96推しキャラに会うために体を張る人が世の中にはいるということだ。今日から経理としてお世話になりますルルージュですよろしくお願いします!
ざまぁなし
深々と夜の帳が下りた地区。コンテナの影から現れたのは、漆黒のスーツに身を包んだ男、アイヴァンだった。鋭い眼光は、夜の闇をも切り裂くようだ。
彼はこの街の裏社会を牛耳る、冷酷なボスとして恐れられていた。アイヴァンの知られざる一面を知る人物がいる。
名をルルージュという。昼間はどこにでもいるような、明るく朗らかな女性だが、彼女には誰にも言えない秘密があった。
夢中になってプレイしていたアプリゲームクライム・オブ・エンパイアに登場する、最強のボスキャラクター暗黒卿アイヴァン。過去の世界でのゲームの中の存在。
ゲームの世界で、その圧倒的な力とカリスマ性に魅せられたルルージュは、現実世界のアイヴァンを知った時、信じられない衝撃を受けた。画面の中の存在がこんなにも近くにいるなんて。
いてもたってもいられなくなった彼女は、一念発起する。アイヴァンが経営する謎の会社に、経理として潜り込むという行動に。
「えっと、今日から経理としてお世話になります、ルルージュです!よろしくお願いします!」
緊張しながらも、持ち前の明るさで挨拶するルルージュ。アイヴァンは新入りを訝しげに見つめた。裏社会の人間にとって、明るすぎる彼女は異質だった。
「……お前が経理か。まあいい。仕事はきちんとこなせ」
アイヴァンの低い声に、ルルージュは内心ドキドキしながらも、満面の笑みで答えた。
「はい!精一杯頑張ります!」
こうして、ゲームの世界の推しのそばで働くという、ルルージュの奇妙な日常が始まった。
電卓を叩きながら、時折見せるアイヴァンの横顔に、ゲームの中の彼を重ねては胸を高鳴らせる。
もちろん、現実のアイヴァンはゲームのような優しい言葉などかけてくれないし、むしろ常に。
ピリピリとした雰囲気をまとっている。それでも、ルルージュにとっては、同じ空間にいられるだけで幸せだった。
ある日、会社の帳簿に不審な点を見つけたルルージュは、勇気を出してアイヴァンに報告した。
「あの、社長。この数字なんですけど、少し合わないような気が……」
いつもなら面倒くさそうにするアイヴァンが、その報告に意外な反応を示す。
「どれだ?」
ルルージュが指し示す箇所を、アイヴァンは真剣な眼差しで見つめた。すぐに不正を見抜き、迅速に対処したのだ。冷静で的確な判断力は、まさにゲームの中の暗黒卿そのものだった。
「助かった。よく気づいたな」
普段は厳しいアイヴァンからの、珍しい労いの言葉に、ルルージュは顔を赤らめた。
「い、いえ!当然のことをしたまでです!」
経理の仕事を通して、ゲームの中では見えなかったアイヴァンの知性。
組織を率いるリーダーシップを目の当たりにするにつれ、ルルージュの尊敬の念は増していく。もちろん、裏社会のボスとしての冷酷さや、時折見せる恐ろしい一面に触れることもある。
それでも、彼女の中でアイヴァンは、ただのゲームキャラクターではなく。複雑な魅力を持つ一人の人間として、その存在感を増していった。
夜の帳が下りた裏路地。普段は冷酷な眼光を宿すアイヴァンの瞳が、今は不思議な光を帯びていた。
彼の背には、使い込まれた風貌の剣が携えられている。裏社会のボスというより、むしろ熟練の冒険者のようだった。
「まさか、お前がダンジョンに興味を持つとはな」
アイヴァンは、少し呆れたようにルルージュに言った。アイヴァンが時折姿を消す理由が異世界のダンジョン探索にあると偶然知ってしまったのだ。成り行きで彼に同行することになった。
「だって、ゲームの世界みたいじゃないですか!それに、アイヴァンさんの冒険者としての姿、見てみたかったです!」
ルルージュは、目をキラキラさせながら答えた。アイヴァンは憧れのゲームキャラクターであり、同時に現実世界のボス。彼が、剣を手にダンジョンを探索する姿は、想像するだけで胸が高鳴った。
二人が足を踏み入れたダンジョンは、じめじめとした空気。奥深くから聞こえる不気味な音で満ちていた。壁には奇妙な紋様が刻まれ、足元には得体の知れない植物が生えている。
「油断するな。ここは何が起こるかわからない」
アイヴァンは低い声でルルージュに注意を促しながら周囲を警戒した動きは洗練されており、長年の経験を感じさせる。
ダンジョンの奥へ進むにつれて、様々な魔物たちが姿を現した。巨大なムカデのような魔物や、鋭い爪を持つ獣人。ルルージュはゲームの中ではお馴染みの魔物たちに、現実世界で遭遇して震え上がった。
「ひゃあ!」
悲鳴を上げるルルージュをアイヴァンは冷静に庇いながら、手にした剣で魔物を斬り倒していく剣捌きは無駄がなく、一瞬で魔物の動きを封じる。ゲームの中で最強のボスとして君臨していた彼の強さは現実世界でも健在だった。
「後ろにいろ。お前は魔法の準備でもしておけ」
