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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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226/236

226番ではなかった兄の方を追い出したら弟の方が番だったのに恨まれていて番同時になれなかった女が後悔して旅をし懺悔に薬を煎じて人を助けていく

ざまぁなし

 辺境の小さな村で起きた出来事だった。フィーヌは幼馴染のカイが運命のつがいであると信じて、疑わない。誰もがつがいという運命の相手を持つ。

 つがいは魂で結ばれており互いを見つけ出した時、心の奥底から湧き上がる確かな絆を感じると言われている。


 しかし、カイとの間にその絆を感じたことが一度もない。それどころか真面目すぎる性格や常に冷静で感情を表に出さない態度に、日に日に物足りなさを覚えていた。

 村の長老はつがいが見つからないのは珍しいことではない、いつか感じる時が来るだろうと慰めてくれたが心は満たされない。


 村に滞在していた旅の商人が特別な薬草の知識を持っているという話を聞いた。薬草を使えばつがいの絆を一時的に強めることができる、と。

 藁にもすがる思いで薬草を手に入れ、カイに試すことを提案。彼はつがいでないはずがないと何の疑いもなく薬草を口にしたが結果は散々。


 薬草の効果は一瞬だけ現れ、カイは強く抱きしめたが心には何の響きもなかった。逆に抱擁が酷く形だけのものに思えてしまう。


「あなたは、私のつがいじゃない」


 言葉は何かに突き動かされるように口から飛び出す。彼は傷ついた顔で見つめた。村人たちは困惑し、長老は諌めたが決意は固い。カイを村から追い出した。

 追い出したというよりいづらくなったのだ。

 番でなかった彼が何も言わず静かに村を去っていった時、彼の実弟のラシェルが、不安そうな顔で服の裾を引いていた。


 ラシェルは幼い頃から体が弱く、いつもこちらの後ろに隠れているような子。その彼が心細そうに見上げる姿を見て、胸に微かな罪悪感がよぎったがすぐに「これも絆を感じないカイのためだ」と無理やり納得させた。


 カイとラシェルを追い出してしまった後、心は不思議と穏やかになった。これでようやく本当のつがいを探すことができると思っていた矢先の数ヶ月後、隣村から来たという商隊の中に見覚えのある顔を見つけた。

 それはあのカイ。ずっと、同じ時間を過ごしていたのに見違えるほどたくましくなっており、以前の頼りない面影はどこにもない。


 驚いたことに商隊を率いる立場にあり、瞳には強い光が鋭くある。思わず彼に声をかけた。


「カイ、あなたなの?」


 気づくと一瞬、複雑な表情を浮かべたがやがて近づいてきた。


「フィーヌ、久しぶり」


 その後のことを尋ね、カイは淡々と語る。別の街で新たなつがいを見つけ、幸せに暮らしていると。幸運にも旅の途中で新しいつがいを見つけることができた、と。


 言葉を聞いた瞬間、胸に激しい痛みが走った。初めて感じる種類の痛み。同時にカイの隣に立つ彼の弟ラシェルの姿を見た時、体は磁石に引き寄せられるように強く、激しく反応しているのを感じた。


「これは」


 視線はラシェルの手首にある、同じ形のつがいの紋章に釘付けになった。生まれた誰もが持つ魂の紋章。自分のつがいと出会った時に初めて全貌を現すと言われている。ラシェルもまたこちらの紋章を見て、目を見開いた。彼の顔から血の気が引いていくのが分かる。


「私のつがいがあなた?」


 口から信じられない言葉がこぼれ落ちた。

 あの時、感じた絆の欠如はカイがつがいではなかったから。薬草が効果を示さなかったのは、それが偽りの絆を強めるものだったからに他ならない。

 本当に絆を感じる相手と出会った時に初めて現れる。本当に求めていた絆は目の前のラシェルとの間に、今まさに芽生えようとしているがラシェルは静かにはっきりと首を横に振った。


