そのXXVII
もし、秘密を打ち明けたとした。
もし、懊悩が打ち解けたとした。
でも、本当に知って欲しかったのはそこじゃなくて。
そこに至るまでに地に足をついて轍を残した私を。
その過程を知って、私だけを知って欲しいのだ。
毎週日曜日に投稿してます。よろしくお願いします。
まだ、朝と告げるには早すぎるその閑散とした時間に、私は目を覚ました。
反射的に目覚ましよりも少し早くに起きてしまうのは今では癖になっていて、自然と寝坊を回避するような体質になっていた。
「……………」
いや、それにしては眠すぎる……。
覚醒と同時に思考がたどり着いた感想はそれだけだった。
窓を見る限り、どう見てもまだ夜なのだ。
私を包む空気感は皮膚を刺すばかりで、黙って冬眠でもしていろと恫喝されている気分にしかならない。
……彼は本当にもう起きているのか?
それどころではない。ちゃんと意識をもってパンを作っている? 正気?
4時にはもういるからときいていた私は、昨日の20時には3時に起きるようアラームをセットして、そのまま眠りに落ちた。
「よし、明日から頑張ろう」
そんな新鮮感に胸を膨らませながら。
新しいなにかを始める高揚感を胸の内に秘めながら。
少々興奮気味になってなかなか寝付けなかったけど……。
でもあの時、ほんの数時間前まではやる気に満ちていたはずなのに。
「え、これ無理……」
ほんの数時間、目を閉じていただけで私のやる気は根こそぎ刈り取られたようだった。
それからは無理矢理にでも体を起こし、なんとか洗面台で顔を洗い、冷たい水を顔面に浴びることで少しは視界も意識も明々としてきた。
予定からは随分と遅れた動きで身支度を済ませ、どうにか彼の店に間に合う時間に家を出た。
たぶん、これを言い出したことの責任感と、覚悟を甘く見られたくないという意志と、それ故の彼女への想いがせめてもの私を動かしてくれたけれど。
きっと、普段の私だったら無理な行動だった。
でも、それを毎日欠かさず続けている彼は……。
やっぱり、到底敵わないのではないかと思わせるほどの気持ちがあるんだと、私は思い知らされた。
彼の家はさほど離れていないが、学校とは別方向にある。
だから時たま登校中に合流することはあるが、お互いの家に迎えに行って登校したり……なんてことはない。小学生のときの集団登校のときも、班が一緒ではなかったし、中学にあがってもそれぞれ自由に登校していた。
まぁ……つまり、私は彼の家に久しぶりに訪れるということになる。
学校に着けば一緒にいることは少なくなかったし、私の母がよく彼の店のパンを買ってたりもして、気付けば親同士も知り合いになって距離感は次第に縮まっていた気がする。
それでも私たちはお互いそれ以上踏み込むことはしなかった。なにより、中学生になったころから将来の夢のことを考えるようになり、そのときすでに彼は中学生ながらに実家のパン屋で働いていた。そんな彼を私は邪魔したくなかったということもあって、プライベートまで干渉することはなかった。彼はちょくちょく私を誘ってくれていたようだけど、普段男絡みもない私がなにをどうすればいいのかも分からないし、暇してる私を気遣うのはやめといた方がいいと思い断ってきた。
そうこうしているうちに、私たちは高校生になっていた。
「もう、随分差つけられちゃったな……」
別になにかを競っているわけでもない。
でも、なにかと隣にいてくれた彼は今ではもう少し遠い。
一緒に歩いている時間も、つい遠慮してしまうくらい……。
夢を語る彼は、それだけ夢を知っているし、追いかけている。
だからもうしばらく横顔も見られてない。最近じゃ背中ばかり。眩しい眩しいその後ろ姿は、私たちの生活の差を物語っている。
もう一緒に話してバカみたいに笑っていた小学生とは違う。
もう、自分がある。
荒波に逆らい、地を這い、泥塗れの足で立ち上がり、歩いていく意志がある。
誰にも流されず決めた一本の筋道がある。己を証明する方程式を片手に握り締めている。
振り返った先にその数式を投げ出してしまった手ぶらの私とは違う。着々と式を解いている彼と、やっとペンを見つけた私じゃ……。
「ううん……だから決めたんだ」
遅くてもいい。いずれそこにたどり着けるなら。
私はネガティブな自分に首を振る。このまま自己嫌悪して地団駄踏んでその場で遠吠えをあげるだけはもうやめだ。
決めたんだ、進むって。
「だから、進也を見て学ぼう」
今の彼がなにを見ているのか。
私にとってはもうできている彼が、まだなにをできていないと足掻きもがいているのか。
その生き様を見てみたい。私だってまだ夢の橋を諦めきれないから。
「…………ふぅ」
だからなのかな……。
そんなに遠くないはずなのに、頭の中がこんなにもうるさい。同時に鼓動が強く速く私の中で暴れている。
以前はこんなことなかったのにな……。
私、緊張してるんだ。
そう自覚すると余計に体が重くなって足取りが悪くなる。
この後彼に会えばなにを言えばいいんだろ。行って私はなにをするんだろう……いやパンを作るんだろうけど。
けどそれだけじゃないはずだし……きっと難しくて大変なんだろうけど、それはなにが苦労するのか想像もついてないし、楽しく笑い合って時間を過ごせたらいいけど、そんな自己満足に彼を巻き添いにしたくないから少しでも私も貢献したいけど……。
「いやでもやっぱり私じゃ足手まといだろ」
間違いない。貢献しようなんて烏滸がましいだろ。
彼は立派な仕事をしているんだ。ぽっと出の私が一朝一夕でどうになるもんじゃないだろ。バカか私は。
「はぁ……着いちゃったよ」
ぶつくさと言っている間にもう私の足は彼の家の前で止まっていた。
いや時計を見ればようやくと言っていいほど経過していたが。
あとは扉を開けて向こうの世界にお邪魔するだけ。バクバクと心臓が体を震わせる。
これを開ければ始まる。彼の夢が。
外の暗さに逆らうように明るさを放つその中で。
彼は汗水垂らして、そこで自分を磨いている。
「…………よし」
これ以上は待たせる方が失礼だ。もう弁えろ私。
全ては彼女のためだ。彼女が笑ってくれるなら、この時間はなによりもかけがえのないものになる。
だから、そうさせるために。
ここから先で、私は後悔してはいけないのだ。
どうもおはようございます。雨水雄です。
雨降って地固まると言いますが、今の季節だとそれ以上に体が硬直してしまいます……はぁ、寒い。
寒いから人肌が恋しくなり、また燦然と輝く街並みを隣り合わせになりがら眺めて……なんて毎年思いながら今年も、もうすでにイルミネーションが夜の街を彩り始めましたね。
歳を重ねるごとに素敵な出会いという経験が増えたなと思うようになり、まぁそれも悪く言えば取捨選択が上手くなったのかなぁ……なんてしみじみ感じてたりします。
そしていずれはこの雨水の相手になってくれる魅力的な人が現れたらな……なんて理想を抱いてるうちはたぶん現実には舞い降りてきてはくれませんね。まぁ日進月歩の繰り返し!雨水は雨水らしく、そしてその出会いの中で出逢いを期待して……今日も頑張ります!
さて今週もこんな与太話にまで付き合ってくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。




