三話
「あ、そうだ。ちょっと頼みたいんだけどさ」
「はい?」
「多分今日はサチの方が終わるの遅いと思うからさ、何時ぐらいに終わるか分かったら連絡してくれる?」
「はい、わかりました! お安い御用ですよ!」
「じゃあちょっと連絡先交換しとこうか」
「大丈夫です、もう済んでます!」
「えっ?」
「お姉様の連絡先、もう登録してありますから!」
「なんで!?」
「ちなみにお姉様の携帯電話にも登録してますから」
「!?」
携帯電話を見ると、確かに宇品幸の名前が登録されていた。
「本当だ……どうやったんだ、これ?」
「勿論、乙女の秘密です!」
「こんなんそろそろ乙女の秘密で片付けていい問題じゃないだろ。プロの犯行じゃねえか」
にっこり笑って誤魔化そうとしてやがる。絶対に何か言う気ないな、これは。聞くだけ無駄なやつか。
「せめてアナログかデジタルかだけ教えてくれるか?」
「そうですねえ……そのぐらいならまあいいですよ! 今回はデジタルです!」
「つまり遠距離攻撃もできるのか」
「割と何でもできますよ! サチ、こう見えて努力家なんですから!」
「努力の方向間違ってんだよなあ」
実際、わざわざ変な真似しなくても、別に普通に聞けば普通に教えるのに。連絡先ぐらい。恋する乙女が空回ってんのか? それもギアニュートラルのまんまアクセルベタ踏みにしてる感じに。
「?」
当の本人はまた知らばっくれ始めてる。犯罪なのは承知の上だろうに。まさかほんとに何が悪いか分かってない訳じゃないよな。結構露骨だったし。
「とりあえず、いちいち非合法な手段に頼ろうとするのは止めなさい」
「心配しなくても、必要な時しかつかいませんよ?
「今回の二件はどっちもいらなかっただろ。いや、そもそも使うなっての」
「うーん、善処します」
全く善処する気なさそうな返事だけどまあいいや。あとやっぱ非合法なの承知の上なんだな。
「ちなみにサチは、何をどのぐらいできるんだ?」
「お姉様が何を言ってるのか分からないですけど、だいたいの事は上手にできると思いますよ」
「ふーん」
やっぱりそうそう図らせてはくれないかな。ただまあ話半分に聞いたとしても、個人情報の件と携帯電話の件はあるもんなあ。あれ、結構乱用してね?
「ちょっと聞いていいか?」
「はいなんでしょう、お姉様の質問なら下着の色から性感帯まで何でも答えますよ!」
「お前倫理観どこに捨ててきたんだよ」
「最初から見た事も食べた事ないですそんなもん!」
まあそりゃあそうだろうけど。何一つ真っ当な回答がなくて頭痛くなってくるな。
「そうじゃなくてよ、サチ、犯罪歴は?」
「ちょっと何を言ってるかわかんないですぅ」
濁したい時はすかさずぶりっ子してくるな。
「もうその手は通じないからな?」
「やだなあ、ただのパフォーマンスですよ。ほら、可愛いでしょ?」
サチが上目遣いで覗き込んでくる。性悪さとかに眼を瞑れば可愛いのは間違いないんだよなあ。何でこいつ、自分からその武器を台無しにする様な真似をしていくんだ?
「で、何か捕まった事とかあるん?」
「一応言っておきますけど、前も弁当もないですからね? サチ、何にも悪い事はしてないですから。そもそもサツにパクられるようなヘマしないですし」
「ああ、うん」
専門用語が多すぎてちょっとわからないけど、まあ捕まったことはないのか? 多分。
「そもそもサチだって、よっぽどの事がない限りわざわざ波風立てようなんて思いませんし」
「私もう既に最低二回被害にあってるけど」
「お姉様には特別です! お姉様にはなるべく隠し事したくないですし! もっと好感度上げてくれたら、サチももっと色々話しちゃいますよ!」
こいつ、何言っても何聞いても基本的にははぐらかそうとしてくるな。まああんまり大っぴらに言えない事の方が多いだろうから仕方がないんだろうけど。
「何も知りたくない気持ちと興味深い気持ちが半々ぐらいだな」
「知りたくないならいいですけど、好感度はちゃんと稼いで下さいね!」
「ほんと稼いでいいのか不安なんだよ」
「稼いで下さい! むしろ稼がないと悲劇が起こるかもです!」
変質ストーカーが言う、悲劇が起こるかあ。何だろう、殺されるかな、監禁されるかな、血を見る事になるかな。こっわ。
「好感度って何したら稼げるんだ?」
「それサチに聞いちゃいます? まあいいですけど。普通に仲良くしてくれてれば勝手に増えると思いますよ。それか性的な事してくれれば爆上がりだと思いますけど」
「いちいちエロに持ってこうとするなよ」
「愛とエロは互恵関係にあるもんなんですよ」
そういうもんなのかね。恋人がいたことのない私にはちょっと分からないな、そきょうれは。まあどっちでもいいけどさ。する気ないし。
「まあけどサチ、お前美少女で良かったよな。美少女じゃなかったら私とっくに通報してた」
「お側にいるの許された感じですかね」
「とりあえずはね。けどあんまりオイタするんなら、その時は考える」
「え? お姉様、命惜しくないんですか?」
「ちょっと今から考え直すか」
「やだなぁ、さすがに冗談ですよ」
本当に本当に、こいつ明るい美少女でよかったよなあ。なんていうか、まあいいやって思えるから。これが、このスキル持ちで暗くて気持ち悪い奴だったら私どうなってたんだろ。
やってることは非合法だけど、サチは正々堂々としてるからなあ。そういう真似ができることを隠さないというか。個人情報勝手に調べた事とかも隠してないし。
うん、こそこそしないっていうのは大事なんだな。まあ、そういう風に思考を誘導されてるんだろうけど。あいつ多分それくらいはやるだろうし。
あと最悪殴れるのがでかい。どこの誰か分からないと疑心暗鬼になりそうというか、そういうので神経やられそうだけど、私の場合犯人はサチって分かってて、やり過ぎたら殴る事もできるから。
それでもまだまだ様子見ではあるけどさ。




