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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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83/106

83役に立たない者は必要ないどこへでも好きに生きていけ我が家の家名を名乗ることを禁じると言った彼らは以前の傲慢さはなくなりヨレヨレで疲れ切った男に見えぶつぶつ何か言うから声をかけることなく静かに去った

追放

 明るい声が響く中で、彼女だけが影のようにいつもいつも孤独にさせれていた。


「もう役に立たないのならば必要ない。どこへなりとも、好きに生きていけ。我が家の家名を名乗ることを禁じる」


 夕焼け空が赤く染まる頃、父であるバルトロ侯爵か冷酷な言葉を突きつけれた。広大な侯爵家の庭園に一人立ち尽くす足元には、使い古された小さな鞄が一つ転がっている。

 信じれなかった。一体何が起こったというのだろうか。


 バルトロ侯爵家の一人娘として、何不自由なく育ってきたはずだった。優しい母、温厚な兄たち、少し厳格だけれど愛情深い父。それがココナーテの知る家族だった。


 数日前に父の態度は急変し、理由も告げられぬままココナーテに対する風当たりが強くなっていた。今日、ついに宣告を受けたのだ。


「お父様、一体どういうことですか?私が何かしましたでしょうか?」


 震える声で問いかける娘に、バルトロ侯爵は冷たい視線を送るだけ。


「お前のような出来損ないがこの家にいる価値はない。二度と私の前に現れるな」


 兄たちも母でさえも、誰も庇おうとはしなかった。


 最初かココナーテなどいなかったかのように、無関心な表情を浮かべている。心は絶望と悲しみでぐちゃぐちゃになった。これまで信じてきた家族は一体何だったのだろうか。

 温かいと思っていた家は冷たい牢獄だったのだろうか?涙が溢れて止まらない。ここで立ち止まっているわけにはいかない。


 追い出された以上、自分で生きていくしかないのだから。ぐっと拳を握りしめ、鞄を拾い上げた。振り返ずに歩き出す。夕闇が迫る中、小さな影は広大な侯爵家から遠ざかっていく。


 あてもなく歩き続けた数日後、見慣れない小さな村にたどり着いた。疲れと空腹で限界。村の入り口で力尽きて倒れこんでしまう。意識が途切れる寸前、優しい声が聞こえた気がした。


「大丈夫ですか?」


 次に目を覚ました時、見知ぬ部屋のベッドに寝かされていた。そばには心配そうな表情を浮かべた若い女性が座っている。


「あなたは……?」


 掠れた声で問いかけると女性はにっこりと微笑んだ。


「私はヤヤメ。この村で小さな食堂をやっています。あなたが倒れているのを見つけて、運んできたんです」


 ヤヤメは親切に身の上を尋ねた。全てを話すのはためらわれたが自分が家を追い出されたこと、行く当てもないことを正直に伝えておく。話を静かに聞いてくれた後、言った。


「もしよかったら、しばくこの村に身を寄せてはどうかしら?うちの食堂も人手が足りないし」


 ヤヤメの温かい申し出に涙が止まらなかった。見ず知らずの自分にこんなにも優しくしてくれる人がいるなんて。こうしてココナーテはヤヤメの食堂で働くことになった。

 最初は慣れないことばかりだったが根気強く教えてくれ、料理の腕も少しずつ上達し、ヤヤメや村の人々の温かさに触れることで心が癒されていった。


 食堂での仕事は忙しかったが充実した日々。ヤヤメは明るく、いつも励ましてくれた。村の人々も親切で仲間として受け入れてくれる。


 そんなある日、村に一人の旅人がやってきた。漆黒の髪に吸い込まれるような深い青色の瞳を持つその男性は、どこか人を惹きつける魅力を持っている。ルイミスと名乗った。

 珍しい薬草を探してこの村に立ち寄ったという。ヤヤメの食堂の料理を気に入り、しばく村に滞在することしたらしい。

 話すうちに、彼がただの旅人ではないことに気づく。知識は豊富で物事を見る視点も鋭い。貴族かな?


