そのXV
もし誰にも負けない幸せがあるのだとしたら。
それはあなたといる時間全てだと言いたいから。
だから、私の人生は決して私一人のものではないからこそ、あなたに委ねてしまう。
そして、その幸せの勝ち負けを意識してしまうからこそ、私はまだ本当の幸せを知らないのだ。
毎週日曜日に投稿します。よろしくお願いします。
「さて、どこから行きましょうか」
「あれ、前に色々言ってなかったっけ」
「言ったけれどいざ来てみると素敵な場所がいっぱいあるじゃない?」
彼女がそう、私の隣で笑顔を見せる場所は。
普段はただの街並みの風景のはずなのに、なぜこうも派手に華美に純美に彩られるのか。
その期間限定のテーマパークのような賑やかさは私にとって都合がいいのか悪いのかと言えば……どうなんだろうか。
このうるさい心臓の音が漏れることはないが、彼女の声が届くことが難しい。
でも、それでも。
「ではとりあえず歩きましょうか、透華!」
この握られた右手に伝わる小さなぬくもりは、きっと今そこだけが私にとって彼女を感じられる場所だから。
やっぱり少しだけ、都合がいいのかもしれないな……。
「うん。あ、でも愛歌ちゃんと前見て歩いてよ」
引っ張られるこの腕は、彼女が進んでいく力を教えてくれる。
それは、私が思うにとても心地のいいものだった。
彼女と繋がった素手の右手が連れてきてくれた最初の場所は、小さな広場だった。
「透華、ここよ!」
「へぇ、綺麗だね」
そこに広がる多色に飾られた光は、私の両目を釘付けにした。
そこにしかなくて、今にしかないその景色は、彼女といるからこそその特別感がより一層強くなる。むしろ優越感に浸りそうになるほど、私はその一瞬を噛み締めた。独占欲に満ちていた。
「そうね……実際に見てみるとやっぱり綺麗ね」
「愛歌もここに来るの初めてなんだ?」
「ええ。だって見慣れた場所よりも、自分の知らないところへ透華と来てみたくなってしまったものの」
「……なんか、ありがと」
「いいえ、お礼なんていらないわ。全部全部、わたしがしたいようにしているだけだもの。だから、わたしはそれだけしか透華を喜ばせることができないけれど、そう言ってくれるのならわたしこそありがとうだわ」
「…………うん」
私は、刹那戸惑い……というか困惑を覚えた間を空けた。
彼女の隣をこうして、こういう日に歩けることだけで私は幸せを刻み込んでいるのだ。
だから、彼女が私を、私を思って連れてきてくれる場所があるのだとしたら、それだけで十分満たされる。
でも彼女はそこを履き違えてしまうから。私が彼女に合わせているのだと、彼女のわがままに付き合っているのだと、そう彼女は認識してしまっているから……。
だからこうも噛み合わない。
私の禍福はすでに、彼女の存在だけで操られているというのに、彼女は自らを過小評価しすぎなのだ……。
そうは思っているものの、それを言葉にして彼女に伝えるのはどうも間違っていると躊躇ってしまうのは、あまりにも利己的な理想に過ぎないことも分かっている。
言わずともこの気持ちを理解してくれ……なんて阿ることも慮ることも忘れた悠々さは、排他的で、自己中心的。
自分じゃできないことを求めてしまうのは、もはや信頼でも傲慢でもない。暴君そのものだ。
「透華……?」
だから、そんな不安そうな声で私の名前を呼ばないでほしい……私は彼女がいるだけで。いるだけで……。
だけど、そうしてしまっているのも私のせいだ。
「ううん、なんでもないよ。愛歌、遠慮しないで私を連れ回してよ。どこでも私は着いて行くから」
「え、ええ……そうね。せっかくのクリスマスだものね、私が誘ったもののね。ええ、そうよ! ……でも、もし気に入らないものがあれば……」
「そんなものなんてないから。愛歌が選んだものならなんでも私は嬉しいから、さ」
「分かったわ……では任せてちょうだい!」
彼女から塵のようにちらちら感じられる、から元気な声色は。
きっと、自分の選択だけで導かれた場所で自分のようにいっぱいに幸せになれるのは、それはもう自分だけなんじゃないかという、懸念混じりのものだった。
そんなもの…………覆せる手段は私にはない。
だってそうじゃないか…………………………。
仮にもしだ。 私がもし、彼女にでも「あなたと一緒にいるだけでも幸せだから」と言われたとして。
