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23グラムの旋律  作者: 雨水雄
26/52

そのXXVI

その人を喜ばせたくて。

その人だけを喜ばせたいけど。

たった一人なんだとしても。

私は一人の力で幸せにできないから。

だから人には体は一つだけど手は二つあるんだと思うんだ。


毎週日曜日に投稿しています。よろしくお願いします。

来週は彼女と花見をする約束を交わした。

それは唐突に、突拍子もなく訪れた機会だった。

いつだってそうだ。

約束とは気まぐれで偶然で、それを必然と絶対へ繋げるおまじないだ。

絆が深ければ深いほど魔法のようなその言葉は。

逆手にとれば、それはこんなにも浅はかな思いだったのかと裏切りを覚えるほど取り返しのつかない現実を突きつける毒にだってなる。


もはや一か八かの博打のような約束という契りは。

上辺を取り繕っては大事に大事にして、顔色を伺っては色眼鏡の使い方だけ上手になって、独りになることだけを避けるための背水の陣のような方便なのか。

きっと、本当はそうじゃないんだ。人は誰だってやさしい生き物なんだから。

蓋を開けてみれば、隠された自分はもっと綺麗で素直。

でも自信がないからまた隠蔽して、それは誰もがそうなんだと決めつけて、だから顔色を伺って並ぼうとする。そして色眼鏡を使っては粗探しをしてまた並ぼうとする。

そして確認するように約束を交わして一人じゃないことをお互い認識して共依存に浸る……。

それは私が最も嫌な関係だから。

約束とはもっと単純であってほしいから。

首の皮一枚繋がった関係を確認するようなものじゃなくて、ちゃんと純粋にその人とその日会えることを楽しめるように。

自信がなくたっていい。それだけで人は避けたりしない。それで避けるくらいならいっそのこと裂いてやればいい。

憧れの人、尊敬してる人を縛りつけるような約束も、それを自己評価の一部に取り入れようとするのもきっと痛い目を見るのは自分だから。

だったら正直に努力を覚えればいい。その人とそういう関係になればいい。教わって、強くなって、そうすれば二人の関係もまた堅固なものに変わっていくはずだから。

だから約束というのは。

純度と高い好意が織りなす、愛情表現みたいなものなんだ。




私は、私自身を微塵も期待しちゃいなかった。

自信は欠片もなく。努力はまだまだ小さな結晶のまま。

だから絵を描き続けるしかない。情けなくても惨めでも、どれだけ格好悪くても、昨日よりは格好良くなりたいから。

泥臭くても、それは足掻いた者しか知らない最高の景色の一部なんだ。

あまりにも美しすぎる絵画よりも、一見汚く見える方が。

それくらい生々しい方が私らしいから。

最近はそう思えるようになったから。全部が全部正しくて真っ当な道のりとは限らないから。ちょっとくらいダサくても気持ち悪くても、白い目で見られても、後ろ指を刺されても、バカにされても……。