 時折見せる、憂いを帯びた表情が心を惹きつけた。ルイミスはココナーテの境遇を知ると述べる。


「君はもっと強く、もっと輝けるはずだ」


  ハッとした。悲しみに暮れているだけでは何も変わらない。いつか自分を追い出した家族を見返してやりたいという強い思いが、芽生え始めた。


 ルイミスは様々なことを教えてくれる。読み書き、計算、少しばかりの剣術。スポンジが水を吸い込むように、ルイミスから知識や技術を吸収していく。


 数ヶ月後、見違えるほど成長していた。料理の腕は上がり、機転も利くようになる。瞳には自信と強い意志。


 ある日、村に騒ぎが起こる。なんと、バルトロ侯爵家の者たちがココナーテを探してやってきたというのだ。驚く。心臓は激しく鼓動した。

 こんな形で再会するとは。現れたのはココナーテの兄であるキュビス。以前と変わず冷たい表情で見下ろした。


「父上がお呼びだ。お前を連れて帰る」


「帰りませんよ」


 はっきりと拒絶した。


「私はもうあなたたちの家族ではありません」


 キュビスは言葉に驚いたような表情を浮かべた。


「何を言っているんだ?お前は侯爵家の娘だろう!」


「過去の肩書など何の意味もありません。追放されたのに娘、などと言うのは都合がよすぎます」


 ルイミスに教わった強い眼差しでキュビスを見据えた。


「私はここで、自分の力で生きていくと決めたのです」


 キュビスは変わりように言葉を失っていた。以前のおどおどとした妹はもうどこにもいない。目の前にいるのは、強い意志を持った一人の女性がいるだけ。


「お前、変わったな……」


 キュビスは呟くのが精一杯らしい。その時、ココナーテの隣にルイミスが静かに立った。


「彼女は一人で生きていくと決めた。邪魔をするな」


 ルイミスの威圧感にキュビスはたじろいだ。ルイミスの只者ではない雰囲気に気づいたのだろう。ヘタレなのだろうな、元々。

 結局、キュビスは連れ帰ることを諦め、侯爵家へと戻っていった。



 数年後、ココナーテはルイミスと共に王国の重要な使節団の一員として、故郷に近い都市を訪れていた。

 ここまでのなんやかんやは、色々あったと察してほしい。うん。

 ルイミスは地域の領主との間で重要な交渉を行う任を担っており、ココナーテは補佐を務めていた。


 使節団が到着したという知せは、瞬く間に故郷とバルトロ侯爵家にも届く。

 侯爵夫妻とキュビスは、ココナーテがこのような重要な立場で戻ってくるとは夢にも思わず、動揺を隠せない。自業自得の因果応報。交渉の場には地域の有力者たちが集まった。


 その中に憔悴しきった様子のバルトロ侯爵夫妻と、以前の傲慢さがすっかり影を潜めたキュビスの姿もある。

 ココナーテを一目見ようと、もし可能ならば関係を修復しようと必死だったのだ。浅ましさしかない。彼らに気づかないフリをして、ルイミスの隣で冷静に交渉の様子を見守っていた。


