230バイオパンク×空中都市:天空のプラズマ、奈落の鉛蜜。巫女には戻りません。私は地上の女王ですからね
雲の上で暮らす特権階級の都市浮遊島アイギス。
ここでは、聖なる植物を育てる耕作巫女。プラント・メイデンが都市のエネルギー源を担っている。
「あんたの作る鉛メロンなんて重くて場所を取るだけのゴミ」
妹のエクロムが青白く放電するプラズマ・パインを手に嘲笑う。果実は、瞬発的に巨大な電力を生む超高出力のエネルギー源として、都市のエンジンに重用されていた。
一方、ユノーノが育てるのは金属のように重く、鈍い光を放つメロン。電力は微小で味は鉄の味がするほど硬い。
「ユノーノ。アイギスに重荷は不要。浮力を損なう不出来な巫女は下の世界へ降りるがいい。許可しよう」
父である最高執政官とエクロムの婚約者である騎士団長の彼らは、不要品として防護服一枚で毒霧が渦巻く地上へと追放した。
一年後。アイギスの空に異変が起きた。エクロムのプラズマ・パインは高出力だが、あまりに不安定。出力を上げすぎた都市の回路は焼き切れ、過負荷に耐えきれなくなった浮遊エンジンが次々と爆発を始める。
「どうして!?パインは完璧なエネルギーのはずなのにい!」
エクロムが叫ぶが高電圧の果実は彼女の手の中で暴走し、美しい顔に火傷を刻みつける。都市はバランスを崩し、ゆっくりと毒霧の地上へと墜落を始めた。
アイギスが墜落したのは、不毛の地と呼ばれた汚染地帯。這い出した父やエクロム、騎士団長たちが目にしたのは毒霧を切り裂いてそびえ立つ、巨大な鉛色の森。
「お帰りなさい皆様。空の居心地はいかがでしたか?」
防護服を脱ぎ捨て、健康的な肌を輝かせるユノーノの姿があった。
足元には、あの鉛メロンがいくつも転がっている。
「な、ユノーノ……!この森は何だ?なぜ平気なんだ!?」
「メロンはエネルギー源じゃない。放射能と汚染を吸い込み、強固な大地へと変える環境再生の核というコアだった」
ユノーノのメロンは重ければ重いほど有害物質をその内に閉じ込め、無害な金属資源へと変質させる。アイギスが空から捨て続けてきた汚染を、ユノーノは地上で密かに資源へと変えていたのだ。
「助けてくれ!私たちはアイギスの支配者、お前を巫女に戻してやってもいい!」
父が縋り付こうとするがユノーノは避けた。背後から地上の異形化した汚染適応種の兵士たちが現れ、墜落した貴族たちを囲む。
「巫女には戻りません。私は地上の女王ですからね」
エクロムは自分が蔑んだ重たい果実を、生き延びるための唯一の食料資源として泥にまみれて奪い合うしかなかった。




