228異世界にドラゴン族の平民として転生したらしい女神の愛し子。おまけに過保護な子龍を貰ってみたらツンデレだった
ざまぁなし/ほのぼの
目を覚ますと、そこは薄暗い洞窟の中だった。身体がずいぶん小さくなったように感じる。手足を確認すれば、それは幼いドラゴンのもの。
どうやら、異世界にドラゴン族の平民として転生したらしい。
「お目覚めか、我の愛し子よ」
頭の中に直接響く優しくも荘厳な声。女神様っぽい。
「これを与えよう」
転生特典として、女神様(推定)から一つの贈り物が与えられた。
「そやつはダーシィ。お前を守り助け、共に歩む存在となろう。我の愛し子であるお前のために何でもできる万能の小龍じゃ」
驚くままに見つめる。声が消えると同時にカスミの目の前にふよふよと浮かぶ、掌サイズの小さな白い龍が現れた。
つぶらな瞳で見つめにこりと笑う愛らしさに思わず頬が緩む。
「我の愛し子よ。貴様我の魅力に見惚れているのか?」
突如、ダーシィが偉そうに胸を張って言った。ぴくっと頬が引き攣る。口調に思わず噴き出した。
「ふふ、ごめんね。可愛いからつい」
ギャップ萌えだ。
「なっ……! 我は可愛いなどという生ぬるい存在ではない! ダーシィ様は貴様を導く最強の小龍様である!」
必死に否定するダーシィに微笑ましさを隠せない。うんうん、知ってる。なんでもできる万能小龍だってことを。
とりあえずキリがないので外に出ようと提案。ダーシィとの出会いを終え洞窟を出るとそこには一面の緑が広がっていた。
気づいた複数のドラゴンたちが一斉にこちらへ駆け寄ってくる。彼らは皆目をキラキラと輝かせ、見上げる。
「わあ! 新しい命だ! 小さいのに、もうこんなに可愛い!」
「どこから来たの? 大丈夫? お腹空いてない?」
「私たちの仲間が増えるなんて、こんなに嬉しいことはないね!」
彼らは皆カスミの小さな姿を見て、心底から喜んでくれているようだった。純粋な喜びにカスミの心も温かくなる。
「よろしくお願いします!」
ある日、不器用ながらも小さな花を摘んでそれを首飾りにしようとした時のこと。
「おお! 我の愛し子はもうそんなことができるのか! なんと器用なのだ!」
ダーシィが感動したように叫ぶ。
見ていた他のドラゴンたちも大げさなほどに感嘆の声を上げた。
「見て! 花を摘んでいる! すごいなんて繊細な動きなんだ!」
「こんな小さな手でもうそんなことができるなんて……感動で胸がいっぱいだ!」
「これはもう才能としか言いようがない! みんな、今すぐ祝福の歌を歌おう!」
カスミのささやかな行動一つでこんなにも純粋に喜び、感動してくれる彼ら。この世界の人々は本当にピュアな心を持っているんだと実感した。
ダーシィの俺様口調は相変わらずだけど根底にあるのはカスミのことを想う気持ち。ほのぼのする。
ある日、ドラゴン族の長老が話しかけてきた。
「愛し子よ、お前は特別な力を持っている。女神様の祝福を受けた世界の希望となる存在だ」
長老の言葉に身が引き締まる思いがした。特別な力……まだ自分では何もわからないけれど、温かいドラゴン族の皆のためになるのなら力を使いたいと思う。いつもカスミのそばで得意げに胸を張っている。
ふふ、と笑う。
「当然だ。我の愛し子なのだからな! 何か困ったことがあればいつでもこのダーシィ様を頼るがいい!」
言葉は頼もしいけれど少しばかり過保護なところもある。例えば、少し高い場所に登ろうとしただけで「危ない! 我が背に乗れ!」とすぐに飛んでくる。
ドラゴン族の子供たちと遊んでいる時も少しでもぶつかりそうになると「貴様ら! 我の愛し子に近づくな!」と威嚇。子供たちは目を丸くしてダーシィを見上げ、クスクスと笑うのだ。
「ダーシィお兄ちゃんまた怒ってる!」
それでもダーシィの愛情はひしひしと伝わってくるし、夜になるとカスミの寝ている洞窟の入り口で見張りをしてくれるし、美味しい果実を見つけては必ず一番にくれる。
ドラゴン族の生活は穏やかで平和。皆で狩りをしたり、空を自由に飛び回ったり歌を歌ったり。
何か新しい発見があれば皆で喜び合い、誰かが困っていればすぐに助け合う。
争いなど存在しないかのように思えたそんなある日、住む森に人間たちが迷い込んできた。彼らは怯えた様子で疲弊しきっている。ドラゴン族の中には人間を恐れる者もいたが、長老は言う。