同じ立場になったのならば、結局中途半端を選んでしまうだろう……。
それは妥協や落とし込むものほど諦めたものではないが、確かに最善で最上ではない心残りは少なくともあるものだ。
上手く言葉にしようと努力した時、それを表すなら……。
おそらく、無難な幸福としか言えないものだ。
次にやってきたのは、広場から近くにあったカフェだった。
私も彼女も最近の流行りなんてものには疎くて、なにが人気で何が若者のなかで美味しいと評判があるのか分からない。
「でも透華とゆっくり話せるならどこでもいいわ」
「そうだね、私もそのほうがいいや」
そう言った結果、ほどなく歩いたところにぽつぽつ空席が見えたカフェにお邪魔することにした。
彼女も最初は食事場所や憩いの場所を探してくれていたみたいだが、やはりどうもアウェイには敵わなかったみたいで、実際に見て回ることにした結果が今だ。
私と彼女がカフェに入ると同時に招いてくれたのは、芳醇で香ばしいコーヒーの匂いだった。
ほろ苦くそれでいてすっと胸の内に入り込んでくるその薫りは、どこか安心感とゆったり感を提供してくれる。
「いらっしゃいませ」
それからすぐさま店員がやってきて、私たちを空席へ案内してくれた。こんなときは当然といったように窓辺の席は全て埋まっていて、私たちはより一層人の囲いを感じるような圧迫感と窮屈感がある真ん中の席へ。
「ちょっと落ち着かないわね……」
「なんかどうにもね……」
別に周りが変なわけではない。店の構造がおかしいわけでもない。
ただ、こういう場所に慣れていないせいでこうも無駄に緊張している有様なのだ。
自意識過剰と言っていいほど、なぜか視線を感じてしまうというか、人の存在感がぎゅっと圧になって押し寄せてくる感覚がどうも拭えない。
彼女も珍しくきょろきょろとしていて落ち着きがなかった。
どうやら私と彼女は、狭く、それでも広く感じるあの空間に固執してしまっていたようだった……。
「ご注文がお決まりになりましたらお声掛けお願い致します」
店員の丁寧な接客に会釈して、店員が離れていくと同時に私たちはメニュー表を開いた。
「あら、たくさんあるのね」
「ほんとだね、こういう場所あんま来ないからよく分かんないけど」
たぶん、コーヒーなんだろうけどすごい種類があるんだな……カタカナがいっぱいで文字を読むのもおぼつかない。
国名はなんとなく分かるけどそれ以外はさっぱりだし、なにが違うのかもこれっぽちだ。
「どうしましょうか……」
「ねぇ……どうしようか」
そうして散々悩んだ挙句、私たちはお店のおすすめを頼むことにした。なんだったっけな……エチオピアとかグアテマラだったような気がするけど私には正直どれがどれでも、どうでもよかった。
あとは小腹を満たすために焼き菓子やケーキを注文したが、それもぱっと見と自分の胃袋に合わせたサイズのものを選んだだけに過ぎなかった……味なんて、味わうような余裕がなかった。
ただ、でも彼女の表情が、子供のように稚拙で幼稚で、それでいて純粋無垢な瞳と口元をしていたのは、なんか微笑ましかったかな……。
そして私たちは食べ終えると一呼吸置いて店を出ることにした。
「それで愛歌」
「ん?」
「次はどこに行くの?」
今はまだまだ昼時だ。
正直ご飯というご飯を口にしていないから、またカフェとかに行くのかなとも思ったけど、たぶんあの彼女の様子ならちょっとは遠慮気味になってしまうだろう……。
となると、行き先が気になる。
「そうね……次はあそこにしましょうか」
そして彼女が指さした方角は視線を促すと、あったのは大きな美術館だった。
「え…………」
「わたし、透華と絵が見てみたいわ」
どうも毎度ながら雨水雄です。
最近色々な作品からあれやこれやと刺激と感動をもらうのですが、雨水自身は停滞してるなぁ……とつくづく自分の引き出しの少なさを痛感してます…………。
それもそうで、作品一つ一つにはやっぱり作者のバックストーリーが濃密に関係してくるわけで、近頃の雨水はあまり新鮮感を味わってないな、と。
というわけで来週はちょっとばかし遠出をするので、せっかくですし聖地を回ろうかと! 自分の目で見て、耳で聞いて、体に刻んだ時間をまた血肉にできたらな……と。楽しんできます。
さて、今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。




