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令嬢たちのざまぁコレクション(大体一話完結/短編集)  作者: リーシャ


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104異世界で巡り合う運命の番。トラックに轢かれたと思った瞬間、意識は途絶え、気がつけばこの異世界の森の中に立っていたのだから

ざまぁなし

 異世界で巡り合う運命の番


 鮮やかな緑がどこまでも広がる、見慣れない森の中。木漏れ日が時折、地面に落ちる影を揺らす。まさか、こんな形で人生がやり直されるなんて、数ヶ月前までは想像すらしていなかった。トラックに轢かれたと思った瞬間、意識は途絶え、気がつけばこの異世界の森の中に立っていたのだから。

 向こうの世界では、ごく普通の女子大生。世界ではまだ名乗っていないのは、警戒心から、誰かに会うまでは秘密にしておこうと思っている。


 この世界に来てからというもの、サバイバル生活の連続。言葉は通じないし、食べられる植物を見つけるのも一苦労。魔物らしき影を見た時には、心臓が凍りつくかと思った。それでも持ち前の適応能力と前世で読んだ異世界転生ものの知識を頼りに、なんとか生き延びられている。限界だったけど。

 そんなある日のこと。いつものように森を探索していると、開けた場所に出た。信じられないほど美しい湖が広がっており、ほとりに一人の男性がいて、背が高く、鍛え上げられた体躯、風になびく黒曜石のような髪。


 奪ったのは深く静かな瞳で、吸い込まれそうなほど深い藍色をしていて、見ていると心が落ち着くような、不思議な引力があった。彼は、こちらに気づくとゆっくりと振り返り、顔立ちは、彫刻のように整っており、息をのむほどに美しい。


 どこか憂いを帯びた表情をしているのが気になった。警戒しながらも、彼に近づく。言葉が通じないかもしれないけれど、もしかしたら何か情報が得られるかもしれないと思ったから。


「あの……こんにちは」


 拙いながらも話しかけてみると、彼は少し驚いたように目を見開き、信じられない言葉を口にした。


「あなたは……違う世界の者か?」


 流暢な、けれどどこか古風な響きを持つ言葉だった。


「え?」


 まさか、この世界で言葉が通じる人がいるなんて。驚きと安堵で、胸がいっぱいになった。


「はい。気がついたら、ここにいました。あなたは?」


 彼はゆっくりと口を開いた。


「俺は朔夜さくや。森の奥で番を待っている」


「番……ですか?」


 聞き慣れない言葉に、首を傾げた。彼は少し困ったような、諦めたような表情で言った。


「ああ。俺は、俺たちは、魂の伴侶を持つ定めにある。互いを求め合い、共に生きる存在。それが、番だ」


 彼の言葉は、どこか切なく響いた。待ち人がなかなか現れないことを嘆いているよう。朔夜と少しずつ、言葉を交わすようになったら彼は、この世界のことを色々と教えてくれた。ここは、精霊が宿る豊かな大地であり、人間だけでなく、様々な亜人種や魔物が存在することや番と呼ばれる特別な繋がりを持つ者たちがいること。


 朔夜は、強い力を持つ一族の末裔で、早くから番を持つことが期待されていたらしい。だが、長年待ち続けても、その相手は現れなかったという。共に過ごすうちに、朔夜の優しさや、時折見せる寂しげな表情に惹かれていった。


 彼は、言葉に不自由しないように、根気強くこの世界の言葉を教えてくれ、採取してきた見慣れない植物についても、危険なものと安全なものを丁寧に教えてくれる。怪我をしてしまった時、彼は心配そうな表情で手当てをしてくれ、その時の、彼の指先の温かさが、今でも忘れられない。

 一方の朔夜も、異質な存在に興味を持っているよう。話す言葉や、持っていた奇妙な知識に、彼は目を輝かせ、特に、話す元の世界の文化や科学の話は、彼にとって新鮮だったようだ。


「君の世界には、空を飛ぶ鉄の鳥がいるのか?信じられないな」

 目を丸くしてそう言う。


 純粋な驚きぶりに、思わず微笑んでしまった。言葉や文化の違いを超えて、少しずつ心を通わせていき、共に食事をし、共に森を歩き、時には他愛ない話で笑い合う。

 そんな日々が過ぎる中で、自分の心に変化が起きていることに気づいた。一緒にいると、心が安らぎ、温かい気持ちになるし、彼の優しい眼差しや、低いけれど心地よい声を聞いていると、胸の奥がじんわりと熱くなる。


 もしかしたら……彼に惹かれているのかもしれない。けれど、彼の待つ番は、この世界の彼と同じ種族の特別な力を持った誰かなのだろう。


 考えるだけで、胸が締め付けられるように苦しかった。ある夜、湖のほとりで二人で星空を見上げていた時、満天の星が宝石のように輝いていた。


「葵」


 不意に、名前を呼んだ彼の声はいつもより少し低く震えているようにも聞こえた。


「はい?」


 顔を上げると、真剣な眼差しで見つめていたその瞳の奥には今まで見たことのない強さ。


「初めて君を見た時から、不思議な感覚があった。ずっと昔から知っていたような……そんな気がしたんだ」


 心臓がドキリと跳ね上がった。


「長年番を待ち続けてきた。君と出会って初めて……本当に大切な存在を見つけた気がする」


 躊躇しながら、それでもまっすぐに目を見つめて言った。


「葵……君は俺の番ではないだろうか?」


 彼の言葉は、予想を遥かに超えていた。彼が?


