235女性が少ない異世界転生。これから男ばかりの世界でどうやって生きていけばいいのだろうか。言葉も文化も分からない頼れる人もいないってのに
ざまぁなし/男女比率で女性が少ない世界
見慣れない天井。ごつごつとした木材が組み合わさり、無骨な印象を受ける。ここは一体……?
(まただ。またしても、訳の分からない場所に飛ばされちゃった。最近、本当にこの手の目に遭いすぎじゃない? 前回の異世界は猫しかいない星だったし……今回は?)
体を起こすと周囲の様子が少しずつ見えて広々とした空間には、屈強な体格の男性たちが何人もいる。皆、鍛え上げられた肉体を露わにし、腰には物騒な剣やナイフを佩いている。
決定的に知る世界と違うのは女性が見当たらないこと。
(え……? なにこれ、男社会? いや、男社会っていうレベルじゃない。男しかいないんじゃない? 私、もしかして最後の女とか、そういう漫画みたいな展開?)
ざわつく男たちの視線が、明らかに集中している。好奇心、警戒。なんだかよく分からない熱のようなものが混ざった視線だ。
(やばい完全にアウェイ。言葉も通じないっぽい。皆、なんて野太い声で話しているの……近い、近い。男の人密度高すぎ!)
一人のいかつい男がこちらに近づいてきた。顔には傷跡が走り、腕には太い血管が浮き出ている完全に強面だ。
「……お前、どこから来た?」
低い声で問いかけられたが案の定、言葉の意味は全く分からない。首を横に振るしかできない。
「言葉が通じないのか?」
訝しげに眉をひそめた。周りの男たちも興味深そうにこちらを見ている。珍しい動物でも見ているよう。
(どうしよう……とりあえず敵意がないことを示さないと。下手に刺激したら、何されるか分からない)
おずおずと両手を上げ、降参のポーズを取ってみた。
現代のジェスチャーが通用するかどうかは分からないけれど、他に思いつくことがなかった。強面の男は少しだけ表情を和らげたように見えた。
「……お前、女だな」
言葉だけはなんとなく理解できた。彼らの驚愕とどこか安堵したような雰囲気が伝わってくる。
(やっぱり女性が極端に少ない……ってことは、私はめちゃくちゃ貴重な存在ってこと?それはそれで、別の意味で危険な気がする)
これから男ばかりの世界でどうやって生きていけばいいのだろうか。言葉も文化も分からない頼れる人もいない。
(せめて、現代の知識が少しでも役に立ってくれれば……サバイバル術とか、応急処置とか、料理の知識とか。でも、こんなマッチョな男たちばかりの世界で、知識がどこまで通用するんだか)
不安で押しつぶされそうになるけれど、ここで諦めるわけにはいかない。いつだって、どこでも生きてきたんだから。
(まずは、彼らの言葉を覚えること。この世界のルールを理解すること。幸い観察力には自信がある。多分。あべこべな世界でしたたかに生きてかないと)
心の中でそう決意し目の前の強面の男にぎこちない笑顔を向けてみた。強面の男。後にゴルドと名乗ることを知った拙い笑顔を訝しげに見つめた後、何かを部下らしき男たちに指示。
彼らの言葉はやはり理解できないが、ジェスチャーから察するにどこかに連れて行くつもりのようだ。
(連行される……? まずい、一体どこに連れて行かれるんだろう? 人身売買とかそういう恐ろしい展開だけは勘弁してほしい)
抵抗しようにも周りは屈強な男たちばかり。力で敵うはずもない。観念して後に続くしかなかった。
連れて行かれたのは先ほどの粗野な建物とは打って変わって、比較的整った造りの一室。それでも、家具はどれも大きく男性的なデザインばかり。
部屋の中にはゴルドの他に数人の男たちがおり、皆興味津々といった表情で見つめている。
(動物園の珍しい生き物みたい……みたいじゃないか〜)
ゴルドは椅子にどっかりと腰を下ろし、指さして何かを言った。おそらく「そこに座れ」という意味だろう。おとなしく隅の小さな椅子に腰かけた。沈黙が流れる中、必死に状況を分析しようとしていた。
彼らの服装や武器から察するに、この世界は中世ヨーロッパのような雰囲気だ。男性ばかりということは何らかの理由で女性が極端に少ない社会なのだろう。歩く道中でも、同性を全く見かけなかった。
(考えられる理由はいくつかある。疫病、戦争、あるいは……もっとSFチックな理由とか。生殖に関する何らかの異常とか?)
