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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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94/106

94 お母様に向かって何てことを?泥を啜るように偽聖女と父たちへ絶望させる魔王の妻であり婚約者は息子という前世を持つ女はやれやれとなる

「地味で面白みのないお前との婚約を破棄する。聖女キュリーアと共に、真の愛に生きることにした」


 魔界と人間界の親善パーティ。当代の魔王ドォーイは目の前で聖女の腰を抱き、傲慢に言い放ち、実家の両親も勝ち誇ったように笑う。なんと酷いパーティーか。


「シシエネヌ、お前のような魔力なしは我が家の恥だ。魔王様に捨てられた以上、居場所はないと思え」


 頭の中で何かがパチンと弾けた。


(……はぁ?誰に向かって、面白みのないと?)


 脳内に奔流のように流れ込む、数千年前の記憶。当代の魔王ドォーイの魂の源流。つまり、幼少期に死に別れ、最強の王へと導いた魔王の母の記憶がある。


「……ドォーイ。あなた随分と偉くなった……もの……ね?」


 声のトーンが変わったことに、会場がざわつく。

「何だその態度は!私はな、魔王だぞ!」


「魔王?ふふふ!笑わせないで。夜尿症おねしょが治らなくて膝で泣いていた子が、よくもまあレディに向かって婚約破棄なんて言葉を使える」


 ドレスの裾を翻し、一歩また一歩とドォーイに詰め寄り彼が反射的に放った魔力の波動は肌に触れた瞬間に、母親の愛情という名の絶対防御によって霧散。


「な……魔力が効かない!?お前何者だ!?」


「母親の顔を忘れたバカ息子には鉄拳制裁が必要みたい」


 優雅な動作のまま、魔王の頬を思い切り張り倒した。


 ――パァァァンッ!!


 魔界最強の男が一介の令嬢に殴られ、床を転げ回る。


「ぎゃああ!痛い!なんだこの痛みは……魂に直接響く……があ!」


「当然。心を込めて殴ったんだもの。……正座なさいドォーイ」


 冷徹な笑みを浮かべて指示すると、母親としての威厳に抗えず魔王はガタガタと震えながら正座したそこへ、王宮の奥底から地響きのような魔圧が迫る。


「愛しい妻の気配がする。温かさは間違いない」


 現れたのは当代魔王の父にして、妻を亡くしてから数千年も狂気に沈んでいた、前魔王カイサンド。


「ちちちち父上!?ななななな、なぜここに!?」


 カイサンドは息子など目に入らない様子で駆け寄り、膝をつく。


「シシエネヌ……き、君なのか?私を置いて逝ってしまった唯一の太陽……」


「ただいまカイサンド。息子がこんなバカに育っているなんて教育が悪かったんじゃない?」


「……あっ!!申し訳ない。君がいない寂しさで育児を疎かにしてしまった。……おい、ドォーイ。貴様今、シシエネヌになんと言った?今さっきのことだ。忘れるなんてバカを晒すなよ?」


 カイサンドの瞳が深紅の殺気に染まる。


「い、いや、これは、その……親善のための冗談で……ほんの!」


「黙れ。妻に婚約破棄を突きつけた大罪により今日から貴様は魔王を退位し、地下牢で道徳を学び直せ」


「え、はあああああ!!?父上〜!?」


 それからの展開は迅速で。元婚約者、息子ドォーイは王位を剥奪され、母親の己のの監視下で毎日「お母様、私が悪うございました」と一万回唱える修行の日々。

 聖女キュリーア。魔王の権力にすり寄っていただけの彼女は激怒したカイサンドによって魔力を封印され、教会の雑用係に。

 実家の両親も魔王の母親を虐げたという罪で全財産を没収。今は路地裏で「シシエネヌは本当は良い子だったんだ!」と虚しい弁明を繰り返しているとか。


 カイサンドに文字通り妻として愛される毎日を送る己。


「シシエネヌ、もう君を離さない。足が汚れないよう国の道すべてに絨毯を敷かせた。食事も私が一口ずつ運んであげよう」


「カイサンドやりすぎ。子供じゃないんだから」


「いいや、君がいなかった数千年の空白を埋めるにはこれでも足りないんだ。……今夜は君を愛で満たすために特別な離宮を用意した。誰にも邪魔させない」


 独占欲全開の抱擁に苦笑しつつ、息子が地下から上げる悲鳴をBGMに極上のプリンを口にする。


「……あ、ドォーイ。正座、あと三時間追加」


「ひ、ひぃぃぃぃ!母上ぇぇ!ゆるじでえええ!」


 魔王ドォーイを正座させ、前魔王カイサンドの腕に抱かれたシシエネヌ。視線の先には腰を抜かして震える聖女キュリーアと、シシエネヌの実父である公爵の姿が。


「まままま、待ってくれ、シシエネヌ!お前が前魔王様の最愛の女性だったなんて知らなかったんだ!全部、キュリーアが自分こそが運命の女だと唆したせい!」


 公爵は醜く這いつくばり、実の娘であるはずのシシエネヌに媚を売るが、シシエネヌの瞳には冷たい軽蔑しかない。


「お父様見苦しい。魔力なしだと判明した時、豚小屋に放り込もうとした時、私の家族は死んだ」


 シシエネヌが指先を向けるとカイサンドが冷酷に命じる。


「男の爵位を剥奪し、全財産を没収しろ。これからはシシエネヌが過ごした物置部屋がお似合いだ。死ぬまで無価値な自分を呪え。八つ裂きにしたいのだがな」


「ひっ、あああ……!」


 次にシシエネヌは真っ青な顔で後ずさりをするキュリーアを見据えた。


「キュリーア、うーん、あなたの聖女の力……実は私が人間界にいた時に無意識に漏れ出した魔力をペンダントが吸い取っていただけだし、返してもらう」


 手をかざすとキュリーアの首飾りが粉々に砕け散り、聖なる光がこちらへ還ってくる。キュリーアの肌は瞬く間にくすみ、自慢の美貌は見る影もなく衰える。


「嫌ぁぁ!力が!顔がぁぁ!」


「魔力を奪われた偽聖女など魔界の魔獣たちのいい餌。連れて行け」


 カイサンドの合図で醜く叫ぶキュリーアは衛兵たちに引きずられていった。邪魔者が消えた広間でカイサンドはシシエネヌを後ろから強く抱きしめた。腕の力は、二度と彼女を逃がさないという執着に満ちている。


「クズどもに言葉をかける必要はない。唇は私を呼ぶためだけに使え」


「たく……カイサンド、みんな見てる」


「関係ない。ここは私の国。私のすべては君のもの。そして、君のすべては私のものだ」


 カイサンドはシシエネヌの首筋に深く、吸い付くようなキスマークを刻んだ。世界中の誰にも彼女を渡さないという宣言。


「これからは毎日君が望むものをすべて与えよう。宝石、ドレス、世界そのものでもいい。君が微笑むなら、神すら殺してみせる」


 自分を捨てた者たちの絶望の声を遠くに聞きながら、カイサンドの熱すぎる溺愛に包まれる。ホッとした。


「あなたの愛はちょっと重すぎる」


「ふ、足りないくらいだ。数千年分の渇きを今夜からじっくり癒させてもらう」


 苦笑しながらも最強の男からの情熱的な口づけを受け入れ、新しい人生の主役として華やかに笑った。

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