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23グラムの旋律  作者: 雨水雄
30/52

そのXXX

これが私の好きなことなんです。好きなものなんです。好きな人なんです。

そう主張することは、きっと私を肯定する要素だから。

だから、惨めな私がそれを主張すると、蔑まされるのは私だけではないから。

だから、まだ怖がって膝が笑っている。


毎週日曜日に投稿しています。よろしくお願いします。

「じゃあ今日もよろしく」

「うん、よろしく。進也しんや

「昨日の焼き上がりは悪くなかった。でもおれはまだよくなると思ってる」

「分かった。じゃあ妥協なしでどんどん修正してほしい」

「おう、ならそのつもりで教えていくぞ」

「うん、お願いします!」

私が彼にお願いして始まったクロワッサン作りは、すでに今日で5日目に突入していた。


初日は彼の隣で彼と同じように生地を作って、彼にペースを合わせてもらって工程を進めていたはずなのに、出来上がりは全くの別物だった。

「これは生地が繋がってないんだ。しっかりミキシングをかけてグルテンを作ってやらないと窯のびしない。だから今日の透華とうかの生地はこういう風にべちゃっとしてるんだ」

「でも私、進也しんやと同じ風に同じ時間でやってたはずなのに……」

「それは生地への力のかけ具合が違うからだな」

「そっか……うん、分かった!」

そして、日曜日の定休日を挟んで2日目の月曜日。

「今日はなんで……ちゃんと出来上がった生地は進也しんやに確認してもらったのに」

「今日のやつは折り込みだな。生地でバターを包み込んでから透華とうかは麺棒で生地を均等に伸ばせてなかった。でこぼこしてバターの量がバラバラになってたから大きさが一緒に見えても焼き上がりはこうして違うようになるんだ」

「パンって不思議……」

「だろ? おれもそう思う。でもちゃんと原因と理由もあるから毎日進んだり止まったりの繰り返しがあって楽しいんだよ」

そう告げる彼の笑った顔は、私にはまだ眩しすぎると感じた2日目だった。

さらに3日目の火曜日になり。

「え、なんで今日は小さいのばっかりなの……」

「これは発酵の問題だな」

「発酵……?」

「今日の透華とうかの生地はおれのやつより捏ね上げたとき1℃低かっただろ?」

「え、でも1℃だけだよ?」

「その1℃でこれくらい変わるんだよ。パンの生地って体温と同じようなもんで、そのたった1℃で生地にとってしんどかったり、だるかったり、調子がよかったりするんだよ」

「…………そうなんだ」

「それだけのことがこんなにも違ってくるのかよって思うだろ? しかも細かいことをたくさん気にしなきゃいけないから神経使うのも疲れる」

「……ちょっと舐めてたかも」

「大丈夫だ。最初はそんなもんだ。おれだって今だからこうして言えるけど、始めたときは日々成長してるなんてとても思えなかったさ」

「私、ほんとにできるのかな……」

「まぁ、大事なのはできるまでやるってことだな」

「う、うん」

それから4日目の水曜日になった。

「き、今日はどうだろ……?」

「おう、今までで一番いいと思うぞ」

「ほんと!?」

「あぁ、普通にいい。改善点も少なくなってきてるし、実際店に出しても売れるできだろうな」

「や、やった!」

「だからあとは、自分の思うようにするんだ」

「どういうこと?」

「これを食べてみて、もう少し食感を変えたいならバターの量であったり折り込みの回数を調整しなきゃいけないし、最終発酵の具合もいじればいい。それは透華とうかが決めてくれればあとはおれがその要望通りに修正していく」

「……な、なるほど」

「だからまた明日なにかあれば言ってくれ」

「わ、分かった!」




そのまま今日はもう5日目の木曜日だ。

つまり残すこと2日。土曜日の朝に出来上がったものが私のこの一週間の集大成になる。

それまでに私が満足して彼女に届けられるようにするには、私がどうしたいかをはっきりさせないといけない。

そう思いながらここ数日は自分で作ったクロワッサンを齧りながら登校している。

……実際なにが違うのか分からない。

「お、今日は内層が綺麗だな」

とか、隣で彼はぶつぶつ言ってたりするが私にはさっぱりだ。

どういう意味? と聞いたところで彼の説明してくれることがまた私を迷走送りにする。

毎日結果論ばかりだけが残って、実際作っている最中はなにをどうすればよくなるのかなんて想像できないまま工程が進んでいく。

彼は私が踏み外しそうになる度に、助言をいくつもくれるが、思うように手が動いてくれないことが多くて、やっぱり焼き上がったときに彼の言う通りだったんだと思い知らされる。

