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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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234 追放された癒しの聖女、伝説の神狼に愛される〜無能と罵った帝国は真の加護を失い氷河に沈む〜凍土に消える帝国と聖女の拒絶。絶望の雪原

「ケーレアナ、貴様をこの極北の断崖へ追放する。聖女の力も持たぬ無能など、我が帝国には不要だ!」


 吹雪が吹き荒れる断崖。帝国第一皇子のロゼストは冷酷に言い放った。隣では新たに真の聖女として祭り上げられた転生者の女マーリーが、毛皮のコートに身を包み、勝ち誇ったように笑っている。


「ごめんね、ケーレアナ。あなたの少しずつ傷を癒やすなんて地味な魔法、国には必要ないの。一瞬で全てをピカピカにする奇跡があれば十分なの」


 ケーレアナは幼い頃から帝国の防波堤として、休む間もなく兵士たちの傷を癒やし続けてきた。しかし、現代知識チートを持つ転生者マーリーの派手な魔法に目を奪われた貴族たちは、ケーレアナを無能と断じ、魔物が蠢く氷の地へ捨てたのである。


 死を覚悟したケーレアナの前に現れたのは山のような巨体を誇る神狼しんろうフェンリスだ。数千年の眠りについていた伝説の聖獣。絶望の中でさえ他者を思いやるケーレアナの清らかな魔力に惹かれ、目を覚ました。


「娘よ。貴様を捨てたあの国に未練はあるか」


「……ありません。誰かの役に立ちたかっただけです」


 フェンリスはケーレアナの傷ついた手に鼻先を寄せた瞬間、ケーレアナの中に眠っていた真の加護が覚醒する。彼女の力は癒やしではなかった。生命の根源を司る力。


「ならば我がお前の牙となろう。お前を拒んだ世界を我らが選ぶことは二度とない」


 神狼の背に乗って去った直後、帝国に異変が起きた。ケーレアナが毎日欠かさず行っていた地味な癒やしは、実は帝国の地下に眠る氷竜の呪いを抑え込むための儀式でもあったのだ。


「な、何よこれ!魔法が効かない!?」


 マーリーが悲鳴を上げる。魔法は表面を綺麗にするだけで、根源的な呪いを浄化する力はなかった。瞬く間に帝国は異常寒波に襲われ、田畑は凍りつき、自慢の鉄騎兵たちは寒さで動けなくなる。


「ケーレアナを連れ戻せ!彼女がいなければこの国は氷の墓場になるぞ!」


 ロゼスト皇子が叫ぶがもう遅い。ケーレアナが歩いた後には春の草花が咲き誇り、彼女が去った後の帝国には永久に溶けない死の氷だけが残された。


 ケーレアナは神狼フェンリスと共に、遥か南にある精霊の森へとたどり着いた。人間を忌み嫌う精霊たちが住んでいたが、ケーレアナの無垢な魂に触れ、彼女を森の女王として仰ぎ始める。

 ケーレアナは初めて得た本当の居場所に涙を流した。しかし、フェンリスは月を見上げ低く唸った。ケーレアナが神狼の毛並みに顔を埋める。


「大丈夫ですフェンリス。貴方がいてくれるなら私はもう、誰の言いなりにもなりません」


 ケーレアナが神狼フェンリスと共に去ってから一ヶ月。帝国は白銀の地獄と化していた。マーリーの魔法で一時的に取り繕った温もりは、薪をくべるのをやめた火のようにあっけなく消え去る。


「マーリー早く魔法を使え!王宮の廊下が凍りついているぞ!」


 ロゼスト皇子が怒鳴るが、マーリーはガタガタと震えながら首を振るばかり。


「無理よ!私の魔法はお掃除魔法なんだから!本物の熱を生み出す力なんてない!ケーレアナが、あの子が隠れて熱魔法でも使ってたんじゃないの!?」


 そう、帝国を支えていたのはケーレアナが毎日欠かさず地面に触れ、祈りを込めて流し続けていた微かな絶え間ない生命の波動。帝国の地下にある氷の呪いを中和していたのだ。

 それを失った今、帝国は一日に数十メートルという速度で凍土に飲み込まれていった。食料も底をつき帝国軍は崩壊。ロゼストとマーリーは生き残った僅かな近衛兵を引き連れ、必死の思いで精霊の森へと逃げ延びてきた。


 森の入り口で彼らを待っていたのは見たこともないほど美しく、神々しい姿になったケーレアナ。傍らには山のような威容を誇る神狼フェンリスが座り、黄金の瞳で彼らを射抜いている。


「ケーレアナ……!ああ、よかった生きていたか!」


 ロゼストが泥と氷にまみれた姿で縋り付こうとする。


「頼む帝国に戻ってくれ!お前の力が必要だ!今戻ればお前を正妃にしてやる。マーリーは侍女に格下げだ、それで満足だろう!」


「ひどいロゼスト様!」


 泣きつくマーリーを突き飛ばし、ロゼストは必死に手を伸ばす。ケーレアナは近づこうとするロゼストの足元を冷ややかな視線で凍りつかせた。


「ロゼスト様。貴方は以前私を無能と呼び、ゴミのように捨てました。今さらゴミが必要になったのですか?」


「そ、それは誤解だ!マーリーに騙されていただけで……」


「騙されていたのも私の価値に気づかなかったのもすべて貴方の無能ゆえです。フェンリス彼らに教えてあげて。森のルールを」


 フェンリスが低く喉を鳴らすと周囲の精霊たちが一斉にざわめき、ロゼストたちの周囲の温度がさらに急降下した。


「森は生命を慈しむ者だけを受け入れます。民を凍えさせ、一人の少女に全てを押し付けた貴方たちに差し出す温もりは一欠片もありません」


「待ってケーレアナ!私転生者なのよ!?主人公なの!こんな結末認めない」


 叫ぶマーリーをフェンリスの咆哮が吹き飛ばす。


「立ち去れ。次はこの牙で愚かな頭を噛み砕く」


 追い払われた彼らが振り返ると遠くに見える帝都の塔が巨大な氷の柱に押し潰されて崩落するのが見えた。帝国は地図から消えたあとに残ったのは、ケーレアナを信じて早々に国外へ脱出した平民たちが作った小さな暖かい新しい村だけだ。

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