 堂々とした立ち振る舞いと、時折見せる鋭い意見は周囲の尊敬を集めている。交渉が一段落した休憩時間。バルトロ侯爵が意を決して、ココナーテに近づく。


「ココナーテ……ひ、久しぶりだな。立派になった、な」


 以前のような居丈高な態度はなく、声はかすれていた。隣に立つ侯爵夫人も目に涙を浮かべて見つめている。声をかけられた彼女は冷たい眼差しで二人を一瞥。


「侯爵様、侯爵夫人。ご無沙汰しております」


 娘のような親愛の情は微塵も感じられなかった。キュビスも言葉をかけようとしたがそれを遮る。


「あなたたちに、話すことは何もありません。以後、関係のない私語で話しかけないでください」


 冷淡な態度に侯爵夫妻は言葉を失う。周囲の貴族たちは二人の様子を興味深そうに見る。

 権勢を誇った侯爵家が、今や落ち目であることを誰もが知っていた。ヒソヒソ。

 ココナーテを追い出した報いなのだと彼は内心で囁き合った。少し違うけれど、彼らには大差のない誤差なのだろう。


 交渉後、ルイミスはココナーテにそっと耳打ち。


「少しは気が晴れたか?」


 微笑んだ。


「いいえ、まだ足りません」


 数日後、使節団はバルトロ侯爵領を通過することになった。ルイミスは領主への挨拶という名目で、侯爵家を訪問することを決める。

 侯爵家ではバルトロ侯爵夫妻とキュビスが、憔悴した面持ちで二人を迎えた。豪華な邸宅はどこか活気がなく、寂れた印象を受ける。ルイミスは形式的な挨拶を済ませると、本題へ。


「侯爵、あなたの領地では近年、不正な税の徴収や住民への圧政が問題になっていると聞いています」


 バルトロ侯爵は顔面蒼白になった。


「そ、そんなことは……ないです」


「証拠は揃っています」


 ルイミスは冷徹な声で告げた。


「王国の法に照らし合わせれば重罪です」


 侯爵夫妻とキュビスは絶望の色を浮かべた。ココナーテが王国の中枢で力を持つようになった今、自分たちの不正が明るみに出ることを恐れていたのだ。その時、ココナーテは静かに口を開いた。


「私がこの家を追い出された時、あなたたちは私を役立たずと罵りましたね。自分の価値は自分で決めるとあの時、誓ったのです。ね?誇らしいですよね?立派になって戻ってきた娘ですよ」


 言葉は侯爵夫妻の胸に深く突き刺さった。

 自分たちが犯した過ちが今、自分たちに報いようとしている。ルイミスはさらにグッと追い打ちをかけた。


「今回の件は王国にも報告されます。侯爵家の今後の処遇は、王の判断を仰ぐことになるでしょう」


 バルトロ侯爵は膝か崩れ落ちた。侯爵夫人とキュビスも立ち尽くす。そんな三人を一瞥することもなく、ルイミスと共に侯爵家を後にした。

 心には微かな懐かしさとともに、過去への決別があった。


 ふわりとなんやかんやの中身を、少しだけ回想する。ルイミスと共に王国の発展に貢献する道を選んだ。

 魔法の才能とルイミスの知識。これは二人が多くの困難を乗り越える力となるから。


 バルトロ侯爵家は徐々にその地位を低下させていった。ココナーテがいなくなったことで家の運営は傾き、周囲からの信頼も失っていったのだ。


 さらにさらに数年後。ルイミスと結ばれ、温かい家庭を築いた。過去を知る人は幸せを心から祝福する。

 過去の苦しみを乗り越え、自分の力で幸せを掴む。

 理不尽な扱いを受けながらも、決して諦めなかった彼女の強さと新たな出会いを大切にした心が、未来を切り開いたのだ。


 夕焼け空の下、ルイミスと手をつないで歩く表情は穏やかで満ち足りていた。


 一方、バルトロ侯爵家は不正の数々が明るみに出て、領地と爵位を没収されたとか。栄華は見る影もなく、一家は辺境へと移り住むことを余儀なくされた。

 仕方ない。顛末を人づてに聞いたが特に感慨を抱くことはなかった。彼女にとって、過去はすでに清算済みの出来事。


 ココナーテとルイミスはその後も王国の発展に大きく貢献し、国民から深く尊敬される存在となる。

 魔法の才能は国の防衛や魔法技術の発展に不可欠であり、ルイミスの政治手腕は国内外の安定に大きく寄与した。


 二人の間には可愛しい子供たちが生まれ。温かい家庭を築き、穏やかな日々を送るココナーテの笑顔は昔あった苦難を、微塵も感じさせないほど輝いていた。


 ある日、街中で偶然、落魄れた様子の元家族のキュビスを見かける。

 以前の傲慢さはなくなり、ヨレヨレで疲れ切った男に見えた。ぶつぶつ何か言っている。声をかけることなく静かに通り過ぎる。


 それは元家族、元妹なりの決済。過去の恨みを糧にするのではなく、自分の手で掴んだ幸せを大切に生きていくため前進あるのみ。

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