115【後編】最強種族の私が地上に降りたら湿度が高すぎてキレそうだけどスマホゲーのついでに世界を救ってたら聖女扱いされてて草
彼の持つ宝石が先ほどよりも強く、不規則に点滅し始める。
「例えば急に空に巨大な穴が開いたり、見たこともない化け物が出現したり、時間が歪んだり……被害はまだ限定的だけど、このままじゃ取り返しがつかなくなる」
アリスティーは腕を組み、面白くなさそうにフンと鼻を鳴らした。
「ふぅん。つまり、それって要するに私達に化け物とやらを倒してこいってこと?」
「いやいや、倒すだけが目的じゃないんだ。歪みを正すことが重要で。力を使いすぎるとさらに事態が悪化する可能性もある。君たちの持つ力は確かに強力だけど慎重に的確に使ってほしい」
ちらりとラーラダに視線を送り、彼の持つ底知れない力を見抜いているかのように見えた。まあ、二人とも強いので。ラーラダは相変わらず無表情だが視線はリョウの言葉に集中している。
「一体どうやってそんなことを手伝って欲しい?」
怪訝な顔で問い詰める。リョウはにやりと笑いスカイスマホを取り出した。
「これだよこれ!最近リリースされたばかりの異世界ファンタジーコネクト&リンクってゲーム、知ってるかい?」
アリスティーの目が瞬時に輝いた。自身のスカイスマホを取り出し、画面に表示されたアプリのアイコンを確認する。
「私が今めちゃくちゃハマってるやつ!何それ、関係あるの?」
リョウは得意げに頷いた。
「実はねこのゲーム、ただのゲームじゃないんだ。異変が起きている場所に連動してゲーム内のステージが生成される仕組みになってる。ステージをクリアすることで現実の異変を鎮めることができる」
信じられないといった顔でリョウを見つめた。
最強種族として生まれ、強大な力を持つ彼女にとってゲームが現実の事態を解決するなんてあまりにも馬鹿げた話だった。同時に突拍子のなさが心をくすぐる。
「ゲームをプレイすればいいってこと?それで世界が救われるなら、こんな楽な仕事ない」
アリスティーはニヤリと笑った。ラーラダはそんなアリスティーの表情を静かに見つめている。彼にとって楽しそうにしていることが何よりも重要。
「その代わり、報酬は弾むぜ?君たちをサポートする情報も惜しまない。どうだ?」
期待に満ちた目で二人を見た。少し考えた後、ラーラダに目を向けた。
「ラーラダどうする?ゲーム、課金までしてるから、延長で世界救えるなら悪くないと思うんだけど」
ラーラダは短く頷いた。
「……お前が望むなら」
アリスティーは満足げに頷いた。
「よし、決まり。ただし、私達を騙そうとしたら相応の覚悟をしておきなさい」
アリスティーはリョウに釘を刺し、スカイスマホを構えた指がゲームのアイコンに触れる。
「へぇ……本当に連動してるんだ」
画面に映し出されたステージを見て感嘆の声を上げた。画面には先ほどまで彼女たちがいた夏祭りの風景が、少しだけ歪んだ形で描かれている。
ステージの奥には禍々しいオーラを放つ化け物の姿が。
「この敵さっきラーラダが追い払ったチンピラに似て る」
問いかけるとラーラダは無言で頷いた。リョウはにやにやと笑いながら説明する。
「そうなんだよ。異変が起きると場所の環境や、そこにいる人間の負の感情なんかが具現化してモンスターとしてゲーム内に現れるんだ。だから、プレイヤーはゲーム内の情報と現実の情報を照らし合わせながら、最適な攻略法を見つける必要があるってわけ」
この人すごい喋るな。
「なるほどねぇ」
アリスティーはニヤリと笑った。ゲームの世界観に現実がリンクしているという突拍子もない設定がゲーマー魂を刺激する。
「じゃあ、ステージはチンピラが原因で発生したってことか。ふうん、案外分かりやすい」
指を器用に動かし、パズルを組み合わせていく。素早い指さばきに合わせてゲーム内のキャラクターが華麗なスキルを発動。
あっという間にチンピラに似たモンスターを撃破していく。ラーラダは様子を見守っていた。
「よっしゃ!クリア!」
スマホを掲げると現実の夏祭りの会場に、微かな風が吹き抜けた。同時に先ほどまで感じていた微かな不快な空気が、すっと消え去っていくのを感じる。
「……すごいやつだ」
ラーラダが短く呟いた。アリスティーは得意げに胸を張る。
「当たり前でしょ?私にかかればこんなもの」
リョウは拍手しながら満面の笑みを浮かべた。
「いやあ流石だね!これで一つ異変が解決したよ。次はどこに行こうか?」
リョウの宝石が再び点滅し始めた。次に示すべき場所を示すように光の帯を放ち始めた。その先は街の少し外れにある寂れた商店街。
アリスティーは少しばかり面倒くさそうな顔をしたものの、ゲームの次のステージへ進むような感覚で、何の躊躇もなく足を進める。
ラーラダは常にアリスティーの数歩後ろを付いて歩き、周りを警戒するような視線を送っている。
「最近シャッター閉まってる店が多いってニュースで見た」
アリスティーはスカイスマホで情報を確認しながら呟いた。リョウは頷く。
「そうなんだ。商店街、昔は賑わってたんだけど今はもうほとんど店じまいしちゃっててね。どうも寂しさが異変の温床になってるみたい」
