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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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233/244

233【後編】桜舞う、うんざりな日常〜優等生が隣にいたがるけど私は一人でいたいんだけど?〜

 なのに優香は欠点がないかのように振る舞う。心を刺激するのだ。珍しく優香が隣でため息をついていた。


「どうしたの?」


「あのね山田さん。私最近ちょっと悩んでることがあって」


 優香が悩んでいる?そんなことあるはずがない。興味津々で優香の言葉の続きを待った。


「私、みんなに頼られすぎちゃって。もっとみんなに自分の意見を言ってもらいたいなって」


 優香は眉を下げて困ったように笑う。


(はぁあああああ!?!?!?)


 何かが音を立てて崩れ落ちた。なんだそれ。それが悩みなの?みんなに頼られるのが悩み?贅沢な悩みってやつ。


「みんな優香が完璧だから、頼っちゃうんだよ。仕方ないんじゃない」


 わざと冷たい声で答えた。


「うぅ……やっぱりそうかなぁ」


 優香はさらに落ち込んだ様子を見せる。


(なにかするのをやめればいいじゃん)


 心の中で叫ぶ。優香の悩みはあまりにもくだらないもの。期待していたのはもっとドロドロした、人間らしい不幸なのに。


 例えば今まで信じていた友人に裏切られたとか。例えば彼氏に浮気されたとか。そういう、俗っぽい人間臭い不幸を優香に期待していたのだ。優香の悩みはあまりにも優等生すぎる。


「あのね山田さん。私もっと山田さんみたいに、自分の意見をはっきり言えるようになりたいな」


 優香は目を真っ直ぐに見つめて言った。


(は?なんで私を巻き込むの。てか、私のようになりたいとか冗談はよして)


 心底うんざりした。この女はどこまでいっても愛されヒロインなのであろう。ひねくれた人間には理解できない存在だ。

 優香との対比の中で、いつも自分の立ち位置を確認していた。優香とは違う。みんなから愛される必要なんてない。わたしはわたしのままでいい。


 大学の課題でグループワークがあった。もちろん優香と同じグループになるのは避けたかったのだが、運悪く同じになってしまう。げげげ!


「課題どう進めようか?」


 みんなに問いかける。


「優香が決めてくれたらいいよ!」


「そうそう、優香の意見が一番だから!」


 案の定、優香に丸投げしようとする。優香は困ったように微笑んでいる。


(始まった。こいつらの思考停止、毎度毎度ウンザリする)


「だったら、意見言うけど」


 わざと冷たい声で言ったらみんなの視線が一斉に集まる。


「え、山田さん?」


 優香が驚いた顔をしている。


「私は課題、こうやって進めるべきだと思う」


 意見を淡々と述べた。内容はかなり現実的で効率的なもの。耳を傾け、次第に納得していく。


「山田さんの意見すごい説得力あるね!」


「確かにその方が効率的かも!」


 褒め始める。優香も「山田さん、すごいね!」と目を輝かせている。


(いや、今更なんだよ。いつもそうしてくれればいいんだよ)


 は内心で毒づきながらもどこか満足感を感じていた。優香が周りから「すごい!」とチヤホヤされるのと同じくらい、意見が認められることに少しだけ優越感を覚えたのだ。これは中毒性が高い。しかし、優越感も束の間。


「やっぱり、山田さんと優香ちゃんがいればどんな課題も怖くないね!」


 クラスメイトの一人が笑顔でそう言った。


(は?なんでそこで優香とセットにする!?)


 小さな勝利はあっという間に優香の光の中に吸収されてしまった。結局、優香の引き立て役にしかなれない。

 大学を卒業し、社会人になっても優香の愛されヒロインぶりは健在。会社に入社して数ヶ月で優香は同期の誰よりも早く、社内の人間に顔と名前を覚えられた。


 優香が困っているとどこからともなく助けの手が差し伸べられる。優香が企画したプロジェクトはなぜかいつも成功する。


(おいおい漫画か。どんだけ都合のいい世界なの。やめてくれって感じ)


 別部署で淡々と仕事をこなしていた。もちろん、優香とは部署が違うので毎日顔を合わせるわけではない。それが、唯一の救い。

 社内イベントや忘年会など優香と顔を合わせる機会は、定期的に訪れる度に優香の周囲には人だかりができ、遠巻きに光景を眺めるしかなかった。


「ねぇ山田さん。最近どうしてる?」


 忘年会で優香がやってきた。手に持っているのは誰かから差し入れられた高級そうなスイーツ。


(また誰かに貢がれたのか。はぁ)


「まあ、それなりに」


 ぶっきらぼうに答える。


「そっか。山田さんいつもすごいなって思うよ。どんな時でも自分の意見をしっかり持ってるから」


 優香は屈託のない笑顔でそう言った。


(またそれ。私がその言葉を聞いて喜ぶとでも思ってんの?)


 冷たい言葉を吐き捨てる。優香の言葉には全く悪意がない。純粋な尊敬の念が込められているように聞こえるからこそ、余計にイライラ。


「そんなことない」


 そっけなく返す。


「そんなことあるよ!私なんていつもみんなに流されちゃって……」


 優香はまた眉を下げて困ったように笑う。


(いい加減にして。流されてるって?冗談はやめて!中心にいるんでしょうが)


 その場を離れたくて仕方がなかった。この愛されはどこまでいって心をかき乱すのだ。優香の愛されぶりはきっとこれからも続いていくだろう。

 彼女はこれからも多くの人から愛され、助けられ、うんざりさせるのだ。別に優香が嫌いなわけではない。ただ、完璧さと愛されぶりが相容れないだけ。


(ま、いっか。どうせそのうちどこかでつまづく。人間だもんな)


 心の中で呟きビールのグラスを傾けた。このうんざりする世界も悪くない。

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