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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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224/236

224【中編】灰かぶりと歪んだ世界に錬金術師は父親の浮気相手と連れ子と暮らすことになる三角関係に怒りが湧いたがこのめちゃくちゃな家庭に叫びたくなった。わざわざウチに連れてくるのはなんの優越感なのだろう

 灰かぶりと歪んだ世界に錬金術師は父親の浮気相手と連れ子と暮らすことになる三角関係に怒りが湧いたがこのめちゃくちゃな家庭に叫びたくなった。わざわざウチに連れてくるのはなんの優越感なのだろう。


 錬金術工房にも行かずにベッドに横たわる。眠れなかった。

 ユルユティの言葉が、頭の中をぐるぐると回る。家を出て行け、居場所がなくなる。


(どうせ私は一人。どこに行こうと、構わない。母さんを女に好き勝手させるわけにはいかない。どうすればいい?私にできることはなんだろう?)


 錬金術。そう、錬金術。持つ唯一の武器。どう使えば、状況を打開できる?


 翌日、父に直談判。


「父さん。ユルユティとエミリーを追い出して」


 父は、言葉に驚き、眉をひそめた。

「何を言っているんだ、シエル。ユルユティはもうすぐ家の主となる人間だ」


「主?母さんはどうなる?あなたは、母さんを捨てるつもり?」


 父に詰め寄った。 父は目を逸らす。


「……シエル。お前には、まだ分からないだろうが、大人には、色々と事情がある」


「事情?人の家庭をぶち壊すのが、大人の事情?」


 無責任な言葉に吐き気を覚えた。男は避けるように部屋を出て行った。このまま見過ごすことはできないと悟る。

 母はユルユティのいじめに耐えかねて、日に日に衰弱していく。顔色は悪く食欲もない。


「母さん、大丈夫?」


 母の部屋を訪れた。母はベッドに横たわり、弱々しく微笑む。


「ええ、大丈夫、シエル。心配してくれてありがとう」


「大丈夫じゃない。ユルユティのせい。あの女をどうにかしないと」

 母は顔を伏せた。


「やめておきなさい、シエル。これ以上、事を荒立てたくないの。私が我慢すればそれでいいのよ」


「我慢して、どうなる?母さんが死んでも、それでいいのか?」


 母は目を見開いた。そこまで言ってしまったことに少し後悔したが、引き下がるわけにはいかない。

 工房に戻った。決意を固めた。錬金術で終わらせるために錬金術工房に籠る。必要な材料を揃え、錬金釜に投入する。


 魔力を込める。フラスコの中で液体が泡立ち、色を変えて慎重に作業を進めた。作っているのは毒ではない。しかし、毒よりも厄介なもの。人の心を蝕み、真実を暴き出す薬。


 翌朝、食卓に薬を忍ばせた。ユルユティのカップにごく少量だけ混ぜる。彼女は何も知らずにそれを口にした。エミリーは行動をずっと見ていた。不安げな顔で。


「シエルお姉様……何をしたの?」


 エミリーが小さな声で尋ねた。


「何もしていない。ちょっとした実験」


 答えた日の午後、ユルユティは異常なほど饒舌になった。普段は上品な言葉遣いが罵詈雑言を口にし始めたのだ。


「あの老いぼれめ!いつまでもこの家に居座りやがって!さっさと死んでしまえばいいのに!」


 ユルユティは母に向かって叫んだ。父は驚いてユルユティを見た。


「ユルユティ!?何を言っているんだ!?おい!」


「あら、あなたにだって不満があったでしょう?気が利かないところとか、地味な服装とか、もううんざりだったでしょう!だから私を選んだのよね?」


 言葉は止まらない。父は顔を真っ赤にして、制止しようとした。


「黙れ!ユルユティぁあ!」


 だが、薬の効果は強力。ユルユティは日頃の不満や、隠していた本音を次々と吐き出した。

 父への不満、軽蔑、母への憎悪。その場にいた全員がユルユティの言葉に耳を疑う。母は震えながら言葉を聞いていた。


「……錬金術師を連れてきたのもあなたを陥れるためよ!あの女は私の言うことなら何でも聞くから、都合がいいの!世間を騙して売りつけて」


 ユルユティがさらに衝撃的な言葉を口にする。言葉に父の顔色が変わると、ユルユティに駆け寄り、口を塞ごうとした。


「ユルユティ!もういい!黙るんだ!」


 しかし、時すでに遅し。ユルユティは、堰を切ったように心の奥底に秘めていた言葉を吐き出し続ける。


「あなたなんて金蔓よ!家を手に入れるためなら、どんな手でも使うわ!あなたもあの女も、エミリーでさえ、私の道具に過ぎないのだもの!」


 エミリーは崩れ落ちた。そばに駆け寄る。


「エミリー、大丈夫?」


 エミリーは見上げた。瞳には絶望が宿るばかり。


「う……嘘……よ」


 エミリーは呟いた。ユルユティの言葉はエミリーの心にも深く刺さったよう。父は呆然とユルユティを見ていた。薬の効果が切れ始めたのか、徐々に意識が朦朧として、やがて倒れ込んだ。