「でも、私は……あなたとは違う世界の人間です。番というのは、同じ種族の、特別な繋がりを持つ者同士なのでは……?」


 戸惑いを隠せない中、朔夜は静かに首を振った。


「確かに、一般的にはそう言われている。けれど、魂の繋がりは、種族や生まれた世界など、関係ないのかもしれない。君といると、心が深く満たされるんだ。まるで、失われた半身を見つけたように」


 彼の言葉は、胸に深く突き刺さった。一緒にいると、言葉にならない安心感と幸福感に包まれる。それは、これまで生きてきた中で一度も感じたことのない特別な感情だった。


「私も……朔夜さんと一緒にいると、とても心が安らぎます。あなたのことを……」


 言いかけた言葉を、飲み込んだ。自分の気持ちを伝える勇気が、まだ足りなかった様子を見て、朔夜は優しく微笑んだ。


「焦らなくてもいい。ゆっくりと、俺たちの繋がりを深めていけばいい」


 どれほど救われただろうか。それから、深く語り合うようになり、お互いの生きてきた世界のこと、大切にしていること、これから共に生きていきたい未来のこと。

 朔夜は、この世界の自然や精霊を深く愛していた。彼は、森の木々一本一本、湖の水の流れ一つ一つに、敬意を払って生きていたその姿を見ていると、世界の美しさに惹かれていく。


 ある日、彼が生まれ育ったという森の奥深くにある隠れ里に連れて行ってくれたそこには、彼と同じように、自然と共に生きる穏やかな人々が暮らしていた。異世界から来た人間を、温かく迎え入れてくれていると聞く。

 里での生活は、元の世界とは全く違っていたけれど、不思議と心が落ち着いた。人々は皆優しく、助け合いながら生きていき朔夜は、里の皆にとって大切な存在であることが接し方からよく分かる。


 里で過ごすうちに、自分の気持ちに正直になろうと決め、朔夜への想いは、日増しに強くなっていた。私は私らしくいられる。彼の笑顔を見ると、自然と笑顔が浮かぶ。


 満月の夜、再び湖のほとりに立ち静かな湖面に、月明かりが優しく降り注いでいる。


「朔夜さん」


 意を決して彼の名前を呼んだ。


「葵……」


 彼は声に応えて、優しく手を取られ、その手の温かさが、勇気を後押ししてくれるようだった。


「初めてあなたに会った時から、あなたの瞳の奥に、強い光を感じていました。一緒に過ごすうちに、その光に惹かれていきました。あなたのことが、好きです」


 聞いた瞬間、朔夜の瞳が大きく見開かれ信じられないほどの喜びが、彼の表情いっぱいに広がる。


「葵……!愛してる。初めて会った時から、君の魂に惹かれていた。まさか、君が俺の番だとは……夢のようだ」


 痛いほど、手を強く握りしめ、優しく抱きしめてくれた彼の温かい腕の中で、初めて、この異世界で本当の居場所を見つけたような気がして、月明かりの下、固く抱き合う。言葉はいらなかった。

 お互いの鼓動が、確かに一つになっているのを感じたから。

 それから、番としての絆を深めていった。朔夜は、大切に深く愛してくれ彼の優しさに応えたいと、いつも思っている。


 文化の違い、元の世界から来たという大きな壁があったけれど、互いを理解しようと努め、尊重し合い困難を乗り越えていく。元の世界のことをもっと、知りたいと熱心に尋ねてくれた。できる限り詳しく、故郷の話をし、目を輝かせながら話に耳を傾け、時には驚き、時には悲しんだ。

 この世界のことを、もっと深く知りたいと朔夜は、世界の歴史や文化、彼の一族に伝わることを、丁寧に教えてくれた。

 共に過ごす時間の中で、お互いにとってかけがえのない存在になっていく。


 いつも笑顔でいられたし、彼の温かい眼差しは、奥深くまで優しく照らしてくれる。いつしか、異世界に転生してきたことへの不安や孤独は薄れ、朔夜と共に生きる未来への希望が、満たすようになっていった。

 世界の美しい自然の中で、静かに愛を育み、時には、二人で森を散策し、美しい景色を眺める。湖のほとりで語り合い、お互いの想いを確かめ合った。彼がいなければこの過酷な異世界で、孤独に押しつぶされていたかもしれない。


 彼と出会えたことは、人生にとって、最大の幸運だった。ずっと探し求めていた、運命の番。これからも、共に手を取り合い、この世界で生きていくのだろう。

 美しい星空の下で永遠の愛を誓い合うのは魂が惹かれ合った運命の番として顔を見合わせた。

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