そのXXV
桜の花びらは、花弁を散らすから美麗なのか。
それともその5枚がその形と色で風景を彩るから綺麗なのか。
きっとそれはどちらでもよくて。
人にとってその変わらず咲くことが最も美しいのだろう。
冬の冷徹で凍える寒さはいよいよ終わりを告げるようで。
私たちを纏う季節は、そろそろ入れ替わるようだった。
まだ少し残る肌寒さに、私の体はぶるっと震えるけれど、それも嫌な気はしない。
髪を揺らす優しい風は、あぁ……と、また始まりを知らせる。
来たる卯月の季節。
私たちが暮らす環境に、春の訪れが近づいていた。
時は経ち、またこの時間がやってきたんだなと教えてくれる春風は、私の体を学校へ導くように背中を押す。
新しい出会いと、別れの季節。
撫子色に染め上げるソメイヨシノの並木道は、私に始まる焦燥感を覚えさせる。
あぁ……もう一年か。
もう、高校生になって一年が経過したんだ。
期待に胸を膨らませた。なにに期待していんだろうか分からないまま。
なにか変われるきっかけが見つかればいいなと胸を高鳴らせていた。なにかを見つけようと動かないまま。
私はこの一年で、結局なにを手に入れたかったのだろうか。
なにを得たんだろうか……。
第一に、彼女と出会えた。
彼女の奏でる音色に誘われて、私はあの教室で彼女を見つけた。
彼女と交わす言葉は、時間は、気持ちは、冗談も拒絶も虚偽もなくて曝け出され続けた。
それは彼女へなにもかもを預けたい信頼と、同時に自分のちっぽけさを気付かせた。あぁ……私ってこれだけのことしか彼女に伝えられない。胸を張ってなにかを与えることも叶わないのかと……痛感した。自らを悲観するきっかけになった。
でもやっぱりそれじゃ釣り合いが取れないから。
彼女と並ぶには、もらってばかりじゃ不平等だから。
私は母にだって感謝しかできない。もっと自慢してもらいたい。誇りに思ってもらいたい。
そうやって、正直に心を開くたびにちらつく私の手段は、だんだん鮮明になり、いずれは光明になるんだと信じた。信じるしかなかった。もう、それしか残されていなかったから。
でもそれだけは残されているから。だから私はなけなしの勇気を振り絞った。
垣間見る期待をかき集めて、私はそれを許されているだと勘違いして、でもその愚案を愚直に選ぶことを、選んだ。
私はまた、もう一度絵を描くことを決めた。
決めたからには、もう逃げたくない。そう決心して。
私はその唯一の可能性で、幸せを与えたいと願って。
私は出会って変わって、今、進んでいる。
「もう、間違いなんて思いたくないもない……」
ずっとピアノと向き合い続けている彼女を見ていると。
目を背けずパンを作り続けている彼を見ていると。
一人でもめげずに自分らしい絵を探し続けているあの子を見ていると。
つい、正しいことばかりだと見間違えてしまう。
でもたぶんだけど……それは違うんだなと最近は思えるようになった。
それがあなたの夢なんだと最初から選んでくれる神様はどこにもいない。いつだってその目的地に目を向けるために、人生を使って探す権利を委ねられているのは自分自身。
そして、自分だけの武器を握りしめることができるのは、きっと続けるてきた人だけの特権なのだ。
だから遅くてもいい。始まりは今が一番早いのだから。
心にその鞘を用意したのなら、あとは旅に出る準備を整えるだけ。
私は、今もまだ毎日筆を手に取っている。
その中で、今日はその始まりの種を求めてやってきてから一年が経つ。
その時の流れる早さに驚きながら。
私は学校へ登校していた。
桜がひらひら舞う春の教室で。
私は彼女と向き合っていた。
「透華、春ね」
「うん、春だね」
「わたし、春は好きよ」
「むしろ嫌いな季節なんてあるの?」
「そうね……春は桜が綺麗だから好き。夏は暑いけれど海と花火は素敵よね。秋は紅葉が魅力的だわ。冬は夜が楽しみね。……あら? 透華、わたし嫌いな季節はないわ」
「そりゃよかったね。一年中楽しいことだらけだね」
「そう言う透華はどうなのかしら?」
「え、私? そうだな……私は冬は苦手かな。寒くて布団から出られないしなにもしたくなくなるから」
指は悴むし、歯はがちがちなるし、一度ぬくもりを捕まえてしまえばそこから動けなくなる。そうやって時間を棒に振って後悔してしまう連続が襲う季節、冬。だから私は苦手だ。まぁ、そもそもそういう体質に甘えてしまっている自分の弱さが嫌いだ。
「そうなのね。でも遊ぶ場所はたくさんあるからやっぱり楽しいわよ」
「そだね。あったかい冬とかあったら大歓迎かな」
おそらくそれはそれでムードであったり距離の縮まり方に支障がでるんだろうけど。
「そうね……それもいいかもしれないけれど。やっぱり冬は寒いからこそいいんじゃないかしら? 上手く言えないけれど私は寒い冬に外で透華と歩いてみたいわ」
さすがに彼女にも突っ込まれて、私はなにも言い返せず「あはは……」と乾いた笑いだけで返事をする。
「でも冬はもう終わってしまったものね……それまで我慢ね」
「長いけど、冬がきたら一瞬に思えるもんだよ」
「ええ、そうね! わたし、今年の冬を楽しみにしているわ!」
「気が早いな……もっと目先のことを楽しみにしなさいな。ほら、せっかく春がきたんだし」
花見がてらにピクニックとかいいじゃん。風物詩を嗜む時間は、しっかり今を楽しめてて人生を充実してる気がする。
「なら、今度わたしと桜を見に行きましょう! 透華!」
まるで心の中が透けて見られているんじゃないかと思うくらい彼女の言葉は鋭かった。いやもはや私が単純なだけか?
「うん、いいよ。いつにするさ?」
もちろん、私も断る理由などなく二つ返事で賛同する。
彼女とプライベートで一緒に過ごせるなら歓迎だ。
「早いうちがいいわね。桜はすぐに散ってしまうもの……」
「じゃあ、来週とか? なんなら明日とかでも……?」
今日は春休み明けの金曜日。さすがにこの一週間で葉桜に変貌してしまうほど桜もせっかちではないだろう。
「ええ、そうね……それなら来週にしましょう! 楽しみね、透華!」
ほんと私なんか相手にしててよく、そんな笑顔ができるもんだな……と、私は密かに高揚していた。
でもなんだろうな……。
楽しみにしている彼女の笑みは、何度も見てきたはず。
ただ、今回は彼女と出掛ける約束をしたことによる副作用のようなもの。
いやでもこれはただの私の勘違いだ。
それなのに、なぜこんなにも胸騒ぎがするのだろうか……。
私はよく分からない彼女との間に、緊張感に初めて襲われた。
こんにちは雨水雄です。
今日は久々に映画館まで赴いてきました。
「アイの歌声を聴かせて」を観てきたんですけど……やっぱ感動はありますね。あの大画面で圧倒的な演技と内容で涙ちょちょぎれです。
誰かを幸せにしたい気持ちって本当なにものにも変えられない幸せをお互いに届けられますよね。
雨水もまた昨日よりも人にやさしく、あたたかい人間に。
あ、みなさんハッピーハロウィンですよ!楽しんで!
さて今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。




