘です」
正直サチが色ボケなのか、自分がスケベだと思われてるからなのか分からなくなってきた。とはいえさすがに酷いよな、サチのやつ。
とはいえムッツリスケベらしいしなあ。自覚が一切ないのが怖い。記憶というか、意識にないから余計に。無意識でセクハラしてるとか危険すぎるだろ。
「また何か考え事ですか?」
「まあな。考えないといけない事が多すぎる」
「考えて解決することなんですか?」
「解決しなくても考えないといけないからな。間違えたら死ぬかもしれないし」
くすりと笑って、サチが上目遣いに私の顔を覗き込んでくる。
「さすがに大袈裟じゃないですか?」
「どうだろうな。少なくとも殺されるんじゃないかと思う様な事言われてるから対策はしといていいかと思うんだよ」
「あれ、もしかしてサチのせいです?」
「もしかしなくてもサチのせいだな。それとも他に何か思い当たる事でもあるのか?」
「ちょっとサチには何が何やらさっぱりです」
「分かりやすく知らばっくれてるな」
「うーん」
目を細め、何とも微妙な表情で唸り声を上げると、サチは空を仰いだ。
「これは、あくまでもしもの話ですよ。もしもですからね。もしも、サチが死んだら、そういう事もあるかもしれませんね」
ほんとに大丈夫なのかよ。命狙われてるとか止めてくれよ。さすがにそんなの漫画の主人公みたいな奴等ならともかく、ただの女子高生には荷が重いぞ。
うーん、実際どうなんだ。さすがに冗談だよな。ひょっとしたら最初っから最後まで全部冗談だったり? 現実的に考えればその可能性がまあ一番高いだろうな。
とはいえよく分からない事もいっぱいあるしなあ。説明もつかないし、情報と情報がうまいことつながらないというか。まあ私の知らない事が沢山あるだろうし。
いつか、サチは教えてくれるんだろうか? 何がしたいのか。或いは、何がしたかったのか。




