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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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191/229

191【前編】婚約者が君の魔力が自分よりも上回っているのが気に障るからと言うのでフラれたけれど実力で大成功してみる〜私のお店のお肉は美味しかったですかお客様?〜

 こっちだって同じ言葉を言いたい。


「君との婚約を破棄したい」


 目の前の美貌の青年アルベール・エルンストは何の感情も籠めていない、冷え切った視線を少女に向けた。

 場所はエルンスト侯爵家の中庭に面した、格式高いテラス。季節外れのバラがわずかに香る優雅な空気を切り裂いたのは、一瞬の静寂とヘルミエスの涼しげな一言。


「ええ、結構ですわ、アルベール様」


 ヘルミエスはティーカップを静かにソーサーに戻し、ふわりと微笑んだ表情は今日の天気の話題でも受け止めたかのようにカラリとしている。彼女にとって今の展開は特に驚くべきことではなかったのだ。


(まあ、転生者として赤ん坊の頃から魔力を高めてきた身としては、こうなるのは時間の問題だったけどね)


 ヘルミエスには前世の記憶がある。世界に生まれ落ちたとき、自分が魔力という前世にはなかったエネルギーを扱えることを知った。アステリア公爵令嬢として周囲には隠しつつ、誰よりも熱心に魔力の修行に明け暮れた。

 結果、魔力は類稀なる成長を遂げ、今や国でも五指に入るほどの高みに達している。それが原因で、ヘルミエスの婚約者であるアルベールが徐々に距離を取り始めたのも。


「魔力があなたを上回っているのが気に障るということかしら?」


 ヘルミエスは率直に尋ねたし、回りくどい駆け引きは彼女の性に合わない。アルベールは露骨に顔を僅かに歪めた。


「……否定はしない。私は男だ。家を継ぎ、妻を守るべき存在。だが君は私より遥かに強い。魔力量は私を凌駕し、成長速度は恐ろしいほどだ」


 彼は息を吐く。


「そのような女性を妻に迎えることは、私という男の矜持が許さない。君の存在は影になる。自分より強い女を愛し、隣に置くことはできない」


 正直さに思わず笑いそうになった。彼は嘘をついていない。本当に女性が自分より優れている、特に力において優れている状況を耐え難い屈辱と感じているのだろう。


「ごもっともです。では、円満な婚約解消ということで」


 立ち上がると深々とカーテシーをした。肩の荷が下りたような清々しさを感じこれで、面倒な王室とのしがらみも一つ減る。これからは心置きなく魔力修行と楽しい生活を追求できる。


「公爵家には私から話を通す。ヘルミエス、君の今後の活躍を祈る」


 アルベールは最後まで冷たいままだった。


「どうぞご武運を」


 ヘルミエスは振り返らず、軽やかな足取りでテラスを去った。公爵令嬢としての完璧な立ち居振る舞いだが心の中は、すでに次の修行計画でいっぱい。


(これで自由の身。世界樹の根の魔力溜めの術を完成させるには魔物跋扈の森で修行を積まないと。魔力でサクッと超えられるくらい強くなってやる)


 異世界最強を目指す令嬢の清々しいセカンドライフが待っている。


 婚約解消から一週間。ヘルミエスはアステリア公爵邸の庭園ではなく、都市から遥か離れた咆哮の森の奥深くで全身に土と魔物の血を浴びていた。


「ふぅ。このロックバイソンの肉は脂身が少なくて赤身の味が濃い……絶対、焼肉に合う」


 巨大な岩のようなバイソンを自ら編み出した魔力分解と保存術で手際よく解体し、特殊な結界付きのアイテムボックスに収納する。莫大な魔力と知識が生み出すオリジナル魔法はチート級の作業効率を生み出していた。


(初期の仕入れ分は確保。問題は店舗と……従業員か)


 元々、公爵家を継ぐ気など毛頭なかった。煩わしさから逃れるための焼肉屋開業計画は新たな遊びであり、修行の場だ。しかし、店を回すには人手が必要。求める従業員は平均的な働き手ではない。

 口が堅いこと。ヘルミエスの魔力や狩りの秘密を漏らさない。スキルが高いこと。狩りに集中できるよう、店の全てを任せられる。

 そして、金に困っていないこと。金銭で縛る関係を嫌うと純粋なビジネスパートナーを求めていたい。


 都市バラルドの裏路地にある、怪しげな酒場影の溜まり場の隅で二人の人物に声をかけた。

 一人目は、元凄腕ギルド職員のルッカルト。裏の顔は引退した今も情報収集と顧客管理に長けた、金の亡者だが超優秀な事務屋。

 二人目は元宮廷料理人のマイリー。貴族の面倒な慣習に嫌気がさして宮廷を飛び出し、現在は自由な料理研究で莫大な富を築いている孤高の天才料理人。


「あなたたちに共同経営者として声をかけたい」


 テーブルにさっき狩ってきたロックバイソンの希少部位の肉を、タレの代わりに塩と胡椒だけで焼いたものを差し出した。ルッカルトは訝しげに肉を眺め、マイリーは匂いを嗅いだだけで無言でフォークを取る。


「これは……!私が知るどの肉とも違う。野趣がありながら、芳醇な香り!これは何の肉?」


 マイリーが尋ねる。


「今日、森で狩ってきた肉です。これが私の店の目玉になる焼肉。鉄板で肉を焼き、タレをつけて食らう料理」


 言い放った。


「あなた方の金銭的な心配は無用なのは知っています。だからこそ提案します。ルッカルト、あなたには店で資金繰りと店舗運営を。マイリーには提供する肉の調理とタレの開発、メニュー監修を任せたい」


 ルッカルトはニヤリと笑った。


「お嬢さん。金に困ってないが面白いことには目がない。君の持ってきた肉、君の魔力はひっくり返す可能性がある……雇う対価は高いぞ」


「給料は出しませんがその代わり、店の純利益の3割を差し上げます。残りの肉の調達と、必要とあれば店の護衛は全て私が担当する。座っているだけで莫大な金が手に入ることになる」


 マイリーは既に二切れ目の肉を口に運んでいた。


「興味は金ではなく、肉と活かす料理法。肉の全てを扱わせてくれるなら、承諾しましょう」


 ヘルミエスは満足げに笑い、グラスに残った水を飲み干した。


「取引成立です。私が狩ってあなたが管理し、あなたが焼く。肉屋を作り上げるわ」


 こうして、婚約者から「自分より強い女は嫌だ」とフラれた令嬢は圧倒的な力を狩猟と経営に転換し、異世界に焼肉ブームを巻き起こす。

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