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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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197/224

197 お前のような計算高い女は修道院で一生数字でも数えていろなどと婚約破棄と追放を言い渡した彼は聖なる力という曖昧な概念で民の無知を搾取できると思っているらしいが瘴気は非科学で消えたりしないですね〜

 王都の大聖堂。婚約者である第一王子のトムは隣に座る新しく現れた真の聖女を抱き寄せ、筆頭聖女のハレレーに対し、婚約破棄と追放を言い渡した。なんて愚か。


「ハレレー、お前との婚約を破棄し、聖女の称号を剥奪する。お祈りは儀式張っていて冷たい。彼女が放つ触れるだけで温かくなる愛の波動こそが、国を救う真の奇跡だ。お前のような計算高い女は修道院で一生数字でも数えていろ」


「婚約破棄?なら、独自に展開していた国全体の魔導結界の周波数維持と、大聖堂の瘴気しょうき中和フィルターを今すぐ停止するけど構わない?」


「奇跡に小細工は不要だ。愛があれば瘴気など一瞬で消え去る!」


 聖印を机に置き、冷徹に告げた。奇跡は魔法の一種であり、魔法は物理現象だ。男たちが愛と呼ぶ一時的な脳内麻薬のドーパミンが、物理的な汚染物質である瘴気に勝てないことを専門家として知りたくて。


「トム。愛の波動と呼ぶそれは魔力の無差別放射。あと十分、精密な中和計算が停止すれば蓄積された瘴気が王都を直撃し、愛で温めたその場所は最悪の魔力汚染地帯に変わるんだけど愛の力で肺に詰まった瘴気をろ過できるといいねぇ」


 十分後。広場で愛の奇跡を披露しようとした自称聖女の周りで、中和されなくなった瘴気が黒い霧となって爆発的に膨れ上がった。

 放つ無計画な光は瘴気を刺激して活性化させる最悪の触媒となり、広場は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わるとトムの豪華なマントは腐食し、自称聖女は「愛が足りないせいよ」と叫びながら逃げ出した。


 混乱する王都を去り、街の外で待っていた男に視線を送った。禁忌の魔導工学者であり、論理的な祈りを最も高く評価するピノターカがいて、彼はにっこり笑う。


「……お疲れ様ハレレー。因果応報。秩序を軽視しすぎたようだ」


「当然の結果だよピノターカ、魔導論理研究所へ行く。不透明なフィルターを通さず、数式でこの世のすべてを浄化するために」


「君が導き出す最適解を工学が現実にする。僕たち二人の真理到達契約がようやく動くんだねぇ。嬉しい」


「研究に行き詰まって思考がオーバーヒートしたら、君の腕の中でクールダウンさせて」


「最高に合理的だ」


 背後で「浄化してくれ!」と真っ黒な霧の中で叫ぶトムの声が聞こえるが、それはもう清算されるべき負の遺産。


 愛の奇跡という名の無計画な魔力放射が王都を瘴気の泥沼に沈めてから一年。設立した国立論理浄化センターは、いまや大陸全土の環境維持を司る科学の総本山となっている。


 あの日、精密な計算という祈りを冷たいと切り捨てた者たちは、自らが招いた汚染の中で文字通り息も絶え絶えに這いずり回っている。


「ハレレー、本日の広域浄化サイクルはオールグリーンだ。うん。それと、処理施設の廃棄物搬入口のモニターに有害度の高いノイズが映り込んでいる」


 ピノターカが最新の魔導サーバーを操作しながら、冷徹な視線をサブモニターへ向けたそこには、かつての婚約者トムの無残な姿があった。瘴気に侵された肌はどす黒く変色し、王子の面影はない。真の聖女を自称していた女も魔力の使いすぎで廃人同然となり、足元で震えている。


「ハレレー……っ!頼む、中和剤を……ぐ!王宮はもう瘴気で誰も住めないんだ!お前がいた頃の清浄な空気をもう一度だけ吸わせてくれ!」


「識別不能な高濃度汚染個体。ピノターカ、彼の浄化コストと社会的再生期待値を算出して」


 書類に目を落としたまま、氷のように冷たい声で命じた。


 警告。対象者トム。汚染度レベル5致死圏内。彼の精神構造には過誤を認めるための論理回路が欠如しており、浄化を施しても即座に再汚染されるリスク100%。……救うために費やす魔導触媒は善良な市民一万人を一年間守るリソースに匹敵。救済の価値零と判定


 インターホン越しに絶望の淵に立つ最終的な処方箋を突きつけた。


「与える浄化の光は一ルクスだって残っていない。夢がないと捨てた論理こそ、国の命綱だった。それを自ら切断し、愛という名の猛毒を煽った。外側に廃棄されるだけ」


 嘘だ!僕は王子だぞ!聖女なら無条件に慈悲を……!


「慈悲?……そんなものは非効率な感情論。祈りは、守る価値のあるものにしか届かない。ピノターカ、洗浄を開始して。うるさくて研究に集中できない」

 高濃度の防壁結界が展開され、トムたちは物理的な圧力で施設外の荒野へと押し流された。


 彼らが吸うのは自らが生み出した濁った空気だけ。


「終わったよハレレー。本日の、二人だけの高密度同期テストを始めよう」


 こちらの眼鏡を外し、熱を帯びた瞳で覗き込んだ。腕の中は世界で唯一、論理が甘く溶かされる場所。


「今夜は精神安定度を最高値で固定するための、密着実験を行いたいんだけど。心拍が上がるたびに愛の出力を強制的にブーストしていく設計なんだけど。ふふ、いい?」


「実験が終わるまで意識を現実に戻さないこと。わかった?」


「……最高に狂った完璧な契約だ。夜が明けるまで離さない」


 感情という名の不純物に溺れた者は浄化されることのない闇へと消えた。たっぷり愛されるために。

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