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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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188/235

188 無敵の凡人、無自覚に帝国を更地にする。すみません。ちょっとイラッとしちゃって。王子、さっき私を無能って言いました?

「お前のような魔力も持たぬ無能は我が国に不要だ。本日をもって婚約を破棄し、辺境の魔の森へ追放する!」


 豪奢な夜会会場。金髪の第一王子が、勝ち誇った顔で指さした隣にはいかにも真の聖女を気取った義妹が、勝ち誇った笑みを浮かべて寄り添っている。

 手に持ったカナッペをモグモグと咀嚼しながら、心底どうでもいいことを考えていた。


(生ハム、前世の安物より美味しいな……追放されるなら明日からの早起きしなくて済むのか)


「聞いているのか無能!貴様の爵位も財産もすべて清らかな義妹に譲渡してもらう!」


 王子の怒声に周囲の貴族たちも「当然だ」「税金の泥棒め」と嘲笑の声を浴びせてくる。二十年間、国で魔力ゼロの欠陥品として蔑まれてきたけれど、黙っていたのは平凡に生きたいから。

 目立つと面倒くさい。強すぎると仕事が増える。前世でブラック企業に勤めていた私は、今世こそは働かない有閑階級を目指していたのだが。


「……あの、王子。譲渡書類、ハンコ押しちゃっていいんですか?後悔しません?」


「黙れ!さっさと署名して消え失せろ!」


 王子が叩きつけた書類が頬に当たって床に落ちた瞬間。私の中で、二十年間守り続けてきた乙女心事というなかれ主義が、プツンと音を立てて切れた。


「……あーあ。せっかく穏便にニート生活しようと思ってたのに……紙、痛かったんですけど〜」


 落ちた書類を拾い上げようと軽く床に指をついた。本当に、少しだけ力を込めただけだ。


 ――ドォォォォォン!!


 凄まじい轟音と共に、王宮のホール全体が激しく揺れた。指をついた場所を起点に、強固な大理石の床にクモの巣状の亀裂が走り、次の瞬間、王宮の半分が物理的に沈下した。


「な、なんだ!?地震か!?」


「ひっ、天井が、天井が崩れる……!」


 阿鼻叫喚の貴族たち。無表情のまま手近にあった豪華な柱をストローでも折るかのようにポキッと素手でへし折った。


「あ、すみません。ちょっとイラッとしちゃって。王子、さっき私を無能って言いました?」


 一歩、王子に近づく。地面を踏みしめるたびに足元から地割れが起き、衝撃波で周囲の窓ガラスがすべて粉砕される。


「ひ、ひぃ……っ!?貴様、その力は……!」


「魔力じゃないです。物理です。鍛えてないんですけどね、無敵なんで」


 王子の胸ぐらをそっと掴んだ。それだけで彼の豪華な衣装が千切れ、骨が軋む音が聞こえる。隣で震える義妹の顔はもう土気色。


「婚約破棄喜んでお受けします。でもこの国住めそうにないですね?」


 ふっと息を吹きかけるだけで豪華なシャンデリアが吹き飛び、王宮の屋根が空高くへ消し飛んだ。夜空が丸見えになった廃墟のようなホールで、腰を抜かした王子を見下ろして事務員のような笑顔で告げた。


「じゃあ、さよなら。追放される前に国にある給料分の金塊、全部持っていきますね」


 床を軽く蹴っただけで王宮の残りの半分が完全に崩壊し、私は流星のような速さで夜空へと消えた。あとに残されたのはプライドも国も文字通り粉砕された、愚かな王子たちの絶望だけだった。

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