「彼らもまた、生きる者たち。困っているのなら、助けるのが我らの務めではないか」
皆が頷いた。人間たちに食料を与え休息場所を提供。言葉は通じなかったけれど優しさは彼らにも伝わったようで、警戒していた彼らの表情も徐々に和らいでいった。
ダーシィと一緒に人間たちの子供に果物を分け与えていると、一人の人間の女性が涙ぐみながら深々と頭を下げる。
「ありがとう……本当にありがとう……」
言葉は違えど感謝の気持ちは痛いほど伝わってきた。それを見たドラゴン族たちはまたしても感動の渦に包まれる。
「見て! 人間が感謝している! 私たちの優しさが通じたんだ!」
「なんて美しい光景だろう! 種族を超えた友情が今ここに生まれたんだ!」
「愛し子様とダーシィ様のおかげだ! 本当に素晴らしい!」
少し照れたように鼻を鳴らし「当然のことをしたまでだ」とそっぽを向く。でも、顔はどこか誇らしげだった。
人間たちが去って数日後、森の奥から不穏な気配が漂う。ダーシィが真っ先にそれに気づきカスミの肩にとまって警戒するように周囲を見回す。
「愛し子。何か変な気配がする。近づくな」
普段の俺様口調の中に微かな緊張が混じっていて、長老も眉をひそめ空を見上げた。
「これは……魔物の気配か。かなり強力な」
ドラゴン族は基本的に平和主義だが自分たちの縄張りや仲間が脅かされるとなれば話は別。皆臨戦態勢に入り、静かに息を潜める。森の木々が大きく揺れ、その向こうから巨大な影が現れた。
それは、全身を黒い瘴気に覆われた異形の魔物。姿を見た瞬間、ドラゴン族の何匹かが小さく唸り声を上げた。
「まさか、こんな魔物がこの森に……!」
魔物は咆哮を上げ、口から禍々しい闇のブレスを吐き出した。長老が素早く前に出てブレスを全身で受け止めるが、体には深い傷が刻まれる。
「長老!」
駆け寄ろうとするとダーシィが慌ててカスミの前に飛び出した。
「馬鹿者貴様が前に出てどうする! 我が相手をする!」
言い放つとカスミの腕から飛び立ち、信じられないほどの速さで魔物に向かっていく。
掌サイズだったはずのダーシィの体がみるみるうちに光を放ち、やがて大きな堂々とした白い龍へと変貌。姿はまさに女神の祝福を受けた万能の小龍の真の姿。
「このダーシィ様が貴様のような醜い魔物をのさばらせておくものか!」
咆哮し、口から眩い光のブレスを放つ。魔物の闇のブレスと激しく衝突し、あたりに爆音が響き渡った。
圧倒的な力に呆然と立ち尽くす。魔物と互角に渡り合っていたが魔物も強力で一進一退の攻防が続く 時、カスミの胸の内から温かい光が溢れ出すのを感じた。
「これは……力?」
女神様が言っていた特別な力が今、目覚めようとしているみたい。
ダーシィの戦いを止め魔物と対峙するように前に出た。
「おい! 何をするつもりだ愛し子! 危ない!」
ダーシィが焦ったように叫ぶが止まらなかった。カスミの両手から放たれた光は生きているかのように魔物を包み込み、闇の瘴気を浄化していく。
魔物は苦しそうにのたうち回り、巨大な体が塵となって消えていった。魔物が消え去った後、膝から崩れ落ち全身から力が抜けて、抜け殻のよう。ダーシィが慌てて元の小龍の姿に戻り、カスミの顔を覗き込む。
「愛し子大丈夫か? 無茶をしやがって……!」
声には怒りよりも心配の色が濃かった。ドラゴン族の皆がダーシィの周りに集まってくる。
「なんてことだ……愛し子様が魔物を退けたとな」
「女神様の力が今、ここに示されたのだ」
「私たちが守られているのは愛し子様のおかげだ」
皆の目は尊敬と畏怖、変わらない純粋な喜びに満ちていた。長老も深々と頭を下げる。
「愛し子よ本当にありがとう。お前のおかげで森は守られた」
ダーシィに抱きつき小さな頭を撫でた。
「ダーシィもありがとう。君がいなかったらどうなっていたか」
「フン当然だ。貴様の万能小龍様だからな。だが次からはもっと我を頼れ。一人で危険な真似はするな」
俺様口調で言いながらもカスミの手のひらにすり寄ってくる。世界に来て、まだ短い期間だけど、このドラゴン族の皆とダーシィなしでは生きていけない。
誰かを守るためにあると強く心に誓った。世界のどこかで困っている人がいるのなら力を使いたい。まだ見ぬ世界が呼んでいる気がしたから。




