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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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89/108

89追放されたシステムエンジニア令嬢の復讐~アイテムボックスは王国の物流を握る断罪された贈り物。国内最大手の輸送ギルドの長の男爵の娘も許さない~

 王城の大広間。輝くシャンデリアの下、第一王子フルスーは公爵令嬢ゼリーアンを軽蔑の眼差しで見つめていた。


「ゼリーアン・クロード。貴様との婚約を、今この時をもって破棄する」


 手に持っていた革の設計図を巻き戻した。


(ふーん?ついにこの時が来た)


 前世の記憶を持つ異世界転生者。前世では大手物流企業のシステムエンジニアだったが世界で、魔力とロジスティクスの知識を融合させて容量無制限、時間停止機能付きのアイテムボックスを開発していた。


「理由を述べて、フルスー殿下」


「理由だと?貴様が開発した下品極まりない空間収納箱、アイテムボックスだ!王国の誇る伝統の馬車輸送ギルドを愚弄し、何百年も続く輸送産業の秩序を破壊する邪悪な技術!」


 フルスーの隣には国内最大手の輸送ギルドの長、バルトロメイ男爵の娘が勝ち誇った顔で立っていた。家族は、アイテムボックスが普及すれば即座に破産する立場。なるほどね。


「ゼリーアン様。空間収納箱とやらは、我が国の立派な馬車の隊列を否定するものです。王国の威厳は重厚な馬車が運ぶ物資によって示されるべきです」


「威厳?それは非効率。馬車の輸送には何週間もかかり、食糧は腐り、輸送コストは莫大。アイテムボックスがあれば、遠隔地への食糧輸送も軍事物資の補給も一瞬で完了します」


 冷静に説明したがしかし、フルスーは鼻で笑う。そういうところですが?


「一瞬の技術は職人の誇りを踏みにじる!貴様は金儲けのために伝統を破壊する、下賤な商人と同類。よって王都を追放する。二度と王国の物流に携わるな!」


「承知いたしました。婚約破棄と追放を全て受け入れます」


 深々と一礼してから最後の確認をした。


「開発したアイテムボックスの技術の特許、設計図、試作品は個人財産として持ち出すことを許可していただきます」


 フルスーは蔑んだ目で革の設計図を見た。


「勝手に持っていくがいい。誰も必要としないカビ臭い技術だ」


 こうして世界を変える技術を全て持ち、王都を後にし、向かった先は南にあるエテルニア商業連合。国は王族が直接商業を指導し、効率と利益を最優先する国。

 エテルニアの女王に直談判する。


「女王陛下。国の物流を一週間から一秒に変える技術を持っています」


 ゼリーアンは試作品のアイテムボックスを取り出し、目の前で実験してみせた。巨大な兵器、大量の食糧、繊細なワインを瞬時に収納し、別の場所から瞬時に取り出す。

 しかも、時間停止機能で鮮度は完全に保たれていることに、女王は光景を見て目を見開いた。


「これは……まさしく神の技術!」


 女王はゼリーアンの価値を即座に理解した。


「ゼリーアン・クロード。貴女をエテルニア商業連合の最高責任者として迎える。技術提供の対価として国営の瞬時輸送ギルドの運営権と収益の五十%を永久的に貴女に与えよう」


 ゼリーアンはすぐにエテルニア全土にアイテムボックス技術を導入した。遠隔地の特産品が隣町から来たかのように新鮮なまま、王都の市場に並んだ。流通コストが激減して物価は安定した。

 採れたての食糧がすぐにアイテムボックスに保存されて一年中、最高の鮮度で提供されるようになって兵站に革命が起る。

 最前線の部隊に瞬時に大量の食糧、弾薬、医療品が補給されるようになり、軍隊の機動力が劇的に向上しエテルニア商業連合の経済力と軍事力は、わずか一年で隣国を圧倒する水準にまで達した。


