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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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98/107

98大人気の連載雑誌の世界に転生したら投票一位のキャラクターの幼馴染に転生していた

ざまぁなし

 昨夜、ちょっと気合が入って夜遅くまで起きていた。寝起きはあまりよくない。


「よく寝た」


 あくびをする。起きるのがあまり得意ではない。朝日に目を細めながらベッドから這い出た。もそもそと。ここは見慣れたアパートの部屋。


「うーん」


 特に変わったところはない。はずなのに毎日がちょっとだけ違うのは隣に住んでいる幼馴染のせいだ。こちらから聞こえたそれ。


「ん、うるせぇな」


 耳から聞き慣れたもの。低い声が聞こえて隣の部屋に住むケアがまだ寝ていることを知る。別に起こそうとしたわけじゃないんだけど声が聞こえちゃったなら仕方ない。

 自然と出てきた。


「おはよー、ケア」


 壁越しに声をかける。かすれ声なのは致し方ない。返事は案の定むにゃむにゃとしたものだった。まあ、いつものことだ。ふふふ、と笑みが溢れる。

 自分は前世の記憶を持った転生者。まさかあの『TWO TIME』の世界にいるなんて最初は信じられなかったけど幼馴染がケアだと知った時にはもう、色々と諦めた。


「ああ」


 いや、諦めたっていうかむしろちょっと面白がってる自分がいる。だってあのクールな男が、コルルティナの前では結構だだっ子になるんだから。


 部屋から出て隣へ。トントン、と軽くドアを叩くとしばらくしてケアが不機嫌そうな顔で出てきた。


「起きた?」


 声をかけた。寝癖で跳ねた黒髪が美貌を少しだけ崩している。それもまた、自分だけの特権だと思っていた。


「なんだ」


 可愛い。


「朝ごはん、一緒に食べない? 昨日パン屋さんで美味しそうなの買ったんだ」


 コルルティナが言うと、ケアは少しだけ顔をしかめた。


「別に、お前と食わなくても」


 照れ隠しだっ。


「え〜、ひどくない? 幼馴染の頼みじゃん」


 腕を組んでぷうっと頬を膨らませてみせる。あざといと思わないで欲しい。これも、世の中を渡るため。ケアはため息をつきながらも視線を逸らした。


「まあ、別にいい」


 やった! 彼の「別にいい」はほぼイエスだ。長年の付き合いでその辺の機微はもう完璧に理解していた。

 幼馴染特権というやつ。二人で食卓を囲み、パンを頬張りながら他愛もない話をする。


「でね」


 ケアは相変わらず口数は少ないけれど、時折見せる優しい眼差しが溺愛ぶりを物語っている。あの、勇者候補が。前世の記憶があるコルルティナからするとギャップが面白くて仕方ない。

 これぞ幼馴染属性かな。冷徹な一面はどこへやら、こちらのことになると過保護なくらい心配するんだから。


「今日、街まで買い物に行こうと思ってるんだけどケアも一緒に行かない?」


 誘う。


「なんでおれが」


 否定はするが。


「だって、重いものとか持ってくれるでしょ? あと、危ない目に遭わないように見張っててくれるじゃん」


 最後の言葉にケアは露骨に顔を赤らめた。


「別に、お前が勝手にフラフラするからだ」


 言い訳っぽいよ。


「ふーん、心配してくれてるんだ」


 にやにやしながらそう言うと、ケアはますます顔を赤くしてそっぽを向いた。


「そんなんじゃない」


 でも、彼の耳がほんのり赤いことは見逃さない。結局、この後ケアはぶつぶつ文句を言いながらもコルルティナの買い物に付き合ってくれることになる。


 そして、可愛い雑貨を見つけてきゃっきゃとしている横で、彼は呆れたような。でも、どこか優しい眼差しで見守ってくれるのだ。


「まだ買い終わらないのか」


 ああ、前世で苦労した分本当に幸せだなぁ。


「もーちょい」


 隣にいる不器用で優しい幼馴染のおかげで、コルルティナの毎日はいろんな意味でドキドキと、そしてほんわかとした温かさに満ちているのだから。


「ほら、行くぞ」


 先に立ち上がったケアの背中に笑顔で応えた。


「はーい!」


 今日もまた、二人だけの穏やかな日常が始まる。そして、彼の溺愛っぷりは今日もきっと全開だ。


 帰り、猫見つけて持ち帰りたいと粘り勝ちして、彼が頻繁に部屋へ出入りすることになるとは予想してなかったけど。

 さらに関係が良くなったというメリットに、猫へ笑いかけたりする緩んだ顔は二人だけの秘密。


 ね!




 我が家のケアは本誌で、読者から日帰り勇者と呼ばれていた。肩書きはなにもないけれど、気まぐれで冒険者の仕事をする。

 けれど、ありえないくらい強い。そのため、しょっちゅう高難易度のお仕事を振られるらしいが。

 その度にソロで、その日のうちに終わらせる。即日依頼しか受けず、護衛なんてもってのほか。


 王女が漫遊旅行に行きたいと言うので、護衛を王様が頼んでいると聞いている。しかし、旅行の日程が二日以上なので、彼は断固断っているらしい。王女はケアの顔に惚れているらしく、護衛をあきらめない。諦めればいいのに。

 下手に王命にすると、周りや本人から恨まれると理解している王のおかげで今のところギリギリ怒りを買ってない。ただ、綱渡り状態なだけ。


 いい加減、王も自分の娘を咎めないと怒りを本格的に浮上させるんだけど、そこのところどうなのかと思う。


「あの、女っ!ベタベタと!」


 ケアが毛を逆立てるようにぶつぶつ文句を積み上げていた。依頼で王城に行ったら例の王女に出会ったらしい。そして、べたりと腕を引っ付けて離れないから振り切ってきたのだという。

 それにより、王城からの依頼を受けないことに決めたのだとぶすくれ?。そんなことをして平気なのかと聞く。


「おれの力がないと解決できないとほざきながら、おれに迷惑をかけてくるやつの身内など困っておけばいい。永遠にな」


 腕を組み、鼻をフッと鳴らす。深い語りに聞こえる。確かに王はまず身内をどうにかしてから彼に依頼するのが、けじめである。

 それのに、知っていて依頼してくるのは断られる原因にもなろう。コルルティナに愚痴をこぼす男は溜め息と共に苛立ちを吐き終わる。


「もし、あの王女がお前に会おうしたりしたら、その時点で一緒に出て行くぞ。王にも王妃にもそのウマは告げてるしな」


「えええ。そんなぁ」


「別にいいだろ!美味しいパン屋のある街にしてやるから!」


 彼はこちらの不満を吹き飛ばし、決めた。まあ、別に一つの街に括る必要はないからいいんだけど?でもなぁ。負けたみたいで、都落ちの行動も嫌かも。


「負けっぱなしもやなんだけど」


 むむむ、と返す。あなたは強いのだからと目で伝えている。王女などという小物にどけさせられるのも、どうなのだ。

 人気投票キャラクターの第一位なのにっ。こちらはガンとしてその力でおも知らせるべきなのでは?すごすご、逃げても追いかけてくるかもしれないのに。


「英雄を追い出した話でも流布させりゃ、いいだろ?」


「本当にそれで威厳とか、品位とか落ちる?」


 理屈じゃ意味ないのだがね?


「悔しいかもしれないが、逃げは負けじゃない」


 それほど、彼女に向かい合いたくないとな。それなら仕方ない。品位を相手に落としてもらおう。

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