そのXXXVIII
人とは、本当に一番と思うことが揺るがないと思い込んでいても。
そのときどきで、一番頭を駆け巡るものは違っていて。
自分の中を走る核心や柱軸ですら通らないときがあるんだって、私は知らなかったことに、気付く。
毎週日曜日に投稿します。よろしくお願いします。
一斤染に覆われた中をしばらく歩き続けたところ。
ちょうど太陽も南に座したころだった。
「透華、ここでゆっくりしましょう!」
彼女は四方がその色で包まれた中心部で、私に振り向く。
風の波に、彼女のワンピースが揺れる。
ただ、立っているだけなのに、その薄紅色の中に同化することなく、一際存在感があった。
それはむしろ、この世のものではない幻想を目にしているかのような……。
「うん……そうだね」
私は、空を切るような感触がない返事をする。本当にこのまま私の声は彼女をすり抜けてどこかへ消えてしまうんじゃないかと思うほどの。
それでも、彼女は私の目の前から姿を隠すことなく近づいては、その手を引いた。
握られた手に伝わるのは、生きている脈動と確かな体温だった。彼女はそこにいるんだと教えてくれる。
「私、レジャーシートもってきたからここに敷きましょう!」
ぱっと彼女の手が離れ、途端に冷気が手の平を撫でる。
さっきまであった彼女のその手は、今は小さなレジャーシートを掴んでいた。
…………近くにいれば、彼女はそのものだ。
なんの変哲もない、変わりばえもしない、ましてや劣化なんてもってのほか。
強いて言えば、彼女は美しくなりすぎているくらいだ。
ただでさえ独占している彼女の特別を、こうしてまた錦上添花されては、こっちの身がもたない……。
そして、彼女は普段から逸れることない、もう耳から離れることを許さないその声音で、私を呼ぶ。
「さ、透華!」
「う、うん……?」
「早く座ってゆっくりしましょう」
さ、早く! としっぽを振る子犬のような幻覚を私に見せるかのごとく自らの隣を手で優しく叩く。
私はもうそこに座るだけでいい。
彼女の要望はそれだけで叶えられる……というのに。
束の間。本当に、稲妻が落ちる予兆として光るあの一瞬くらい……私は硬直しては彼女のすぐ横のスペースを選ぶ。
そして、おそるおそる腰を下ろし、なぜか正座する。
隣の彼女を見やると、彼女は口を開けて首を傾げていた。
「…………」
「あ、愛歌?」
私も彼女と同じように首を曲げる。目線の角度が彼女と直線上で交わる。
すると、彼女乃瞳はぱっと開き、私を認識する。
「あ、いえ……なんでもないわ」
「だ、大丈夫……?」
「え、えぇ……なんでもないわ」
彼女は二度も、なんでもないと答える。なんか自分に言い聞かせるようで、私には不自然にしか映らない。
「愛歌、本当に大丈夫? 私なにかおかしかったりした?」
彼女の様子は、明らかに私を見てからおかしくなった。それは見られていた私が見ていたのがら間違いない。
だったら、私は一体なにをしたというのだろうか。
心当たりはなにもない……うん、思いつくかぎり。
彼女の隣にこうして座るとき、ほんの一瞬躊躇った自分がいた。その感覚はまだ残っている。不気味なほどの拒絶を感じた。
あれはなんだったのか……分からない。
どうせ、自己肯定感の弱い私のことだから、今日の彼女のそばに寄ることに緊張したんだろう……あぁ、そういうことだ。
果たして、私は彼女をもう一度見やる。
すると、彼女は私に向かって口を開いた。
「いえ、さっき透華がわたしを避けたように感じたのだけれど……ううん、勘違いだったわ。ごめんなさい」
それを聞いた私は胸に繊細な細いなにかが刺さったような焦りを感じた。
でも、それを上手く言葉にはできなくて、結局なにかを言い当てることは難しかった……。
その彼女はというと、眉を下げて申し訳なさそうにした顔をしたあと、またいつも通りの様子に戻った。
…………彼女との間に、なにか不穏な壁がある?
そう違和感を覚えた私だったが、それよりも先に彼女が動いた。
「では、ここでお昼にしましょうか!」
「あ、うん」
その一言で、私の頭の中で優先順位が変わり、その一色に脳内が染まったころには手が勝手に動いていた。
「あ、そういえば……!」
急いでるせいで、細かい動きが鈍くなり、持ってきたバスケットを彼女の目の前に移動させるのにもあたふたしてしまった。
「透華、これは?」
「あ、えっと……なんといいますか……作ってきました」
私はバスケットを開き、彼女に見せる。
中身は星形をしたクロワッサンが詰まっていた。
よかった、形が崩れなくて……と内心私はほっと安堵する。
あとは、彼女に食べてもらって、喜んでもらえれば。
今日の貴重で、かけがえない一日を有終の美で飾れるだろう。
「これ全部、透華が作ったのかしら?」
「あ、うん……そのつもりで私も作ったんだけど……うまくいかなくてさ。これは進也の作ったやつ」
「…………透華のものは一つもないの?」
「う、うん……」
でも、彼女のために彼の作ったものを選んだんだ。
見た目も問題ないし、なにより彼女は彼に好意を寄せていることだから……私の選択は狂ってはいないだろう。
それでも、そのとき私が見た彼女の表情は。
忘れることがないだろうと深く突き刺さったまま、彼女との時間は終わりを告げ。
私は、それこそ忘れる運命を選ぶことになった。
どうも雨水雄です。
今日の投稿で1月も終わるわけですが……。
この雨水、ちょっとしたことを初めまして。
……実はpixivを始めてみましたぁ……!
内容は主に二次創作になるのですが、使用させていただく作品はプロセカ、バンドリ、ウマ娘かな……と。
おそらく最初はプロセカばかりが続くかと(プロットがすでにいくつか思いついていたことと今熱中しているため)思いますが、後々色々な方面で展開していきますので、どうぞ興味のある方は、pixivで雨水雄を調べてみて下さい! あ、ジャンルは百合かな……と。好きなので。
まぁ、こっちでもオリジナル作品をまだまだ更新していくので、こちらもよければ引き続き楽しんでいただけたらと思います!
さて、今週もここまで読んでくださりありがとうございます(本当、告知だけしかしてないのに読んでくださり感謝です!)
では、来週もよければここで。




