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四話

「着いちゃいましたねえ」

「嫌なんかい」

 一応そう言ってみた所、サチは表情も変えずに答える。

「嫌ですよ。リオナお姉様と離れ離れになっちゃいますぅ」

「よくそんな心にも思ってなさそうなセリフがポンポン出てくるな」

「一応思ってますよ!」

「一応なんかい」

「いいじゃないですか。それともお姉様は、サチがもっとめんどくさい彼女だったりする方がお好みですか?」

「もう既に十分めんどくさいし、あとしれっと彼女になってんじゃねえよ」

「嫁?」

「他人だよ」

 サチは今度は分かりやすく頬を膨らませてみせた。

「あんまり好感度下げてくるなら、手っ取り早く監禁と洗脳でもしますよ?」

「アホな事言ってないでさっさといくぞ」

「ちぇー」

 そんな事は言ったけど、サチは下駄箱で素直に別れた。


 僅か二時間ほどで放課後。明日二時間遅くなっていいから今日も休みにして欲しかったな。

 約束は忘れてない。メールも確認した。後五分ぐらいかな。

 時間あるし、ちょっとトイレだけ行っとこうかな。

 帰ると自分の席にサチが座っていた。机に頬杖をついて不気味なほどにこやかに、ご機嫌な顔をしている。

「リオナお姉様にクイズです。何でサチはここでお姉様を待ってるんでしょうか? ちなみに舐め腐った回答したら罰ゲームもありますよ! ケツの穴にホース捩じ込んで口からクソ垂れるまで水流してさしあげます!」

「死ぬ系の拷問だろ、それ」

「良い答えすればいいだけですよ」

 満面の笑みでそうサチは言う。けど細められた眼の奥は一切笑っていない。本気で拷問しようとしているのが見て取れる。いや、むしろ拷問したがってないか、こいつ?

「……サチが来るのが早過ぎたからだな」

「……逃げようとした訳じゃないんですね」

「トイレ行っただけだよ」

「うーん、まあ忘れてた訳じゃなさそうですし、罰ゲームはなしにしてあげます!」

「そうしてくれ。さすがにこれでそんな拷問するって言われたら、拳で語り合うことになる」

「言葉より拳がお好みならお付き合い致しますけど、まあそれはまた追々ですかね。それより早く合鍵作りに行きましょうか」

 何で自分の合鍵を他人にあげるために作んないといけないんだろうな。まあそんな事は聞いたところでまともな回答が貰える訳ないだろうけど。

 学校を出てほんの二〜三分。行った場所は、古いマンションの一室だった。どう見てもお店とかではないと思うけど。

「こっちです」

 そのマンションの一室に案内される。

「じゃあ鍵お預かりしますね」

「お、おう?」

 入ってすぐの部屋に入れられる。テーブルとソファーぐらいしかない奇妙な部屋。カーテンは釘で打ち付けられていて開けることはできなくなっている。ソファーに座ると、サチに促され鍵を渡す。

「何があってもここから出ないでくださいね」

 サチが部屋から出ていくと、鍵がかかるような音がした。最初から出す気はないんだな。

 私がここにいる間に、どこかで作ってもらうのか? とも考えたが、サチは五分もしないうちに戻ってきた。どこかに行ったにしては早すぎると思うけど。

「お待たせしました。お返ししますね」

 一応チェックするけど、間違いなくさっき渡した鍵だし、何か細工された様子とかもない。

「なあ、ここは」

「聞かないほうが賢明ですよ」

「そうか」

 うん、こいつがそう言うなら聞いたらダメなんだろうな。少なくとも、私を害そうって意思は今のところなさそうだし、素直に聞いといた方がいいか。

「そうです! それより、この後お姉様のお家伺っても宜しいですか? ご家族は居ないんですよね」

 家族の情報も筒抜けか。

 本当にこいつは、下手に敵に回してはいけないと思う。ただの変態美少女ならとっくにぶん殴ってたと思うけど。本能が言ってるんだよな、絶対に敵対するなって。

 ただし、どこまで信用していいかも測りかねてるからなあ。

「帰ったらやる事が色々あるからなあ」

「家事ならサチがやりますよ?」

「できるん?」

「得意中の得意です! 特にお料理には自信ありますよ!」

「よし、こい」

 自慢じゃないが私はあんまり得意じゃない。不審人物を自分から招き入れるのはどうかと思うが、楽とうまいご飯のためなら良しとしよう。

「やったあ!」

「じゃあさっさと帰るか」

 サチを促して謎のマンションを後にする。何か気持ち悪いから長居したくなかったんだよな、あのマンション。家とか部屋っていうより、アジトというか拠点というか、そんな感じがして。

 ああ、そうだ。釘だけは刺しとかないとな。

「うちの家で変な真似すんなよ?」

「今日はしないでおきますよ」

「常にすんなよ」

「それは状況状況ということで。必要があれば、サチはなんだってしますからね」

「いつ何があるってんだか」

「いつか身を以て知る日が来るかもしれませんね」

 にこやかに笑いながら、含みを持たせたことをいう。ネタなのか本気なのか分からないから怖いんだよな。

「サチがいうと洒落に聞こえないな」

「洒落のつもりはないですよ。ただまあ、漫画みたいに謎の組織と戦うだとか謎能力バトルだとかにっていうのはないのでご安心を」

「厄介事は御免なんだけどな」

「極力ないように努力しますよ!」

「自覚ないのか、厄介事」

「はて、何のことやら」

 分かりやすく知らばっくれてるな。まあいいや。定期的に釘刺すのだけは忘れないようにしよう。

「頼むから家族に迷惑だけはかけないでくれよ」

「わかりました、サチは迷惑かけませんね」

 サチ以外の誰かがかけるとでも言いたいのか? 聞いてもどうせまともな回答は得られないだろう。せめて祈ろう。今後平和でありますように。

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