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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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84/107

84ゼロの出来損ないは野垂れ死ねと言ったわよね?親孝行として実家の加護をすべて持って消えてあげます。って、あれ?返事がない?

「お前のような無能、我が家の恥だ。今すぐ汚い顔を消せ」


 豪華なシャンデリアが輝く食堂。父、ブワーログ公爵の冷酷な声が響いた。傍らでは母が汚らわしいものを見る目で見下し、妹のセリアが勝ち誇ったように笑っている。


「お姉様、魔力測定がゼロだなんて。魔力がない人間は家畜以下の価値しかないのよ?お父様、お母様〜早くこのゴミを森に捨ててしまいましょうよ」


 何も言わず冷めきったパンの耳を最後の一口として飲み込み、静かに立ち上がる。温かかったはずの家も今は、腐った箱に見える。


「……分かりました。父上。母上。期待通り、死の森で野垂れ死んでまいります」


「ふん、自覚があるならいい。二度と汚い足を我が家の敷地に入れるな」


 一礼し、着の身着のままで屋敷を後にした背後でセリアの甲高い笑い声と、父の「やっと厄介払いができた」という安堵の声が聞こえた。彼らは知らない。生まれた時から持っていたゼロという測定結果の意味を。

 魔力はないのではなく、あまりに純粋で巨大すぎて人間が作った安物の魔道具では器が足りず、針が一周回ってゼロと表示されていただけだということ。

 何よりも、公爵家が代々繁栄の家と呼ばれ、不自然なほど豊かな実りを得ていたのは、庭を歩くたびに無意識に漏れ出していた至高の浄化の力によるものだということを。


「自由獲得クエスト完了」


 視界の端に私にしか見えないシステムウィンドウが浮かぶ。


【クエスト完了……自由の獲得】


 報酬は真の聖女の権能・解放。追加処理……実家へ提供していた浄化の加護の強制回収を実行しますか?


「もちろん全部回収」


 その瞬間、体から透明な光が溢れ出し、屋敷の方角から何かが引き剥がされる感触がした。ぶちりと。それが、虐げ続けた彼らへの最初の親孝行。


 半年後にはブワーログ公爵家の領地は、文字通り地獄へと変貌していた。


「なぜだ!なぜ作物がすべて腐る!井戸からは泥水しか出ん!セリア、お前の魔力でなんとかしろと言っているだろう!」


 父の怒号が響くが、天才と称えられたセリアの魔力は線香花火ほどの光すら発せない。加護を与えていた本元が去ったことで、領地を包んでいた浄化の結界が消滅し、溜まりに溜まった土地の淀みが一気に噴出したのだ。

 屋敷は黒いカビに覆われ、使用人たちは次々と逃げ出し栄華はどこにもない。隣国の帝国から一騎の伝令が届く。


「帝国に現れた真の聖女様による周辺諸国の視察が行われる。不浄な土地を浄化してくださるそうだ」


「聖女様!聖女様なら解いてくださるはず!」


 父と母、セリアは最後の大逆転を信じて、ボロボロの服を隠しながら国境の街道へと這い出していった。やがて現れたのは純白の白馬に引かれた、宝石を散りばめたような豪華な馬車と周囲を固めるのは帝国の精鋭騎士団。


「聖女様!どうかどうか我が公爵家をお救いください!」


 泥まみれになりながら父が馬車に縋り付くと馬車の窓がゆっくりと開いた。そこに座っていたのは半年前に無能と蔑み、森に捨てたはずの娘。


「ひ……っ!?」


 母が悲鳴を上げた。セリアはあまりの衝撃に言葉を失い、へなへなと地面に座り込む。見違えるほど艶やかな髪をなびかせ、以前よりもずっと輝く瞳で、実の親を見下ろした。隣には、相棒である喋る犬イトスが退屈そうに欠伸をしている。


「……お父様お母様。お久しぶりです。教え通り、森で野垂れ死ぬ準備をしていましたけれど……あいにく、精霊たちに気に入られてしまって」


「あ、ああ、お前!良かった、生きていたか!すぐに屋敷に戻るんだ!汚れを払え、命令だ!」


 必死に親の権威を振りかざそうとする父。それを、冷めきった料理を眺めるような目で見つめ、システムウィンドウを操作した。


「嫌ですよ。ゼロの出来損ないですから何もできません。」


 優雅に最高級のチョコレートを口に運んだ。泥を啜るような惨めな姿の彼らに、トドメの言葉を贈る。


「力は帝国の繁栄のために使われています。一滴たりとも、あなたたちに分ける余裕はありません。親孝行として、あなたたちが愛した淀んだ土地と一緒にそのまま土に還ってください」


「待て!行かないでくれ!助けてくれえええ!」


 絶叫する父の手が馬車を掴もうとするが、帝国の騎士たちが無造作に蹴り飛ばした。馬車は汚れを撒き散らす彼らを置き去りにし、軽やかに進み出す。バックミラーに映る彼らの姿は人間というより、喋る泥。


【システムメッセージ】


 実家関係者の絶望度百二十パーセントを達成。後続クエスト、滅びゆく故国の買い叩きが解放されました。


「国で採れる最高級の果実を添えましょうか」


「いいな。クズの涙で育った果実ほど甘くて美味しいものはないからな」


 微笑み、二度と後ろを振り返らなかった。人生はここから、新しく最高に甘く始まるのだから。

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