それこそ努力している証拠になるから。頑張ってない人はそもそも見られる対象にならないから。

最近はそう思えるようになったから。

だから私は来週を楽しみにしていた。

彼女と会えることはもちろん。それとは別に。

「いつか愛歌あいかの絵を描きたいな……」

太陽の眠る暗い夜の中。

私は自分の部屋でスケッチブックを目の前にして呟いた。

それは以前までなら想像もつかなかった一言で。

変わろうと思って、今その道を進んでいるから生まれた望みだった。

今の自分の絵に納得なんてできっこない。でもたぶんそれは時間が経って、今よりも成長した自分になったとしても、やっぱり納得はできやしないままなんだろう。

けどそれでいい。むしろそれがいい。その方が私は未来を楽しみに苦しみ続けられるから。生きている実感が湧くから。

だから、せめて今の自分をここで証明してみよう。

それで彼女が喜んでくれると信じて。

「あ、そうだ……」

そして私は同時にいいことを思いついた。




「ねえ、進也しんや、パンの作り方教えてくれないかな?」

「…………は?」

その日、私はのそのそ歩く下校中の彼の肩を後ろからぽんぽんと叩く。

挨拶代わりの交渉した私に、彼は間抜けな返事をしてくれた。

「いきなりなんだけど、ちょっとお願いしたくて……」

「お、おう……え、なんで?」

どういう風回しで? といった訝しんだ表情をもろだしにした彼は思わず足を止めた。

私も合わせて足を止めようとしたが、やっぱりやめた。

一歩ずつ進むたびに彼と距離ができてくる。でも別に声量を上げたりなんかしない。

「来週さ、愛歌あいかと桜を見に行くんだけど。ちょっと驚かせたいなぁ……なんて思ったりしてですね」

「…………あぁ、なるほど」

後ろから聞こえた彼の声は、ようやく理解が追いついたみたいで、同時に彼の大きな歩幅もすぐさま私の隣に並ぶ。

それにしてもなんとも落ち着いた声が返ってきたな……もはや落胆とも思わせる声色をしていた。手を煩わせるなって怒ってるのかな……?

「で、いつから? 明日からにするか?」

それにしては少し乗り気で話を進めてくれる。よく乙女心は難しいと言われるが、私にとっては男の子の心の中だって十分難しいものだ。いや、同性であれ女の子も難しい……人って難しい。

「あ、うん。できるなら明日からでお願い」

「まぁ時間ないし簡単にできるやつで試してみるか」

とりあえず、そんなとんとん拍子でこの話は区切りがついた。

そのまましばらく沈黙だけが流れ、それでも彼は私に合わせて隣を歩いてくれていた。

ふとやさしいな……とも思ったりして、私はつい滑らせるように口を開いてしまった。

「ね、ねぇ、そういやさ」

「ん?」

声をかけると彼の視線を感じた。背の高い彼と目を合わせるのはちょっと辛いので私は下を向いた。

「私、また絵を描こうかと思いまして……」

「……おう、そうなのか。でもなんでそんな緊張してんだよ」

「いや、なんか今更だし。今更だからこそなんか恥ずかしいというか……」

「まぁ、きっかけはどうあれよかったんじゃないか? その方が透華とうかも楽しいだろうし」

「う、うん……ありがと」

彼は遅いとも、間に合わないとも、見下したりしないで、むしろ背中を押してくれているような言葉をくれた。

その方が楽しい……か。

確かにそうだろうな。きっと私は楽しいと思ったからその選択をしたんだと、彼は気付かせてくれた。

そしてお礼を告げた私に彼はなにも言わず、それでもまだ隣を歩いてくれた。

たぶん、お礼を言われるほどのことでもないとでも思ってたりするんだろうな……彼自身、まだその道の途中だから。

いつか、彼女に感動と幸せを与えれるような絵を。

そんな絵が描ける日まで……。

「じゃあ明日からよろしく」

「おう、おれは4時には店にいるからいつでも来てくれていいぞ」

「分かった」

私は彼女が喜ぶ顔を想像しながら、いつもの分岐点で彼と別れた。

どうも毎度ながら雨水雄です。

あぁ……もうハロウィンから一週間です。ここ数年その1日が特別なんだと思いながらも、ふと横切った思い出を振り返ると、雨水はすでに11月のカレンダーを目にしてます……あぁせっかくのイベントがぁ……。

でもTwitterなどではたくさんの方の素晴らしいイラストを見て眼福眼福……と目の保養に勤しんでました。

さて!次は紅葉!続いてクリスマス!ですよ!

今年も雨水の隣に相手はいないでしょうが!それがなんぼのもんじゃい!ですよ!

人の楽しみ方は色とりどり。幸せの形は十人十色。

笑い合えればまた明日も人生を謳歌できるというものです。

さて今週もここまで読んでくださりありがとうございました。

では来週もよければここで。

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