178義妹に婚約者を奪われましたが王国の帳簿は私が握っています
「ケルツィ・ヤンクレー!貴様のような冷酷な女との婚約は破棄し、真に心優しいエーネと婚約し直すことに決めた!」
卒業記念パーティーの最中、第一王子・ヴィルフリートの声がホールに響き渡りました。彼の隣では、義妹であるエーネが、勝ち誇ったような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
周りの貴族たちは「ついにあの鉄面皮の令嬢が捨てられたか」と、ヒソヒソと囁き合っています。扇を閉じ、完璧な礼をしました。完璧な撤退を。
「左様でございますか。殿下のご決断、承りました。つきましては、ヤンクレー侯爵家がこれまで王家に融資していた資産、および私が管理していた魔力供給網の契約を、本日付けで全て解除させていただきます」
「……は?何を言っている。そんな事務的な話はどうでもいい!早くここから失せろ!」
ヴィルフリート殿下は、自分がどれほど致命的な言葉を吐いたか理解してないらしい。彼は知らないのだろうか?
毎日贅沢に飲んでいるワインも、豪華な城を維持する魔石も全ては私財と演算能力で支えられていたことを。
「では、エーネ。あとの処理はよろしくお願いいたしますわね」
エーネに微笑みかけたら彼女は「お姉様、お疲れ様ですっ」と可愛らしく手を振っているが、まだ気づいていない。去った瞬間、王宮の防衛結界が期限切れで消失することに。
夜のうちに荷物をまとめ、隣国であるゼッノス帝国へと向かう馬車に乗り込みました。国境を越える直前、背後の王都から鈍い地響きと絶叫が聞こえた気がした。恐らく止めていた地下の魔物の封印が、魔力供給を断たれたことで揺らぎ始めたのだろう。
「始まったばかりですね」
手元の黒い手帳を開いたそこには、ヴィルフリート殿下の浮気の証拠だけでなく国の王たちが代々隠してきた、禁忌の契約について記されている。
馬車が止まると漆黒の鎧に身を包んだ男が立っていた。帝国皇帝と呼ばれる、ドーマ・ゼッノス。
「待っていたぞケルツィ。準備は整ったか?」
「愚かな王子が私という鍵を自ら手放してくれましたから」
彼の手を取り、不敵に微笑みました。王都が崩壊するのは時間の問題。あとは待つだけ。




