そのXLIII
これはただ認められたいんじゃない。
どれも単に評価されたいんじゃない。
そう、あれは淡々と言ってしまえば。
私だけの特別も、あなたにとっての特別としてしまっておいてほしいだけなんだ。
毎週日曜日に投稿しています。よろしくお願いします。
私が立っていたのは、向かい合う二人を傍観するような離れた位置だった。
「愛歌……」
「大丈夫よ。ええ、大丈夫大丈夫……」
「愛歌、死なないで」
「大丈夫よ和先生……わたしはいるわ。大丈夫だもの」
何度も何度もしつこくくどくうるさく言い聞かせるように大丈夫と唱える愛歌。
畏怖すら覚えてしまいそうなほど大丈夫だと口にする愛歌が今どんな顔をしているのか私の場所からは見えない。
ただ、本当に大丈夫なはずがないだろうとは明らかに理解できる。
そんな憔悴している愛歌の頭部を胸元で抱きかかえ、機械のように止まることなく撫で続けている水島先生。
…………まさか、とは思い違うことは難しかった。
これは、確かに私が招いた事態なのは、間違いなかった。
「なんで、私なんかのために……」
私は愛歌にもっと笑っていてほしい時間をあげたかっただけなのに。
今にも崩れ落ちてしまいそうなほどの涙を流そうとしている。
それは誰もが望んでいない答えだ。
じゃあそれはどこで間違えたというのか。
私があのときあの場所であの選択をしたことか。
でももし、その反対をただ指を咥えて眺めていればよかったのか。
そんなのは許さない。私が愛歌の存在を否定するな。そんな自分は一刻も早く一切も残さず死んでしまえ。
なら、悪いのは私か? いや、あの瞬間あの永久の別離を求めた愛歌がそもそも悪なのか?
愛歌がいなくなることは私が望まない。その逆は今この時が鮮明に教えてくれている。
ならば、そうなれば自らの命を投げ捨てようとした愛歌が、その間違いの元凶となる。
愛歌がもし平然と平凡な、あの二人だけの時間を平穏に送ることを選んでいたならば……。
ここでこんなことにはなっていないんだろう。
「ねぇ、和先生、わたしはなぜ生きるのかしら?」
考えが幾度も繰り返され、雁字搦めになりそうなころ。
愛歌はぽつりと、死にかけている弱い声をあげた。
それはひどく虚しく。
生きている人間が放っていいわけがない、猜疑心の籠った残酷な言葉だった。
…………そんなの、私が生きていてほしいと思うからだよ。
どれだけ不器用でくさくて不恰好でもこれだけは言いたい。伝わることのない本心がふつふつと私の内部を熱くする。
生きている。それだけでいいんだと、目を合わせて届けたい。
でもそれが叶わない今がたまらなくもどかしい。
それに、それを言う私が死んでしまっては、かぎりなく歯痒い……。
「それは、透華が愛歌に生きていてほしいから……じゃないかな」
水島先生がぽつりと、愛歌と同じ声量くらいだったけど、一本の芯のような意志を宿した言葉を返した。
まさに、私が言いたかったことをそのまま言ってくれた。
それだけで、私は内心安堵して、それが愛歌の中でまた前を向く希望になればと願った。
でも、それで愛歌の顔が上がることはなかった。未だに蹲ったまま……。
「でもわたしは透華にもらってばかりだったわ……わたしの指があんなにも自由に音を奏でたのは透華が聴いてくれたから。あんなにもわたしが外の世界が楽しいと思えたのは透華が一緒に歩いてくれたから……」
それを言うなら私の方こそ、愛歌からもらってばかりだ。
あの私が好きなメロディだって、鳴らしたのは愛歌ただ一人だけ。外の世界を楽しく歩けたのは愛歌という存在だけを私が幸せにしたかったから。
どれもこれも、愛歌だから。
私はあなただけを想って生きてきたのだから……。
「いつもいつも透華はわたしのそばにいてくれるの」
当たり前だよ。今までだって、これからだって私は愛歌だけのためのもの。
「わたしが自分のことを勝手に話しても笑って許してくれるの。たまにわがままを言っても、なぜか答えてくれるの」
当然でしょ。私なんて所詮は愛歌の所有物みたいなものなんだからさ。先に使ってよ。
あなたの幸せこそが、私の最上の至福なんだから。
「わたしはわたしだけのことばかり……」
それが自然でしょ。それでいいんだよ。それが本来の人間が進むべき正しい人生なんだから。
ただ、私はそれがないから。だから愛歌を利用してるようなものなんだよ……悪いのは私の方だよ。
「うん……うん……うん」
愛歌の曝け出される不平不満を全てうなずいて答える水島先生はそれ以上何も言わなかった。
そして、最後に愛歌は水島先生の体に手を回して、ぎゅっと強く抱きしめる……締め付けるように力を込めていた。
「なら、透華はどこにいるの?」
え……?
「本当の透華はどこにいるというの?」
あ、愛歌……? なにを言ってるの?
今まで愛歌が見てきた私こそが私なんだよ。
「わたしは透華の本気を知らないわ。透華がなにをしたくて、どこを歩いているのか全く分からないわ」
それは愛歌のそばにいられるだけで十分なんだよ愛歌。それくらい分かってよ……。
「ねぇ、透華。絵を描いてるのでしょう。それはあなたの、あなただけの答えなのよ」
「だから、わたしはあなたの描きたいと思うものを見ていたいのよ……悪い子かしら?」
…………私は。
愛歌だけでいいんだから。あなたが見た景色を描いていたいというのに……。
あぁ、どうしてかな。上手く答えられないや。
言いたいことはもう、口先まで用意できてるのに。
頭の中に思い浮かんだものは、私だけのものだ。
どうもこんばんは雨水雄です。
うはぁ……もうこんな時間なんですね……日曜終わるじゃん……と冷や汗ものです。
最近さらに書きたいものが増えたなぁ……と実感できるほど日常生活の中でぽんぽんとお話が思い浮かんでくるんですが、まぁ大変喜ばしくやりがいもあって本望ではあるんですが。
雨水の頭ではパンクしてしまう……。
あぁ、あの作品ではあれを書きたいこれも書きたい。あ、でもこんな話もいいな……いやでもここの部分はあっちのお話でもいいかもな……おっとこんなお話もいいんじゃないか? なんてお祭り騒ぎの日々を送っております。コップの中で大嵐を巻き起こしちゃってます……。
という言い訳ではないのですが、最近投稿する時間が不規則になっている理由がそれです。すみません……。
その分、色んなところで少しずつ作品を投稿しちゃってますので、どうぞそちらもよろしければぜひぜひ。
というわけで、今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。花粉症気をつけてね。