「もう遅いんですフィーヌさん」


 声は震えていたが瞳には諦め。


「姉さんに捨てられた時、生きる希望を失いかけました。でも、旅の途中で必要としてくれる人がいました。紹介します。俺のつがいです」


 ラシェルは自分の隣に立つ、穏やかな笑顔の女性に視線を向けた。女性の顔には確かにラシェルと同じつがいの紋章が輝いていた。自分と反応する紋章とは別の新しい絆の輝き。


「もうあなたとは」


 ラシェルは手を避けるように一歩後ずさった。紋章はこちらへ強く反応しているにもかかわらず、表情は受け入れるものではなかった。

 自分がいかに愚かだったかを知る。真実のつがいを目の前にしながら、それを手に入れることができない。ラシェルへの絆が叫び続けているのに相手は求めていない。


 痛みこそがずっと探し求めていた絆の証なのに永遠に来ないのだ。背中が遠ざかっていく。つがいの紋章は熱く激しく疼き続けていた。

 それは叶わない絆の痛みでしかなく自らの手で最も大切なものを失ったのだ。後悔の念が心を深く深く蝕んでいき、希望のない喪失として今幕を閉じた。


 ラシェルと新しいつがいが去ってからどれほどの時が経っただろうか。村人たちの憐憫の眼差しが針のように突き刺さった。

 あの時、感じた絆の痛みはラシェルが去ってからも消えることはなかったが、心臓に直接触れるような生々しい傷跡として残り続ける。


 村にいられなくなった。毎日、同じ景色の中でいかに愚かだったかを突きつけられている。村を離れ、あてもなく旅に出た。

 何を探していたのか自分でもわからなくて痛みを後悔を、どうにかして和らげたかったのだろう。

 旅の途中、様々な人々と出会った。つがいを見つけ幸せに暮らす夫婦。


 つがいを探して旅を続ける若者。同じようにつがいとの絆を失い、絶望の淵にある者。出会いは新たな問いを投げかけた。絆とは何か。

 失われた絆は本当に二度と得られないのか。小さな集落にたどり着いたのは旅の商人が特別な薬草について話していた場所。


 集落の奥には古びた薬師の小屋があり、吸い寄せられるようにその小屋の扉を叩く。出てきたのは白髪の老薬師。彼は顔を見るなり、すべてを見透かしたかのように「お前さん、失われた絆に苦しんでおるな」と言い出して言葉を失う。


 老薬師は手首に残るつがいの紋章に目をやり、語り始めた。


「つがいの絆は一度断ち切れば二度と元には戻らぬ。真実じゃ。じゃが、魂の繋がりは完全に消えるわけではない。後悔の念こそが証」


 震える声で尋ねた。


「では私は。どうすれば?」


「お前さんは見つめ直す旅に出たのじゃな。それが贖罪の道」


 老薬師は棚から古びた書物を手に取った。


「この世にはつがいとの絆を失っても、別の形で魂を癒す道がある。失ったものを受け入れ、他者のために尽くすこと。そうすることで紋章の痛みは消えずとも魂に新たな光が灯ることもある」


 一筋の光を見た気がした。痛みは消えない、ラシェルとの絆は手に入らない。だが、痛みを抱えながらも前に進むことができるのかもしれないと老薬師のもとで、薬草の知識を学び始めた。


 病に苦しむ人を癒し、傷ついた動物を助ける。自分勝手にカイを追い出し、ラシェルを置き去りにしたものとは違う誰かのために生きる日々。


 毎日ラシェルの顔が脳裏をよぎる。


 あの時もう少し優しければ。

 あの時もう少し忍耐強ければ。

 過去は変えられない。


 それでもこの手でできることをしよう。夕暮れ時、薬草を摘むために森の奥深くへと足を踏み入れた。聞き慣れない物音がして慌てて身を隠す。

 茂みの向こうから現れたのは旅の商人らしき一行。


 その中に見覚えのある背中を見つけた。カイだ。

 隣には穏やかな笑みを浮かべる女性。つがいだろう。意識的に追い詰めて追い出したこちらとは違い、優しく女性の手を握っていた。傍らには成長したラシェルが。

 病弱だった面影はどこにもなく堂々とした青年に成長していた。ラシェルの顔にも新たなつがいの紋章が輝いている。物陰から幸せそうな様子をただ見つめることしかできなかった。


 心臓は激しく痛み、紋章は熱く疼いく。あの時と寸分違わぬラシェルへの絆の痛み。痛みの中にほんのわずかながら別の感情が芽生えている。幸せを願う気持ち。

 自身が痛みを抱えながらも他者のために生きる道を見つけられたことへの安堵。二度とラシェルに声をかけることはないだろう。幸せを壊す権利などない。


 旅で得た知識と経験誰かの役に立つ喜びは育っているらしいと笑う。失われた絆は決して取り戻すことはできないが、喪失が新たな道を示してくれ紋章は関係なくこれからも痛む。

 生きた証として生き続ける。共に贖罪を続けていく。フィーヌは悲しみと後悔を抱えながらも、他者のために生きる道を選んだ。


 終わりなき旅は続いていく。

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