90追放されたけど人生逆転。鉄仮面の騎士団長は肉汁の虜になるし元家族たちは破滅したらしいと聞いた
「本当に無能。泥臭い料理ばっかり作って、聖女の品格がないわ、?」
響く高い声。目の前で扇子をバサリと広げているのは、妹のガロンヌだ。
豪華なドレスに身を包み聖女という顔をしているけどできるのは、魔力で見栄えのいい光の粒を振りまくこと。
「魔力を練り込んだものです」
ガロンヌは鼻で笑った。
「 婚約パーティーではいい魔法が必要なの」
記憶を持っているブラック企業の社員食堂で、朝から晩まで包丁を握っていた栄養士であり料理スキルを持っていた。
派手な攻撃魔法や治癒魔法だけが力とされるので、料理を作るだけは無能扱いされてきた。
パーティー当日、手柄として発表され会場からは「ガロンヌ様!」「料理を出すなんて!」と称賛の嵐。
「お前をこの国から追放する」
父である公爵。
「妹がいたら邪魔なの」
魔物がうようよいるという国境の森に放り出され森の入り口で大きく伸びをした。清々しい気分だったし、こっちから願い下げだし。
周囲の食材を鑑定すると手際よく落ちている枝を集めて火を起こし、アイテムボックス取り出した鍋を火にかけた。
湧き水に食材を放り込み、魔力をじっくりと馴染ませていくと森の中にあり得ないほど芳醇な、黄金色の香りが立ち込めた。
木のスプーンで一口、熱々のスープを。
「……失礼。その香りの正体を聞いてもいいかな?」
ガサリと草むらが揺れて、一人の少年が現れた。おっとりした垂れ目の優しそうな顔立ち。着てる服は隠しきれない高級感が漂っている。
「ただのスープ」
「ただのスープ……?」
トコトコと歩み寄ると鍋をじーっと見つめた瞳は、深淵を覗き込むような真剣さ。
「……お願いだ。一口僕に分けてくれないだろうか。香りを嗅いで胃袋がこれを飲まなければ一生後悔すると告げているんだ」
断れる雰囲気じゃなくて、予備のカップにスープを注いで渡したら手で口に運ぶ。
「…………っ!!」
一口飲んだ瞬間、目を見開いて固まった。叫んだり暴れたりするわけじゃない。ただ、ボロボロと大粒の涙を流し始めたのだ。
「……ああ。脳が揺れる。全身の魔力が、この一杯で完全に調律されていくのがわかる」
「えっ、泣くほど!?」
「君。名前は?」
「チーナですけど……」
「チーナさん。僕は隣国の皇太子グーワンナ……今すぐ国へ来てほしい。無能と呼ぶ者がいるなら、国の連中の舌は腐っている。君の手は、世界を救う宝」
おっとりした口調だけど目は「絶対に離さない」と言わんばかりの強い光を宿していた。静かなる食いしん坊グーワンナとの出会い。グーワンナに連れられ、隣国へ向かうことになったチーナ。
道中には「絶対に一口も食べない」と豪語する超偏屈な騎士団長が立ち塞がるが「ふん、料理ごときで何が変わるというのだ……えっ、何このハンバーグ。肉汁が爆発した?」と言い仲間に加わったりした。楽しい旅はまだまだこれからである。