焼くまでどうなるか分からないから、生地をどう扱えばいいのか難しい……。

それをさらに自分好みにアレンジしていくなんて、私には難易度が高すぎる。

「それで、透華とうかはどうしたいか決まったのか?」

今日も彼は隣にいる。

外は暗く、明かりがあるのはこの店内だけ。

響く音は機械が活発的に動くそれだけで、彼の声でようやく会話が始まる。

でも、彼の切り出したその質問に、私は言葉が詰まる。

「それが…………正直分からない」

ようやく答えたそれも、随分歯切れが悪い。

なにかを生み出す難しさは、いつだって変わらない。

楽しさと不安の板挟みになって、最終的には信念を貫く勇気が必要なもの。

ただの好奇心で触れた私にはその信念がなく。

「そっか。まぁ、そうだよな」

彼もそこで呆れもせず、まるで懐かしむように何度も頷く。

「…………」

そんなこと何度も経験したと言わんばかりに首を振る彼に私はなにも言葉が出なかった。

作り手において発想力や想像力、そして実行力。さらには悪戦苦闘しても理想に追い縋る継続力。

そんなものと対峙するのは日常茶飯事なのだ。

その一歩目で、私は躓いて、転びそうになって、なんとか片足立ちで踏ん張ってるだけ。まだ前に踏み出しちゃいない。

しばらくどうすることもできず、思考も停止した状態で止まっていると、彼に肩を叩かれた。

「一回、外出るか」

「え……?」

彼は腰に巻いている前掛の結び目を解いている。本当にこの場から離れようとしているらしい。

困惑する私を置いて行こうとする彼。

ちらっとこちらを見る彼と目が合う。ついて来いとその目が訴えてくる。

「親父、ちょっと離れる」

彼のお父さんも二つ返事で許可する。

これはもう仕方ないのか……と私も前掛を外して彼の後ろについて行くことにした。

店を出て、彼の隣に並ぶ。

「恥ずかしいし、透華とうかにこういう話するのは意味があるのか知らねぇけど、なんか今の透華とうかの顔を見てると話をしたくなった」

「うん」

「まぁ、なんていうかさ……パン屋っていってもパンを作るだけかパン屋じゃないんだよ」

口火を切った彼は同時に歩き出す。

さっきまで熱を灯していたあの厨房からどんどんと離れて行く。

この寒い季節の、この暗さに包まれた時間はさらに寒さが増している。

その中で、彼は笑いながら話を続けるのだ。

「まぁ、これはおれの持論なんだけどな」

こんな風に、培った時間があるからこそ語れる自分を。

どうも雨水雄です。

もう12月ですね。今年ももう終わりが近いですね。

先日、雨水の好きな声優である水瀬いのりさんの誕生日でした! おめでとうございます!まぁご本人のお目にかかることはないでしょうけど……せめて届けたいと言葉をこの場で残しておきましょう!

歳の差というものは一生埋まることがなく、かといって広がることもない不変の平行線です。

でもなにかを始める、なにかを終える。それだけのことで歳など関係なく誰かと交わるというのは偶然の中の必然であり唯一無二だと思います。

この先、雨水と水瀬いのりさんの歳の差は変わることはないでしょうけど、いつか雨水の作品がたくさんの人の元に届いて、アニメ化するなんてことがあったら出会う可能性はあるんです。学校も違うし、やってきたことも違うけれど、交わる運命の糸は、この旅路の中でいくつも潜んでいるわけですよ。

だから、今日という一日の出会いも無駄ではないでしょう。こうして雨水の作品を読んでくださり、その出会いが小さな幸せであれるよう、雨水もまた言葉を紡いでいこうと思います!

ということで、今週もここまで読んでくださりありがとうございます。

では来週もよければここで。

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