80有名な異世界転生を自分がするなんて信じられなかった。創造スキルは万能で念じれば頭の中に設計図が浮かび必要な材料と魔力を消費して現実に作り出すことができる
ザマァなし
「え、私が転生……ですか?」
目の前に立つ、白いモフモフの生き物、自称案内人を前に小学校低学年くらいの見た目になった自分が首を傾げた。
交通事故で呆気なく人生を終えたと思ったら、次に目覚めたのはフカフカのベッドの上。どこだろうと見たところ、目の前に居た。どうやら異世界に転生したらしい。
「はい!あなたは創造スキルを授けられ、この世界の発展に貢献していただきます!」
モフモフが元気よく言う。創造スキル?
なんだろうそれ。そんなこちらをよそにモフモフはさらに続ける。
「あなたには特別な才能があります!現代知識と技術を再現できるのです!」
再現ねぇ。なんだか面白そう。楽しいならばと引き受けた。
転生先は貴族……とまではいかないけれど豊かな商家の末娘、名前はサミュ。優しいお父さんとお母さん、ちょっと過保護な兄が二人。
前世の記憶、常識もごちゃ混ぜで最初は戸惑うばかり。でも、創造スキルは万能。念じれば頭の中に設計図が浮かび、必要な材料と魔力を消費して現実に作り出すことができる。
「かかかかか、硬い!歯が折れるっ」
まず手始めに作ったのはふわふわのパンだ。こちらの世界のパンは硬くてパサパサで口には合わない。
「パンを何がなんでも作る」
前世で食べた高級食パンを思い出し、小麦粉とイースト菌、牛乳とバターを組み合わせて。
「できた!」
焼きたてのパンの香りに家族全員が目を丸くした。
「サミュ、これは一体……!?」
父が震える声で尋ねる。
「美味しいよ、お父さん」
「え、ウマー!!!」
「うますぎる!」
「うまうまうまー」
母は無言で誰よりも先に食べ終えていた。家族みんなが焼きたてのパンに感動してくれたのが、最初の成功体験。次に目をつけたのは衛生環境。
「不衛生かも」
石鹸は泡立ちが悪く、洗濯も一苦労。前世の記憶を頼りに油と苛性ソーダ(に似た素材)を組み合わせて固形石鹸を作り出した。
「すごいです!さらさらです」
「洗ったらさっぱりします」
泡立ち抜群の石鹸は家族だけでなく、使用人たちにも大好評。お風呂の時間が格段に快適になる。家族を巻き込み好き勝手やる。
「よし、次は不便なところを書き出して」
創造スキルは日を追うごとに真価を発揮していった。
「お兄ちゃんたち、これ使ってみて!」
兄たちに差し出したのは自転車。最初は奇妙な乗り物に戸惑っていた兄たちだが、すぐに便利さに夢中になる。
「すごい!早い!」
特に長兄のエリックはこれを使って商品の配達時間を大幅に短縮し、商売に役立て始めた。
「これは使える」
次兄のレオンハルトは遠出する際の移動手段として活用し、行動範囲を広げる。
お母さんにはミシンを作ってあげた。手縫いが当たり前の世界でミシンは革命。
「すごいわー。手縫いにはもう戻れそうに無いわ」
あっという間に服が縫い上がり、お母さんは大喜び。家族の服はもちろん、余った生地でクッションカバーや小物まで作って家族の生活はどんどん豊かになっていった。
「次は」
お父さんが仕事で疲れているのを見て、思いつく。そうだ、マッサージチェア。
さすがに複雑すぎるか……と考え直し、まずは座り心地の良い椅子を木材と革で作ってみた。クッション性を高め、背もたれの角度を調整できる椅子はお父さんのお気に入りだ。
「サミュ、これは何だ?」
ある日、庭で土をいじっているとお父さんが不思議そうに尋ねた。今や何をしていても変に見られないのって最高。作っていたのは家庭菜園用のビニールハウス。
季節外れの野菜は手に入りにくい。でも、ビニールハウスがあれば一年中新鮮な野菜が食べられる。
「野菜が美味しい」
「嫌いだったのに食べれてる」
トマトやキュウリ、レタスなど馴染みのある野菜の種を創造スキルで生み出し、育て始めた。スキルで作られた現代の品々は徐々に家族の外にも広がりを見せていた。
最初は家族だけの秘密だったが、あまりにも便利すぎるため隠し通すことはできない。
「こんな石鹸、一体どこで……!?」
「その乗り物何ですか!?教えて!」
好奇心旺盛な近所の人がサミュの家に押し寄せてくる。家族は困惑したが作った本人はどこ吹く風。
「ねえ、お父さん。この街にカフェとかないの?美味しいコーヒーとかケーキとか、みんなに食べさせてあげたいな」
次の標的は食文化の改革。食べ物を作り出すと、まず我が家の食卓に上がる。
全て試作品だというのにすぐに商品が可能だとお父さんは張り切るけれど、まだもう少し隙間を埋めたいと首を横に振った。
これでいいじゃないかというけれど、求めるクオリティは非常に厳しい。家族はすごいとしか言わないので、あかりがやるしかないのだ。
たまに試作品を持ってくる人がいるけど、あかりは首を横に振り、なってないと柔らかく笑みを浮かべた。
自分で作ってしまう方が美味しいから、どんどん増えていく。お父さんがそろそろいいかと聞くので、仕方ないと販売する分はよしとした。
わくわくしている顔を見たら反対を続けるのも酷だと思ったのだ。さらにいいものを作っていったらこちらがいいというので、あっちでいいと妥協したのはお父さんでしょ、と場所を移動。
兄達はひよこのようにあかりの後ろをついてくる。なにか面白いことをしているのではないかと。それと、近くに住む女の子にアプローチしたいから、なにか作ってれという兄にブローチを制作。
うまくいったらしく、喜ばれたと報告される。よかったねと家族全員で祝う。別に恋人になったとかではなく、好感度があがっただけ。
それでも、皆して喜べる人たちと暮らせるというのはスキルよりも得難いものなのだろう。
この家族の中に生まれてきたことがなによりの恩恵なのだ。




