86銀色の鱗を持つ小さなドラゴンがふよふよと浮いているそれが愛し子特典として与えられた聖龍のヘイスであり相場だ。本当はかわいい
ざまぁなし
夜明け前の森に、柔らかな光が差し込んでいた。平民ながらも、女神の愛し子として異世界に転生したキュロー。生まれたばかりの小さなドラゴン族の姿で、真新しい世界に瞳を瞬かせた。
彼女の隣には、銀色の鱗を持つ小さなドラゴンがふよふよと浮いている。それが、愛し子特典として与えられた聖龍のヘイス。
「おはよ、キュロー様!」
ヘイスはぷいと横を向いて言う。耳の先はわずかに赤く染まっている。キュローはそんなヘイスのツンデレぶりに思わず微笑んだ。
「おはよう、ヘイス。今日も元気だね」
キュローの言葉にヘイスの尻尾がピコピコと揺れる。初めて会った瞬間からキュローに一目惚れしたヘイスだが。
素直になれない性格はキュローにとって微笑ましく、見ていて飽きないものだった。ドラゴン族の里は深い森の奥、光が降り注ぐ聖域に広がる。皆、純粋で温かい心の持ち主ばかりだ。
キュローが何か新しいことを試みれば、彼らは瞳を輝かせ、まるで自分のことのように喜び、感動する。ある日、キュローが初めて火を吐く練習を始めた時、里のドラゴンたちは遠巻きに見守っていた。小さな炎がキュローの口からこぼれ落ちた瞬間、彼らは一斉に歓声を上げる。
「キュロー様が火を!すごい!」
「なんて素晴らしいんだ!」
ヘイスもまた顔を真っ赤にして拍手している。
「……別に普通だよ。キュロー様なら当然、これくらいはできる」
そう言いながらも、ヘイスの瞳はキュローへの尊敬と愛情でいっぱいでキュローはまたしてもクスリと笑ってしまった。里ではどんな小さなことでも皆で分かち合い、喜び合える。そんな温かいピュアに囲まれて、キュローは安心して世界での生活を楽しんでいた。
季節は巡り、キュローは少しずつ成長していた日。里の長老から珍しい薬草が群生する光の泉への道が危険な状態にあることを知らされる。里の幼いドラゴンたちの病を治すために欠かせない薬草が採れる場所。
「キュロー様私が行ってきます!」
ヘイスはすぐさま名乗り出た。長老は首を横に振る。
「ヘイス、お前の力は確かに素晴らしい。だが、光の泉への道は最近、凶暴な獣の群れが現れるようになったのだ。一人で行くのは危険すぎる。」
キュローはじっと話を聞いていた。
静かに立ち上がる。
「私も行きます。ヘイスだけじゃなく、私もみんなのために何かしたいんです」
長老は驚いたようにキュローを見つめた。ドラゴン族の愛し子とはいえ、まだ幼いキュローを危険な目に遭わせたくない気持ちと純粋な心に応えたい気持ちが交錯する。
「キュロー様!」
ヘイスは心配そうにキュローを見つめるが、キュローの固い決意の瞳に何も言えなくなった。翌朝、キュローとヘイスは、里の皆に見送られながら光の泉へと出発。道中、ヘイスはキュローを常に気遣い少しでも危険を感じるとすぐにキュローの前に立ちはだかる。
「キュロー様、僕の後ろにいてください!」
「ありがとうヘイス。でも、私もちゃんと周りを見てるから」
キュローはヘイスの優しさに感謝しながらも、自分の力で道を切り開こうとしていた。深い森の中を進むうちに動物たちの気配が途絶え、不穏な空気が漂い始め現れた。警戒するように唸り声を上げ、キュローたちを取り囲む。
ヘイスは、迷わず前に飛び出した。銀色の鱗を輝かせ鋭い爪で獣たちに立ち向かう。数は多く、ヘイス一人では限界があった。キュローの瞳に、強い光が宿った。小さな体からまばゆい光が放たれる。
「これでっ」
