182 土魔法の令嬢はすでに手遅れと言い放つ~有害物質をフィルタリングしていたのに捨てた国が塩を吹いて滅びるまで。白銀の楽園と死に絶える王国~
追放されて半年。私が住む辺境の村シシコン・バレーは、今や世界で最も美しいセラミックスの都へと変貌していた。
庭園のテラスで純白の磁器、ファインセラミックスに注がれた紅茶を啜る。
目の前に広がるのは土のスキルで砂漠から抽出した高純度のシリカで造り上げた輝くような白い街並みだ。
「キャラレア様、また王都から救援要請の早馬が来ました。これで今週十通目です」
執事の格好をした元山賊の男が、苦笑いしながら手紙を差し出したが中身も見ずに暖炉の火に放り込んだ。
「今さら何を。泥臭い女聖女の輝きを曇らせる不浄な令嬢と罵って、着の身着のままで追い出したのはあの方たちでしょ」
王都は今、未曾有の危機に瀕している。作物は枯れ、井戸水は毒に変わり、建物の壁からは謎の白い粉が噴き出しているらしい。
自称聖女の妹、ヨムヨがいくら浄化の光を放っても事態は悪化する一方だという。当然だ。
彼女たちが奇跡と呼んでいた王国の繁栄は、すべて分子レベルの土壌管理の上に成り立っていたのだから。
街の入り口にボロボロの馬車が転がり込んできた。現れたのは元婚約者である第一王子と妹のヨムヨ。
「キャラレア姉様!助けて、助けてくださいまし!」
ヨムヨの美しい顔は赤い湿疹でひどく荒れている。王子の豪華だった鎧も腐食が進んでボロボロ。
「見苦しい。聖女の加護はどうしたの」
「……キャラレア頼む、戻ってきてくれ。国中の土が白く光る毒を吹き出しているんだ!食べ物も水も口にすれば舌が痺れる!」
王子が足元に縋り付くが冷たく笑い、彼らに現実を突きつけた。
「それは毒じゃない。塩類集積」
「エンルイ……?」
「国の地下水はもともと塩分と重金属が多すぎる。私がいた頃はスキルで土の中のイオン交換を常時行い、有害な成分を地底深くに閉じ込めていた。でも、私がいなくなったから」
彼らの足元の土を指差す。
「私がフィルタリングをやめたせいで、地下から塩分が毛細管現象で地表に吸い上げられた。乾いて結晶化したのが白い粉。いわゆる激しい塩害。ヨムヨの光魔法で水分だけを蒸発させたから、さらに濃縮が進んだってこと」
「そんな……魔法が逆効果だったなんて……そんなぁ」
ヨムヨは絶望してへたり込む。さらに追い打ちをかける。
「水が苦いのは濾過するのをやめたカドミウムや鉛といった重金属イオンが溶け出したせい。今の王都で育った野菜を食べるのはゆっくり自殺するのと同じ」
「キャラレア頼む!戻ってそのフィルタリングを再開してくれ!褒美なら何でも出すから!」
王子の必死の訴えに首を横に振った。
「お断り。私はもう無駄なボランティアはしない。見て、街を」
背後の白銀の都市を見せつけたそこでは、土から抽出した希少金属のレアメタルを使って、前世の知識を再現した超高温炉が稼働している。
「土から不純物を取り除き、リチウムやコバルト、ネオジムといった希少な素材を精製する技術を確立した。ここはもう農村じゃない。世界中の魔導具メーカーが喉から手が出るほど欲しがる素材供給の心臓部」
「素材……?魔法の杖の材料?」
「それだけじゃない。将来的に素材を使って通信機や魔導演算機。コンピューターを作るつもり。王都のような土をゴミだと思っている旧人類の場所に戻る理由がない」
門番に合図を送る。彼らは抽出した合金で作られた、錆びることのない強固な槍を構えた。
「帰って。あなたたちは、自分たちが踏みつけていた泥がどれほど高度な化学バランスで保たれていたか滅びゆく大地の上で一生かけて学んでいってね」
「待ってキャラレアお姉様!」
二人の悲鳴を背に重厚なセラミックスの門を閉めた。さて、ここからが本当の仕事だ。




