五話
普通に並んで歩いていると、実に絵になる美少女で、ほんとになんでこいつ変質ストーカーやってんだろうって気分になる。絶対普通にしてる方がいいのに。性格が悪いからか?
「?」
そんな考え事をしている私の顔を、少し不思議そうに上目遣いで覗き込んでくる。
「何を考えてるんですか?」
「サチの事だよ」
私がそう答えると、サチは私の腕を抱きしめるように掴み、ほんの少しだけ拗ねるように笑った。
「サチの事を考えてくれるのは嬉しいですけど、折角隣にいるんだから、もっと本物のサチを見てくれないと嫌ですよ?」
うわっ、これはあざとい。サチなんぞにちょっとキュンときてしまった。相手が変質ストーカーじゃなかったら今のはヤバかったな。
手を解こうとすると、サチはますます力を入れて絶対に離さない。
「サチ、歩きにくいぞ」
「これはサチの事ちゃんと見てくれなかった罰ゲームです!」
だからあざといんだよ、こいつ。ていうかこんな可愛い罰ゲームできんじゃねえか。こんな可愛いのできるのに、なんでいちいちケツの穴に物を詰めようとしてくるんだよ。
そうか、こいつ根底から変質ストーカーなせいで、変質ストーカー行為のせいで失敗してる事が理解できないんだな。アイデンティティーに喰い殺されてんだな。哀れな奴よ。
「家までだからな。家着いたら解くからな?」
「今日のところはそれでいいですけどぉ」
「けど?」
「そのうちでいいので、家についたらもっと激しくして下さいね? こー、がばっと」
「腕へし折るぞ」
可愛い可愛いって思ってたらこれだよ。こいつちょいちょい下ネタに持っていくのもなんとかならんものかな。さらに言えば、その下ネタも本気なのかどうなのか分からんのもどうにかならんもんかな。
「今のは、本気ですからね? お姉様なら全然ウェルカムです」
「心読んでくるんじゃねえ」
「察してるだけですよ。お姉様、顔に出やすいですから。いいんですよ、サチになら。エッロエロな事してあだだだだ!」
サチに繋がれてる手を強く握ってやった。
「ひどいですぅ、痛くしちゃ嫌ですぅ」
「変なこと言うからだよ。そろそろ物理的にツッコミ入れてやらんとな」
「突っ込むんならこヴァーーー!」
サチの手が下腹部に触れた瞬間更に強く握ってやった。今のはさすがにラインを越えてるだろ。さすがのこいつも痛ければこんな声出すんだな。
「真っ昼間に天下の往来でする話じゃないんだよ」
「にしたって本気で痛いのは勘弁です! 折れるかと思ったじゃないですか」
実際、ちょっとへし折ってやりたい気持ちがなかった訳ではない。全く、ほんと最悪だ。これもう痴漢だろ、こいつ。
「とりあえず痴漢だな。これで前科三犯だ。おめでとう。スリーアウトだし警察いくか?」
「いやほら、ゲームセットまであと八イニングもありますから」
「このペースなら、どの道いつか、割と近い内に二十七アウトぐらい行くだろ。それなら早い方がいいんじゃないか?」
「……そんな眼しちゃ嫌ですよ?」
「どんな眼かわからないけどさ、お前はそんな顔することもあるんだな」
初めてサチが動揺した所を見てる気がする。圧かけるのはうまいけど、かけられるのは慣れてないみたいだな。
サチが一度舌打ちをしたが、少ししてから大きく息を吐く。
「わかりました。今日のところは言うこと聞くことに致しますよ」
「被ってた猫どこに逃げてったんだよ」
「お姉様が脅かすから逃げていったんです。その辺にいるから大丈夫ですよ。またすぐ被ってぶりぶりしますから。お姉様ああいうのお好きですもんね。なかなかイイ目付きで見て下さって」
一矢報いられた気がした。私、どんな目付きで見てたんだろ。
「可愛いのは認める。けど人前とか目立つ所では止めろ。そうでないんなら多少は大目に見るから。な?」
「ええ、仰せのままに」
大袈裟に言って、サチは私の手を引いて歩き出した。
「言われた通り、次は人のいない所でしますよ」
「まあ人がいないんなら多少はな」
「して欲しいんですよね。お姉様のスケベー」
「ぶん殴ってやろうか」
「お尻とかならいいですよ。けど人のいないところでお願いしますね」
駄目だこいつ、何も懲りてねえな。
「確か冷蔵庫にキュウリあったよな……」
「すみませんでした、調子に乗りました」
「さすがにアナキュウは嫌みたいだな」
「あれはただの拷問ですからね」
ああ、やっぱり拷問なんだな、あれ。そりゃそうか。プレイでわざわざキュウリみたいな危険物はちょっとな。……そうだよな、多分?