女神の愛し子として彼女に与えられた、まだ見ぬ力の一端。光は獣たちを怯ませ、彼らは一斉に後退していく。
「キュロー様……すごい……!」
ヘイスは呆然とキュローを見つめたキュローの放った光は、獣たちを追い払うだけでなく傷ついたヘイスの小さな体に、温かい癒しの光を届ける。
獣の群れを退け、二人は無事に光の泉へと辿り着いた。泉のほとりにはきらきらと輝く薬草が群生している。キュローは慎重に薬草を摘み取り、ヘイスは彼女の隣で、ただただ感動の眼差しをしていた。
里に戻ったキュローとヘイスをドラゴン族の皆が盛大な拍手と歓声で迎える。摘んできた薬草で幼いドラゴンたちの病はすぐに回復し、里は再び活気に満ち溢れる。
「キュロー様本当にありがとう!」
「キュロー様は私たちの誇りだよ!」
里の者たちはキュローの周りに集まり、口々に感謝の言葉を伝える。ヘイスは、そんなキュローの隣でどこか誇らしげな顔をしていた。
「……別に、僕がほとんどやったんだから。キュロー様はちょっと手伝っただけ」
そう言って、ぷいと顔をそむけるヘイスの耳はやっぱり赤く染まっている。キュローはそんなヘイスのツンデレぶりに、またしても微笑まずにはいられなかった。光の泉での出来事をきっかけにキュローは自分の中に眠る女神の力を少しずつ自覚し始めていた。
光の泉での冒険から数ヶ月が経ち、キュローは里の皆ともすっかり打ち解けていた午後、幼いドラゴンたちが集まって、しょんぼりしているのがキュローの目に留まる。
「どうしたのみんな?」
キュローが尋ねると一番小さな子がしょんぼりした声で答えた。
「今日、お昼寝の時間だったのに面白いこと何もなくて……」
それを聞いたキュローはふとあることを思いついた。前世で見た人を楽しませる手品というもの。女神の愛し子としての力を使えば、きっと彼らを笑顔にできるはず。
「じゃあ、キュローが面白いこと見せてあげようか?」
キュローがにっこり笑うと子どもたちの目がきらきらと輝いた。ヘイスはキュローの隣で腕を組み、いつものようにツンとした表情。
「……キュロー様が一体何をするっていうんだか」
キュローはまず手元にあった小石を一つ拾い上げた。
「よく見てて」
小石を掌で覆いゆっくりと手を開くと、そこには色とりどりの小さな花が咲き乱れていた。
「わぁあああ!」
子どもたちの歓声が響き渡る。ヘイスも思わず目を見開いた。
「すごい!」
「お花だー!」
キュローは続ける次に空っぽの木の実の殻を取り出した。そこに魔法をかけるように手を振る。すると、殻の中から甘い蜜が溢れ出し、あたりに優しい香りが満ちた。
「おいしそう!」
「いい匂い!」
子どもたちは目を輝かせながら蜜をなめ、その甘さに歓声を上げた。ヘイスは最初は「……別に、これくらいはできるさ」と呟いていたものの。キュローが次々と繰り出す不思議な現象に、次第に言葉を失っていった。
彼の尻尾は、キュローの動きに合わせてフリフリと忙しく揺れ動いている。最後にキュローは両手を広げ、小さな羽根を宙に舞わせた。羽根は生きているかのようにくるくると舞う。やがて、様々な動物の形に変化して、子どもたちの周りを飛び回る。
「きゃー!」
「かわいい!」
子どもたちは大喜びで動物の羽根を追いかけ回した様子を見て、ヘイスの顔にもついに隠しきれないほどの笑顔が浮かんだ。
「……キュロー様は本当にすごいんだから」
ヘイスは誰にも聞こえないような小さな声で呟いた瞳は愛情と尊敬でいっぱいで、キュローの姿を真っ直ぐに見つめている。キュローの手品は大成功。子どもたちはそれからも「キュロー様、また面白いこと見せて!」とねだり。
皆を笑顔にできることが嬉しかった。