そんなことを考えていると、一人の若い男が何か果物のようなものを差し出した。赤くて丸い見慣れない果実。警戒しながらも受け取った。空腹を感じていたのは事実。一口食べてみると、甘酸っぱくて美味しい。毒はないようだ。少しだけ警戒心が解けた。
(もしかしたら、彼らは女性に慣れていないだけで、悪い人たちじゃないのかも……いや、そんな甘い考えは捨てよう。異世界で生き残るためには常に最悪の事態を想定しておかないと)
それから数日、彼らの拠点のような場所で過ごした。
言葉はほとんど通じないが彼らは身振り手振りで意思疎通を図ろうとしてくれた。食事を与えてくれ、粗末ながらも寝る場所も用意してくれた。
観察するうちに、この世界では男性が主な労働力であり、戦闘力も高いことが分かった。女性は本当に珍しい存在らしく、少しでも姿を見せると。
皆、遠巻きにしながらも興味深そうに見てくる中には、顔を赤らめて目を逸らす者もいた。
(やっぱり女性が少ないせいで、男性たちは女性の扱いに慣れていないんだ。ある意味チャンスかも)
言葉を少しずつ覚え始めた。簡単な単語や挨拶から始め、彼らの会話に耳を傾ける。必死に意味を推測した。
現代で培った語学学習のスキルが、意外なところで役に立つなんて。彼らの生活を観察する中で、いくつか現代の知識が応用できることに気づいた。
例えば衛生観念の低さ。傷の手当ては適当。感染症の知識も乏しいようだ。ある日、若い男の一人が深手を負って苦しんでいた。周りの男たちは慌てふためいているが、有効な手当てができていない。
(今だ)
意を決して立ち上がった。覚えたばかりの単語と身振り手振りで、自分の知っている応急処置の方法を伝えようとして最初は訝しんでいた男たちも、指示に従って手当てを施すとみるみるうちに男の容態が安定していくのを見て驚愕の表情を浮かべる。
一件以来目が変わった。珍しい存在から、何か特別な力を持つ存在へとなり、ゴルドも興味を持つようになったのか、時折話しかけてくるように。まだ言葉はたどたどしいが少しずつ意思疎通ができるようになってきた。
「お前……不思議な知識を持っているな」
ゴルドは低い声で言った。焚火の炎が傷ついた顔を照らしている。
「私の……故郷の……知識です」
精一杯言葉を選んで答えた。
「故郷……どんな場所だ?」
ゴルドの問いに、少しだけ故郷のことを思い出した。高層ビルが立ち並び、電車が走り、夜にはネオンが輝く世界、テレビの中でしか見たことはないけど。暮らしているところは地方だから、全く違う、騒がしくて便利な場所。
「たくさんの……女性がいて……男の人と……同じように……働いています」
ゴルドは目を丸くした。信じられないといった表情。然もありなん。
「女が……男と同じように?」
深い驚きと憧憬のようなものが感じられた。
(女性はどんな扱いを受けているんだろう? 単に数が少ないだけでなく、何か社会的な役割も違うのかもしれない)
ゴルドとの会話を通じてこの世界の社会構造に興味を持つようになった。男性ばかりの世界で、どのようにして社会が成り立っているのか。女性が少ないことでどのような問題が起きているのか。
自分の置かれた状況を改めて認識した。ただの異邦人ではない女性は希少な世界において、特別な存在なのだろう。知識ともしかしたら持つかもしれない影響力を、どう使うべきか。
(生き残るだけじゃなく、何かできることがあるかもしれない。歪んだ世界のバランスを変えることができるかもしれない……)
そんな希望が心に小さな火を灯し始めた。
「女性率は変えられない」
言葉も文化も十分に理解できていないけれど、あべこべな世界で居場所を見つけたい。
(現代知識を活かしたい)
何かを成し遂げてみせると誓う。心臓が早鐘のように打つ。やってみせると、体中の細胞が歓喜に震えた。