アイヴァンの指示に、ルルージュは慌てて魔法の詠唱を始めた彼女はゲームの中で魔法使い系のキャラクターをよく使っていたため、簡単な魔法なら使うことができる。
「フレイム・バレット!」
ルルージュが放った炎の弾丸は、魔物に向かって一直線に飛んでいく威力はそれほど高くないものの、魔物の動きを牽制するには十分だった。そんな隙にアイヴァンが素早く間合いを詰め、魔物に致命的な一撃を与える。息の合った二人の連携で、次々と魔物を退けていく。
ルルージュは、ゲームの中ではただ見ているだけだったアイヴァンの戦いを。間近で見ることができて、感動していた。彼の冷静な判断力、研ぎ澄まされた感覚。仲間を守ろうとする強い意志。
ゲームのキャラクター以上に、彼女の心を強く惹きつけた。ダンジョンの探索を進めるうちに、二人は奇妙な宝箱を発見。アイヴァンが慎重に蓋を開けると、中から眩い光が溢れ出した。
「これは……?」
光が収まると宝箱の中には美しい輝きを放つ宝石と、古びた一枚の地図が入っていた。
「どうやら、このダンジョンの奥には、まだ何かがあるようだ」
地図を広げ、ルルージュと共にその内容を吟味する。地図を頼りにダンジョンの奥へと進んだ。
道はさらに険しくなり、現れる魔物も強くなっていく。冷静に剣を振るい、護りながら進んだ。覚えたての魔法で援護する。
二人は協力して、罠を避け、魔物を倒し、少しずつダンジョンの深層へと近づいていった。やがて、開けた空間に出る。見たこともないような巨大な魔物が待ち構えていた。
アイヴァンはその魔物を睨みつけ、剣を構える。ルルージュも、魔法を発動する準備を始めた。
「来るぞ」
アイヴァンの声が、静かに響いた。二人の、新たな戦いが始まる。巨大な魔物は、地響きを立ててアイヴァンたちに襲いかかってきた。
鋭い爪と、太い尻尾が、容赦なく二人を薙ぎ払おうとする。アイヴァンは素早く身をかわし、魔物の懐に潜り込んだ。
研ぎ澄まされた剣が、魔物の硬い鱗を切り裂き、深手を負わせる。詠唱を終えた強力な魔法を放った。炎の奔流が魔物を包み込み、激しい熱で焼き焦がす。
魔物は苦痛に叫び、暴れ回ったがアイヴァンとルルージュの連携の前に徐々に力を失っていく。最後はアイヴァンの一撃が魔物の急所を貫き、巨体は崩れ落ちる。静寂が戻った空間で、アイヴァンは軽く息をつき、ルルージュに視線を送った。
「……まあまあだな」
相変わらず素っ気ないが労わるような響きがあった。ルルージュはほっとした笑顔をアイヴァンに向ける。
「アイヴァンさんこそ、やっぱり強いですね!」
二人は、互いに無事を確かめ合い、再びダンジョンの奥へと歩き出した。冒険はまだ終わらない。ダンジョンの奥深く、ひっそりとした場所に古びた宝箱が置かれているのを見つけた。
埃を被り、所々錆び付いているが、不思議なオーラを放っている。アイヴァンは警戒しながら近づき剣で周囲を警戒した。ルルージュもいつでも魔法を発動できるように身構える。
「何かいるかもしれない」
アイヴァンは低い声でルルージュに告げ、慎重に宝箱の蓋を開けた。中には、キラキラと輝く宝石と、見慣れない模様が描かれた小さな箱が入っている。
宝石は息をのむほど美しく、ルルージュは思わず目を奪われる。アイヴァンは小さな箱を手に取り、注意深く観察した。
「これは……何かの鍵か?」
箱には鍵穴があり、独特な形をした鍵穴だった。二人は顔を見合わせる。ダンジョンには秘密が隠されているようだ。
アイヴァンは鍵穴に合う鍵を探したが、見当たらない。宝石は確かに価値がありそうだが、今はそれよりもこの小さな箱の中身が気になった。
「無理に開けるのは、危険かもしれない」
アイヴァンはそう言って、箱を丁寧に自分の懐にしまった。宝石はルルージュに一つ手渡す。
「お前が持っておけ」
予期せぬ贈り物に、ルルージュは少し戸惑いながらも、嬉しそうに宝石を受け取った。宝箱の周囲には、特に変わった様子はない。二人は再びダンジョンの探索を続けることにした。宝石を受け取ったルルージュは、目を輝かせる。
「わあ、綺麗!ありがとうございます、アイヴァンさん!」
普段は厳しいアイヴァンからのプレゼントに、ルルージュの顔はパッと明るくなった。宝石を手のひらで大切に包み込み、様々な角度から光を当てて眺めている。表情は子供のようだ。
「こんな素敵なもの、初めて見ました!」
ルルージュは、満面の笑みでアイヴァンを見上げた。笑顔はダンジョンの暗闇を忘れさせるほどで。冷淡な表情も少しだけ和らいだように見えた。
「……別に大したものではない」
言いながらも、ルルージュから目を逸らした耳がほんのわずかに赤くなっているのを見逃さなかった。
(照れてる……!)
ルルージュは心の中でそう思い嬉しくなった。
厳しいけれど、時折見せるアイヴァンの優しさが嬉しい。宝石を大切にポケットにしまい、足取りも軽く、冒険への期待に胸を膨らませま。