 一方、ゼリーアンを追放した元の王国のアランテス王国では状況は悪化の一途を辿っていた。

 輸送ギルドはゼリーアンの技術を排除したことに満足していたが、彼らの古い馬車輸送システムは高騰する燃料費と人件費、商品の腐敗により、機能不全に陥っている。


「食糧の到着が遅れ、前線で兵士が飢えているだと!?」


 フルスー王子は王宮で激怒していた。


「申し訳ありません殿下。馬車隊が大雨で泥濘にはまり、補給物資が到着するのにあと2週間かかります……はい」


 輸送ギルド長であったバルトロメイ男爵が脂汗を流しながら報告するが、さらに追い打ちをかけるように隣国エテルニアが国境付近での軍事演習を活発化させていく。

 エテルニアの軍隊は補給ラインが無限であるかのように休みなく動き続け、アランテス王国の軍隊を圧倒する。


「エテルニアの兵站はどうなっている!物資が空から降ってくるかのように全く疲弊しない!」


 誰もがエテルニアがもつ瞬時輸送ギルドの存在を肌で感じていた。そして、最も深刻だったのは王都の生活。

 新鮮な食糧が届かず物価は高騰し、民衆の不満は爆発寸前ということ。フルスー王子はようやく理解した。ゼリーアンが開発した下賤な技術こそが、現代の王国を支える最も重要なインフラだったのだと。


 冬が到来しアランテス王国の国境守備隊は、凍死と飢餓で撤退を余儀なくされた。フルスー王子は国王の命を受け、最も屈辱的な任務を負うことになる。下賤な商人と追放したゼリーアンに技術提供を懇願することを。

 フルスーはエテルニア商業連合の中心都市にある、ゼリーアンの瞬時輸送ギルド本部へと向かう。ギルドの本部は巨大な魔導コンピュータと、忙しく働く技術者たちで溢れていている。目に手を当てる面々。


 誰もが清潔な制服を着ており、活気に満ちている応接室でフルスーは待っていた。現れたのは、公爵令嬢ではない王族よりも高貴なオーラを放つ女王のような女。


「フルスー殿下ようこそ。わざわざ下賤な商人のギルドまで何の御用でしょう」


 ゼリーアンの声は冷たく事務的だったがフルスーはプライドを全て捨てて、跪いた。


「ゼリーアン許してくれ!愚かだった!貴女の技術が王国の命運を握っていたと、今理解した!頼むアランテス王国を救ってくれ!」


「救う、ですか?貴方は技術をカビ臭い下賤なものと罵倒し、追放しました。なぜ救わなければならないのですか?なぜ?」


「私と婚約を……やり直す。貴女を未来の王妃として迎える!」


「ぷっ!あはは」


 冷たい笑みを浮かべた。


「王妃?私はもうエテルニアの女王の片腕です。王妃という非効率な地位に何の魅力も感じません。汚い地位に。地味ですし?ぷっ」


 ゼリーアンはフルスーに一枚の契約書を突きつけた。


「アランテス王国を救う方法は一つ。救援ではなくビジネスですですね」


 アイテムボックス技術のライセンス料としてアランテス王国の年間税収の四十%を、今後五十年間にわたり、瞬時輸送ギルドに支払うこと。アランテス王国の軍事、食糧を含む全ての国内物流と輸送技術の管理権をギルドに完全委託すること。

 輸送ギルド長バルトロメイ男爵、および追放に関わった貴族全員をギルドの雑務係として辺境の物流拠点に派遣すること。生ぬるいが。


「なっ……よ、四十%!それでは王国はエテルニアの経済植民地になってしまう!」


 フルスーは絶望的な叫びを上げたがゼリーアンは冷徹に言う。


「王妃の地位と一瞬のプライドのために、国全体の命運を危険に晒した代償です。効率と技術を軽視した罰は命を救うという最大の価値で支払っていただきますよ。こちらもだいぶ譲歩してあげてるんです」


 フルスーは王国の崩壊と目の前の屈辱的な契約のどちらかを選ばなければならなかった。震える手でペンを握り、サインをした。

 契約後、瞬時に輸送ギルドはアランテス王国の物流を掌握して数週間で滞っていた食糧や軍事物資は全て補給され、王国は飢餓の危機から脱した。

 しかし、王国の経済はギルドの支配下に置かれたことにより、フルスー王子は王位継承者としての権威を失う。毎日、ギルドに送る膨大なライセンス料の計算に追われる日々となった。


 一方、元輸送ギルド長のバルトロメイ男爵と娘は、辺境の物流倉庫でアイテムボックスの在庫管理という雑務を泥にまみれて行っている。ゼリーアンはエテルニア女王の片腕として二つの王国にまたがる巨大な物流網を、遠隔で管理していた。


「物流は国の血液であり命運です」


 アイテムボックスは知識と技術が、古い伝統や傲慢なプライドよりも遥かに価値があることを証明したのだ。王都に向けて新たに開発したばかりの高速なアイテムボックスの輸送網を敷き始めて、世界を支配することになった。

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