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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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105/109

105灼熱の太陽が照りつける砂の王国で役立たずと言われたものはのちに彼らが驚くほど輝いていた。出来損ないですが落ちぶれたそちらよりは快適ですね

追放

 灼熱の太陽が照りつける砂の王国、アルジャミーラ。王都アズールの喧騒とは裏腹に、一角にひっそりと佇む質素な家でプルベリは鬱屈とした日々を送っていた。


「役立たず」


「出来損ない」


 耳にタコができるほど聞かされた罵詈雑言は彼女にとって日常のBGMだ。こっちこそ言いたいことは山ほどある。美しい黒髪と瞳を持つ彼女は王族の血を引くにも関わらず控えめな性格と、魔法の才能の低さから父である国王や美貌と才覚に恵まれた異母妹のトマーリアからは、冷遇されていた。


「今日も今日とて、雑用!」


 山積みにされた洗濯物を前に盛大に舌打ちをした。王宮の使用人たちは、彼女が王女であるにも関わらず、下僕のように扱う。それもこれも、国王とトマーリアの陰湿な指示によるものだった。

 やってられないとある夜、プルベリはトマーリアから呼び出された。


「明日の夜会で、王族の恥を晒さないでよね!」


 冷たい視線で言い放たれ、古びた衣装を投げつけられた。華やかな装飾が施されたトマーリアのドレスとは対照的な、色褪せた粗末な服。


「どうせ期待なんかしてないくせに」


 プルベリは悪態をつきながらも、内心では僅かな期待を抱いていた。いつか父に認められたい。家族の一員として温かく迎えられたい。愚かだろうかと笑う。

 そんな願いが心の奥底で細々と燃えている。夜会でプルベリのささやかな希望は打ち砕かれることになるのだが。

 煌びやかな会場でトマーリアは隣国の王子と婚約を発表。満面の笑みを浮かべるトマーリアと、誇らしげな国王一同の光景はプルベリにとってあまりにも眩しく、残酷で。宴もたけなわになった頃、国王は突然、プルベリを衆人の前に呼び出した。


「プルベリよ、お前のような愚鈍な娘は王家の汚点である!」


 ざわめきが会場を包む中、国王は非情な言葉を続けた。


「明日、お前は王宮を出て行け!二度とこの地に足を踏み入れるな」


 雷に打たれたように立ち尽くした。本当に追い出されるなどとは。信じられない思いと、激しい怒りが彼女の中で渦巻いた。


「好きで生まれたわけじゃないっ」


 抑え込んでいた感情が爆発し、プルベリは国王を睨みつけた。


「冷酷で人の心を持たないただの暴君。トマーリアだってそう!必ず後悔させる」


 捨て台詞を吐き捨て、プルベリは夜の闇の中へ飛び出した。涙は、なぜか一粒も出ない。代わりに煮えたぎるような怒りと、これからどう生きていこうかという漠然とした不安が、彼女の胸を満たしていく。

 あてもなく砂漠を彷徨う彼女は数日後、力尽きて倒れてしまう。意識が途絶える寸前、誰かの優しい声を聞いたような気がした。


 再び目を開けると、そこは見慣れない天幕の中。豪華な絨毯が敷かれ、異国の香が漂っている。傍らには、見知らぬ男が心配そうな表情でこちらを見下ろしていた。


「気がつきましたか、お嬢さん」


 男は深みのある青い瞳と鍛え上げられた逞しい体躯を持つ、精悍な顔立ちの持ち主だった。エキゾチックな装飾が施された衣装は、彼がただの旅人ではないことを物語っている。


「あなたは……?」


 掠れた声で問いかけるプルベリに男は穏やかに微笑んだ。


「オーラン。砂漠を旅する商隊の長です。あなたが倒れているのを見つけ、介抱しました」


 プルベリに温かいスープと水を与え、手厚く看病してくれた。警戒しながらもプルベリは優しさに触れ、少しずつ心を開く数日後、体力が回復した彼女は、オーランに自分の身の上を語った。王族であること、理不尽な扱いを受けて追い出されたこと。

 元家族への憎しみと復讐心を。オーランはプルベリの言葉を静かに聞き終えると。


「お嬢さんの過去は辛いものでしたね。ですが、過去に囚われていては、未来は開けません。もしよろしければ、私の商隊に身を寄せませんか?砂漠を旅する中で、きっと新しい何かが見つかるはずです」


 申し出に迷った。このまま一人でいても、行き場がない。不思議な温かさと力強さ。


「……お願いします」


 商隊に加わるとその後は驚きばかり。キャラバンの一員として砂漠を旅する日々は、プルベリにとって過酷でありながらも、新鮮な驚きと発見の連続。厳しい自然の中で生きる人々の逞しさ、交易で得られる富。

  オーランをはじめとする、仲間たちの温かい友情が、プルベリの心を少しずつ癒していった。オーランは、プルベリに様々なことを教えてくれる。砂漠の知識、サバイバル術、商売の基本。