「訓練とかされてて、もうアナキュウぐらい平気なのかと思ってたよ」
「ガチ勢なら平気なのかも知れないですけど、サチはちょっと、未使用なものでして」
「ふーん。っていうかあれだ、話変えないか? ぶっちゃけ聞きたくもなかった情報が次々に入ってくるんだけど」
「それは構わないんですけど、とはいってもサチ、まともな会話できないですよ? サチ、音楽も聴かないしテレビも映画も漫画も見ませんし」
「サチの事とかでいいよ。趣味とか好きな物とか」
「うーん、趣味はギャンブルで、好きな物はお金ですかねえ」
「クズじゃねえか! それもなかなかレベル高いクズ!」
「いやいや、ちゃんと儲けてますからね?」
「法的にアウトだろ」
「そこら辺はちょっと考えないで頂けると有難いです」
ていうか自白でアウト四つめだな。一日何個アウト取れば気が済むんだこいつ。普通一個か二個アウトがあるかないかだろうに。
けどうん、はっきり言って非常に気になる。もうちょっとこいつのこと掘り下げてみようかな。
「ギャンブルって何やってるんだ? 壷振りとか花札とか?」
「普通に競輪とか競馬とかですよ。麻雀だろうが手本引きだろうが大抵のはできますけど、ああいうのってサマ使える様になってからが本番なんでめんどくさいんですよ」
「ひとまずお前がアウトローって事しかわからんぞ」
「まあその辺は気にしない方向で。サチの事より、お姉様はどうなんです?」
「私は趣味ってほどの趣味ないからなあ」
「成績とか見てても、何をやっても中途半端って感じですもんねえ」
「泣かしたろうか。ていうかなんで成績知ってんだよ」
「調べました」
「絶対ヤバい方法使ってるだろ。不法侵入かハッキングしてるだろ」
サチが呆れたように溜め息を吐いた。
「いいですかお姉様、乙女の秘密っていうのは、気付かないふりしとけ、って意味ですからね?」
言わんとする事は分かるんだけど、サチにそんな風に指摘されるのはなんか腹立つな。
「乙女の秘密で済ませていい内容じゃないんだよなあ」
「それでもです! 聞かない知らない方が良い、ってもんですよ。お姉様だって秘密にしてる事とか聞かれたり言われたら嫌じゃないですか?」
「私別にそんなんないぞ?」
「またまたご冗談をー」
「いや、ほんとに。まあ相手とかにもよるけど基本的には」
「じゃあロリコンな事とかバラされても平気なんですか?」
「!?」
いきなりあんまりな事を言われて言葉が出なくなった。突然何を言い出すんだこのアホ?
「ほら、嫌ですよね!」
「ちょっと待て、何で私がロリコンなんだよ」
「何知らばっくれてんですか、どう考えてもロリコンじゃないですか」
「身に覚えがないぞ」
「え、ガチで言ってます? 無自覚って、サチが言うのもなんですけどヤバくないです? 例えば学校でサチが座ってる時、太腿ジロジロ見てましたよね?」
「えーと、見てたような見てなかったような……?」
ちらっとは見たような気がするけど、そんなジロジロって程は見てない……ような?
「結構見てましたよ。顔は顔に向いてるのに、眼球は太腿を見てました。五秒に二秒は眼を見て、三秒は太腿見てましたよ。……それから、ちょいちょい私の髪の匂い嗅いでますよね?」
「いや、それは良い匂いするから思わずな」
「他の女の人相手だったらムッツリスケベレズで済んだんでしょうけど、サチにですからね? あとそれと、さすがにこれ言うのどうかなーって思ったんですけどもう言っちゃいますね」
まだ何かあるのか。正直これ以上はちょっと勘弁して欲しい気もする。
「繋いでるじゃないですか。その、サチの手を。……触り方、ちょっとキモいです」
「そろそろ泣くぞ」
「いいんですよ、サチは。何をしてもらっても。けど、こんな小柄でロリロリな娘にそれやってる自覚はして欲しいですよ?」
「心の傷が痛すぎてそれどころじゃねえよ」
そうだったのか。私はロリコンだったのか。とてもそんなあっさり受け入れられることじゃないな。
そんで私もスリーアウトだったのか。アウトカウントほぼ互角だったのか。
「聞くんじゃなかった」
「大丈夫ですよ、サチはお姉様がロリコンでむしろラッキーですから。遠慮なく何でもして下さいね」
そういう問題じゃないけど、サチの歪な優しさが心に染みる。ありがとう、と小さく言ったら、サチは微妙に苦笑いを浮かべた。




