1.魔力1判定
魔法ってすごい。だって、お空を飛べるんだもん。
高いお山よりも高く飛んで、雲の近くまで行けるなんて、とっても素敵だと思う。私もいつか飛んでみたい。どんな景色が見えるんだろう。
それに、魔法はきらきらしていて綺麗だ。夜になると、魔法の灯りが星みたいに輝いているし、お祭りで見る魔法の花火なんて、何度見ても胸がどきどきする。
火を出したり、お水を出したり、風を起こしたり。魔法使いさんたちは何でもできて、とっても格好いいの。
困っている人を助けることもできるし、遠くまであっという間に行くこともできる。
私も魔法が使えるようになったら、たくさん練習するんだ。お空を飛んで、いろんな町を見て、それから誰かの役に立てる魔法使いになる。
それでね、今日は魔法を使うために必要な魔力を測定する日。たくさん魔力があったら、たくさん魔法が使えるようになるみたい。
それを聞いて、神様に祈ったの。たくさん魔法を使いたいから、たくさん魔力を下さいって。ずっと、ずっと、ずーっとお願いしたの。だから、きっと叶えてくれると思う。
「さぁ、ルシア。行ってきなさい」
お父様が笑顔で私の背を押してくれる。私は神官様に駆け寄った。
「では、ルシア。この水晶に手を乗せてください。そしたら、魔力量が分かりますよ」
「はい!」
私の魔力……どれくらいあるかな? ドキドキしながら、水晶に手を乗せてみる。すると、水晶の中心がポッと光った。
「わぁ、綺麗! ねぇ、神官様。私の魔力量はどれくらいあるの?」
これだけ光ったんだから、きっとたくさん、たくさん、たーくさんあるに決まっているわ! ニコニコ笑いながら神官様の顔を見ると――その顔は曇っていた。
「……とても言い辛いのですが。ルシアの魔力量は――1です」
1? 一番ってこと?
「わぁ、お父様! 私の魔力は一番だって! 凄いよね! 神様にお願いしたからかな?」
後ろにいたお父様に抱き着いて、顔を見上げる。すると、お父様の顔も曇っていた。そして、しゃがみこんで私の肩を掴んだ。
「……よく聞くんだ。魔力が1ということは、魔力が一番ではないのだよ」
「え? 一番じゃ……ないの?」
「魔力がね――凄く少ないということなんだ」
私の魔力……少ないの?
「で、でも! 魔力があるから魔法が使えるよね? たくさんの魔法を使えないかもしれないけど、魔法は使えるよね?」
魔力が沢山なくても大丈夫! 魔力があるんだから、魔法は使えるはず。
すると、お父様が私を抱きしめた。とても強く、だけど震えていた。
「大丈夫。絶対に魔法を使えるようにする。ルシアの夢を叶えてあげるから」
◇
それから、私は魔力を高める方法をたくさん試した。
魔力が増える薬草を飲んだり、魔力が増えると言われる宝石を身に着けたり、教会でお祈りをしたり。
だけど、一年経っても、二年経っても、私の魔力量は1のままだった。何度測り直しても結果は変わらない。
魔力が1でも魔法が使えるかも! そう思って、魔法の練習を始めた。
講師を雇って、一から魔法を学ぶ。ちゃんと現代魔法の座学を身に着けた後、とうとう魔法を使う時が来た。
「さぁ、魔法を使ってください」
「はい」
教えられた通りに魔法を発動させようとした。魔力の感じがする、だから大丈夫! そう思って発動させると――何も起こらなかった。
えっ、どうして? 理論も完璧。魔力操作だって出来た。なのに、どうして魔法が発動しないの?
「魔法よ、出ろ! ……出て!」
何度も魔力操作をするが、手からは火の粉一つも出ない。水の一滴も出ない。風の感触もない。
「お願い、出て! 魔法! 魔力、あるでしょ!」
必死に懇願して魔法を発動させる。毎日、毎日。来る日も来る日も魔法を発動させた。でも、一度だって発現したことはなかった。
どうして……? 魔力はあるんだよね?
本当に少しだけかもしれないけれど、それでもゼロじゃない。なのに、どうして魔法が使えないの?
分からなかった。分からないまま、時間だけが過ぎていく。
最初は講師も励ましてくれた。まだ幼いからだとか、練習が足りないだけだとか、そのうちできるようになるとか。
でも、何か月も経つ頃には、その言葉も少なくなっていった。代わりに聞こえてきたのは、現実だった。
魔力1。
それは少ないというレベルではない。最底辺。歴史上でもほとんど例がないほどの低さ。
現代魔法を扱うために必要な最低基準にすら届いていない数値。つまり、私は最初から魔法使いになれない存在だった。
その事実を知った時、頭の中が真っ白になった。
お空を飛びたかった。きらきらした魔法を使いたかった。誰かを助けられる魔法使いになりたかった。
ずっと夢見ていたのに。頑張れば叶うと思っていたのに。努力すれば届くと思っていたのに。届かない夢もあるのだと、初めて知った。
それから、一人で部屋に閉じこもった。大好きだった魔法の本を開いても、もう胸は躍らなかった。
そこに書かれているのは、自分には決して使えない力だったから。ページをめくるたびに、胸が苦しくなる。
魔法使いたちの活躍を見るたびに、眩しくて目を逸らしたくなる。
私は魔法が使えない。どれだけ願っても。どれだけ努力しても。どれだけ手を伸ばしても、届かない。夢は叶わない。
――そんな時、私は出会った。
「ルシア、こんな本があるんだが……」
お父様はそっと本を隣に置いた。何かと思い、表紙を見てみると――。
「古代魔法?」
使えなかった現代魔法じゃない。昔の魔法が記された本だった。
興味を惹かれて本を開く。そこには一本の小さな杖が描かれていた。
「古代魔法はね、杖を介して魔法を使っていたんだ。杖は補助装置として機能されていて、少ない魔力でも強い魔法が使えたらしい」
少ない魔力でも、魔法を使える? それが本当なら――私でも魔法が使えるようになるかも。
杖の先から魔法を放って、キラキラした魔法が発動して、見たことのない景色を見させてくれるかも。そしたら、空だって飛べるようになるかも。
絶望に染まっていた私の心が、また動き出した。
やっぱり、私は――魔法が使いたい!