 持ち前の聡明さと負けん気の強さで、それらを吸収していった。いつしか、プルベリはただ庇護されるだけの存在ではなく、商隊にとってなくてはならない一員となる。


 彼女の鋭い洞察力と交渉術は、幾度となく商隊の危機を救い、大きな利益をもたらす。共に砂漠を旅する中で、プルベリはオーランに特別な感情を抱くようになっていた。彼の優しさ、強さ、彼女の過去を一切気にせず、ありのままの彼女を受け入れてくれる温かさに、心惹かれていったのだ。


 一方、オーランもまたプルベリの聡明さ、芯の強さ、時折見せる脆さに惹かれていた。最初はただの気の毒な少女だった彼女は、いつしか彼の心の中でかけがえのない存在となっていく。ある満月の夜、砂漠のオアシスで二人は互いの気持ちを確かめ合った。


「あなたを……愛しています」


 オーランの熱い眼差しに、プルベリの頬は赤く染まった。


「私も……オーランのことが、好きです」


 二人は固く抱きしめ合い、砂漠の夜空の下で永遠の愛を誓い合う。愛するオーランと、信頼できる仲間たちと共に過ごす日々はプルベリにとって夢のよう。心の奥底には、かつての家族への憎しみと、見返してやりたいという強い思いが依然として燻っていた。

 そんなある日。オーランの商隊は偶然にもプルベリの故郷であるアルジャミーラへと向かうことになった。オーランは、プルベリの複雑な表情を察し、優しく声をかける。


「もし辛ければ、無理に顔を出す必要はありません」


 プルベリは静かに首を横に振る。


「いいえ、オーラン。行く。今の私を、あの愚かな家族に見せつけてやる」


 数年ぶりに足を踏み入れた王都アズールは以前と変わらず賑わっていたものの、プルベリの心境は大きく異なっていた。怯えるように歩いていたこの街を、今は堂々と、誇りを持って歩いている。

 オーランと共に王宮へと向かうプルベリの姿は、かつての陰鬱な少女とはまるで別人。異国の美しい衣装を身にまとい、自信に満ちた表情は、見る者を惹きつける魅力に溢れていた。


 王宮の門前で、プルベリは衛兵に堂々と名乗った。


「私はプルベリ。王宮に仕えていた者」


 衛兵たちは目の前に立つ美しい女性が追い出された王女プルベリだとは気づかなかった。彼らは訝しげな表情を浮かべながらも、プルベリを謁見の間へと通す。謁見の間では国王とトマーリアが、外国からの使節と談笑していた。


 プルベリの姿を見た瞬間、二人の表情は驚愕に変わる。


「あ……プルベリ!?」


 トマーリアは、信じられないといった表情で声を上げた。


 国王も目を丸くしてプルベリを見つめている。冷ややかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと二人に近づいた。


「ご無沙汰しております、父上、トマーリア。お元気そうで何よりです」


 堂々とした態度と以前とは見違えるような美しさに、国王とトマーリアは言葉を失う。彼女は、オーランを伴って二人の前に進み出ると、高らかに言った。


「この方は私の夫のオーランです。彼は砂漠の広大な地域を治める、強大な商隊の長であり、私の愛する人です」


 オーランは、プルベリの言葉に合わせ、堂々とした態度で国王とトマーリアに挨拶をした威圧感に、二人は思わず息を呑んだ。彼女はさらに畳み掛ける。


「あなたたちが私を追い出したおかげで、私は愛する夫と、かけがえのない仲間たちに出会うことができました。想像もできないほどの富と、自由を手に入れました」


 国王とトマーリアは、プルベリの言葉に愕然とした。見下していた娘が、今や自分たちよりも遥かに豊かな生活を送っている事実に、二人は激しい衝撃を受けた。最後に冷たい視線を二人に向けると言い放つ。


「あなたたちが私にした仕打ち、決して忘れません。いつか必ず、あなたたちを後悔させてみせますから」


 言い終えると、プルベリはオーランと手を取り合い、堂々と謁見の間を後に。残された国王とトマーリアは、悔しさと屈辱に顔を歪ませていた。王宮を後にした彼女は、オーランの腕の中で、静かに涙を流す。

 悲しみや憎しみではなく、長年の恨みがようやく晴れたことによる、安堵の涙だった。


「もう大丈夫だよ、プルベリ」


 オーランは優しくプルベリを抱きしめ、背をそっと撫でた。彼女は、オーランの温もりに包まれながら、新たな人生への希望に胸を膨らませる。砂漠の夕焼けが二人のシルエットを茜色に染め上げた。

 プルベリの心には、恨みはもうなかった。ただ愛するオーランと、共に生きていく喜びだけ。アルジャミーラ王国が、その愚かな行いを深く後悔する日が来ることを、プルベリは静かに確信していた。

 彼女はもう、過去の弱々しい王女ではない。


 困難を乗り越え、自らの手で未来を切り開く強く美しい女性へと成長したのだから。

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