商店街に到着するとアリスティーのスカイスマホが再び反応した。画面には古びたシャッター街がゲームのステージとして映し出される。
奥にはうつむいて肩を落としたような、どこか寂しげな姿のモンスターが鎮座。
「ふぅん、今回はなんか弱そう」
言いながら早速ゲームを始める。指が画面上を滑らかに動き、キャラクターたちが次々とスキルを発動していく。
今回のモンスターは攻撃を受けてもどこかフワフワと漂うだけで、倒れる気配がない。
「あれ?全然倒れない」
アリスティーは眉をひそめた。普段のモンスターとは違う挙動に、いら立ちを見せる。
ラーラダが静かに画面を覗き込むと、モンスターの頭上に寂しさという文字が薄く表示されていることに気づいた。
「……攻撃じゃない」
ラーラダがぽつりと呟いた。見上げる。
「え、なに?何か分かったの?」
「……寂しさを」
ラーラダは言葉を探すように間を開け、続けた。
「……埋める」
一瞬ポカンとした顔をした後、ハッと閃いた。
「なるほど!攻撃じゃなくて逆に何かを与えればいいってことね」
ゲーム内のアイテムリストをスクロールし笑顔の絵本というアイテムを見つけた。
どうやらステージクリアの報酬で手に入れていたものらしい。
半信半疑でアイテムを使用するとゲーム内のモンスターがゆっくりと顔を上げた。体が薄い光に包まれやがて消滅。同時に現実の商店街に微かな風が吹き抜けた。
風はどこからか聞こえてくる、楽しそうな子供たちの笑い声や懐かしい駄菓子の匂いを運んできたように感じられた。
商店街の一部のシャッターが長年の眠りから覚めたかのように、ガラガラと音を立てて開いたのだ。開いたシャッターの奥には昔ながらの駄菓子屋や、懐かしい喫茶店が姿を現した。
中には数十年ぶりに営業を再開した店もあるらしい。人々は驚き喜びの声を上げた。
「すげぇ!商店街が元に戻ったぞ!」
「なんだこれ魔法か!?」
きょとんとした顔で周囲を見回した。自分たちがゲームをクリアしただけで現実の変化が起こるとは想像していなかったのだ。
「へぇ……こんなこともあるんだ。意外と面白いこのゲーム」
満足げにスカイスマホを眺めた。ラーラダはアリスティーの隣で、相変わらず無表情ながらも穏やかな表情で商店街に活気が戻っていく様子を見つめていた。
リョウは目を輝かせ、興奮した様子で二人を見ていた。商店街に活気が戻ったことは、瞬く間に街中に広まる。
二人の存在自体はまだ知られていないものの寂れた商店街が突然賑わいを取り戻したという現象は、テレビやネットニュースでも取り上げられてちょっとした都市伝説として話題になった。
「いや〜、まさかゲームで現実が変わるとはね。あんた達、マジで救世主」
リョウは満面の笑みでアリスティーとラーラダを称賛した。アリスティーは腕を組み、得意げに鼻を鳴らす。
「当たり前でしょ?私にかかればこんなもの。にしても、商店街、あんなに寂れてたのにたった一本のゲームクリアでこんなに変わるなんてねぇ。人間ってチョロいんだか繊細なんだか」
呟きながらスカイスマホを操作して新しいゲームのイベント情報を確認していた。ラーラダはそんなアリスティーの横顔をじっと見つめ、その表情には微かな安堵の色が浮かぶ。
そんな中、リョウのスカイスマホに立て続けに連絡が入る。彼の顔が徐々に真剣なものへと変わっていった。
「どうしたの?また新しい異変?」
アリスティーが尋ねるとリョウは大きく頷いた。
「ああ、それどころじゃない。どうやら、例の異変がさらに広範囲で、規模が大きくなってるらしい。しかも、今度は特定の場所だけじゃなく不特定多数の人間にも影響が出始めてる」
リョウは深刻な顔で一枚の写真を見せた。
空中に突如として現れた奇妙な幾何学模様の亀裂が写っていた。亀裂からは見る者を不安にさせるような黒い靄が漏れ出ている。
「世界の歪みの初期症状。放っておけば世界そのものが崩壊しかねない。歪みのせいで一部の人間が精神的に不安定になったり、突然暴力的になったりするケースも報告されてて」
写真を見て、わずかに眉をひそめた。経験した異変とは明らかに規模が違うことを直感したのだ。
「そんな大ごとになってんの?ゲームやってる間に?」
「そうなんだ。このままじゃ本当にヤバいことになる。そこでお願いがあるんだ、アリスティーちゃん、ラーラダ君」
リョウは真剣な眼差しで二人を見つめた。
「異世界ファンタジーコネクト&リンクの、レイドボスイベントを今すぐ攻略してほしい」
エイドボスイベント。それは、ゲーム内で最も難易度が高く複数人で協力して挑む必要がある、巨大な敵との戦いを意味する。
アリスティーはこれまでレイドボスイベントにはソロで挑むことにこだわってきた。だが、今回は状況が違う。
「レイドボス……ソロじゃきついかもねぇ」
アリスティーは少し考え込みニヤリと笑った。
「わかった。やってやろうじゃない。あんたがちゃんと情報提供してくれないとすぐに飽きるからね」
アリスティーの言葉にリョウは心底安堵したように息を吐いた。
「ああ!任せてくれ」
ラーラダは何も言わず、隣に立ち、何も言わずに過ごす。三人は残りの試練に挑もうと互いに頷き合った。




