91幸運の女神をゴミ箱に捨てた一族の末路。お前が我が家にいては不運が伝染するから今日限りで縁を切るので野垂れ死ぬなり好きにしろなんてよく言えたものだ
「お前が我が家にいては不運が伝染する。今日限りで縁を切る。野垂れ死ぬなり好きにしろ」
父が投げたのは一通の絶縁状とわずかばかりの銅貨が入った袋。私の名前はミールル。伯爵家で不運を招く呪われた子として、物置小屋で育てられてきた。
庭に出れば花が枯れ、歩けば鏡が割れることで一族は私を忌み嫌い、妹のヌリサだけを祝福の聖女として愛でていた。
「お姉様さようなら。不運を私がすべて吸い取ってあげましたからあなたはもう空っぽの抜け殻ですわ」
ヌリサが勝ち誇ったように笑う。
私は何も言わず、泥にまみれた足で屋敷を後にした。
「……ようやく重荷が取れた」
森の入り口で深く息を吐いた。実は本当の能力は不運を招くことではない。
周囲のすべての不運を自分の体に無理やり吸い込んで無効化するという、世界で最も過酷な身代わりの能力だ。
庭に出れば花が枯れたのは土地の病を吸い取ったから。鏡が割れたのは家族に降りかかるはずだった事故を、鏡を媒介にして肩代わりしたから。家を出た瞬間、頭の中に響く声が。
肩代わりリミッター解除。蓄積された不欲、マイナスエネルギーの返還を開始します。返還先は元寄生対象の伯爵家一族。
「返しただけ。私が持っていた、あなたたちの分の不幸を」
三ヶ月後にはミールルは隣国の辺境で、小さな薬草店を開いていた。触れる薬草は不運という毒や病を吸い取られることで、瞬時に万能薬へと変わる。
「ミールルさん今日も助かったよ!あんたが来てから村から病人が消えた!」
村人の笑顔に囲まれ、ミールルはふわりと淡く微笑む。そこへ、ボロボロの馬車がガタガタと音を立てて店に突っ込んできた。
「ミールル!ミールルはいるか!」
馬車から転がり出たのはかつての父。
だが、姿は無残。顔中にできものが走り、豪華だった服は腐りかけ、目は血走っている。後ろからは髪が抜け落ちて老婆のようになった妹のヌリサが震えながら這い出してきた。
「ん?お父様……かな?」
ミールルは自分が向けたのと同じ、感情の消えた瞳で彼らを見つめる。
「お前がいなくなってから我が家は呪われた!隕石が屋敷に落ち、井戸からは血が湧き、投資はすべて失敗した!お前が何かしたんだろう!すぐに解け、これは命令だ!」
父がミールルの靴に縋り付く。手はミールルを何度も打ち据えた手。
「いいえ、何もしていません。ただ……ええ、あなたたちが私に押し付けていたものをお返ししただけですから」
「返しだと……?」
「私がいたからあなたたちは普通でいられた。ゴミ箱のように飲み込んでいた、あなたたち自身の報いです」
ミールルは冷たく言い放ち、店の奥から一本の薬草を取り出した。それは、一族が最も欲しがる幸運のハーブ。
「これがいりますか?」
「ああ!それをくれ!それがあれば、またやり直せる!」
父が必死に手を伸ばすが、ミールルはその指先でハーブを粉々にすり潰した。
「わん!」
ミールルは店の隅で寝ていた看板犬の頭を撫でながら、独り言のように呟いた。
「不幸こそが今のあなたたちの唯一の所有物です。一族で分け合って、仲良く苦しんでください」
「ミールルぁぁ!待ってくれ!助けてくれ!」
絶叫する父と醜く歪んだ顔で泣きじゃくるヌリサ。看板を下ろし、店の扉を静かに閉めた。鍵をかける音が一族への最後のお別れの合図。
後日、一族が住んでいた領地はあまりの不運の連続により地図から消えたというニュースが国中を駆け巡ることになる。