「一体、何をしたんだ!?」


 父がこちらへ詰め寄った。冷めた目で父を見る。


「錬金術。人の本音を暴き出す薬。あなたも、聞きたかったでしょ?女の本音を」


 父は何も言い返せなかった。顔には後悔と絶望が浮かぶ。ユルユティはその日のうちに家を追い出された。父は本当の姿を知り、深く失望したようだった。

 エミリーは、ユルユティと一緒に家を出ることを拒む。彼女は泣きながら訴えた。


「お姉様と一緒にいたい!お姉様と、義理のお母様と一緒にいたい!」


 少し驚いた。エミリーは頼っていたのかと。


「……仕方ない」


 ため息をついた。面倒なことは避けたい性分だが、この小さな子供を見捨てることはできない。残っていた良心、というやつだろう。


 父は母に謝罪し、母は父を許した。エミリーは一緒に暮らすことになる。日常は以前のようには戻らなくて。食卓には母とエミリーがいる。


 賑やかになった。エミリーはなつく。工房にも度々顔を出すようになった。


「お姉様、今日は何を作るの?」


 エミリーが興味津々に尋ねる。


「今日は、ちょっと変わった薬を作る。人の心を癒す薬」


 答えたらエミリーは目を輝かせた。

(人の心を癒す薬。作る日が来るとはな。人生何があるか分からないもんだな)


 心の中で呟いた。錬金術のフラスコの中で、きらめく液体が未来を映し出すかのように光り輝く。世界は少しだけ、温かくなって。

 相変わらず面倒なことは嫌いだが、温かさは悪くない。


 ユルユティが家を追い出され、エミリーが新たな家族として加わってから数ヶ月が経った。日常は以前とは比べ物にならないほど穏やかになり食卓には、母とエミリーの明るい声が響く。

 父は相変わらず仕事で忙しそうだが、以前のようにユルユティにうつつを抜かすことはなくなり、どこか憔悴しているように見える。


「シエルお姉様、今日は何を錬成するの?」


 朝食を終え、工房に向かおうとするとエミリーが駆け寄ってきた。すっかり懐き、毎日工房を覗きに来るのが日課になっている。


「今日は、ちょっとした解毒薬の依頼が入っている。あまり面白くない」


 素っ気なく答えた。面倒な依頼はいつもそう。複雑な工程もなく、ただ決められた手順を踏むだけ。


「解毒薬!すごい!誰かを助ける薬なのね」


 エミリーは目を輝かせた。純粋な反応に内心、少しだけ気恥ずかしくなる。


(助ける。結局は金のため。だが、この子がそう思うなら、それでいい)


 工房に入り、早速作業に取り掛かった。フラスコの中で透明な液体がゆっくりと混ざり合う。


 午後、工房の扉が叩かれた。珍しい。工房は基本的に予約制で、突然訪れる者などいないのに。


「はい」


 扉を開けると立っていたのは、見慣れない男。整った顔立ちに怜悧な雰囲気。紺色のローブを身につけ杖を携えている。魔法使いだろうか。


「失礼します。錬金術師のシエル様でいらっしゃいますか?」


 男は深々と頭を下げた。丁寧な物腰だが瞳の奥には、どこか鋭い。


「そうだけど、何か?」


 警戒しながら尋ねた。


「王国魔法学院の講師を務めております、リオネルと申します。実はあなたに、どうしてもお願いしたいことがありまして」


 リオネルと名乗る男は真剣な表情で言った。王国魔法学院。あの、由緒正しい魔法使いの最高学府。まさか、そんなところから依頼があるとは。


「話を聞こう」


 男を工房に招き入れた。工房の椅子に座るとリオネルは一枚の羊皮紙を差し出した。そこには、複雑な魔法陣と見たことのない文字が書かれている。


「実は、魔法陣を解読し術式を錬金術で再現していただきたいのです」


 リオネルは言った。羊皮紙を手に取り、目を凝らす。これはただの魔法陣ではない。古代の言語で書かれた非常に高度な術式。


「これは……かなり骨が折れる」


 素直な感想を漏らした。簡単な仕事ではない。錬金術の知識と技術の全てを注ぎ込まなければ、到底無理だろう。


「承知しております。術式は我々魔法使いだけでは解析できないのです。錬金術の知識を持つ、あなた様のお力が必要です」


 リオネルは頭を下げた。そこまで言うのなら、よほどの事情があるのだろう。


「報酬は?」


 単刀直入に尋ねた。

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