そのXIV
求めることは簡単で、単純なことでいいのに。
求められることのハードルはいつだって高く感じてしまう。
その勘違いがいつも、すれ違いになり間違いとなるんだ。
毎週日曜日に投稿します。よろしくお願いします。
12月24日。
クリスマスイヴと呼ばれるそんな特別な日は、唐突でも突然でもなく。
そのくせ、息つく暇もない程、あっという間に訪れた。
私の心境はどこか靄がかかっていて、晴々しくはなかった。
それでもこの恵まれた空模様の下で、私たちは。
「おはよう、透華。ではなく、もうこんにちはかしら」
「そうだね、もうこんにちはだね。愛歌」
浮ついた空気や雰囲気の中、この特別感に浸りながら彼女が隣にいるという今日は、少しばかり私に優越感をくれた。
ほんの日常や、他愛ない毎日の延長線上の今日でしかないはずなのに。
世間が彩る世界はこんなにも鮮やかで賑やかで、夜なのに、それは眩しすぎるものだった。
そして、私はその日を、彼女と過ごす。
明日には過去になって、数年後の今日には懐かしいと思い出になって、いつの間にか忘れたかのように薄まっていくこの景色を……。
共にする。
昨日の終業式の後、私と彼女はいつもの教室で集まっていた。
「明日からは冬休みね」
彼女はピアノの前。私は窓辺に転がる椅子に座っていた。
「そうだね」
「そして明日はクリスマスよ」
「うん…………」
「透華は、その……約束を覚えてくれていたかしら?」
彼女はくるりと体を回して私と対峙する。しかし私には逆光のせいで彼女の顔が上手く見えない。
声色からして、おそらく少し不安めいている。なぜ? とは言わない。確かに、今の約束をしたいつの日以来、私たちはどちらかが煙たがっているでもないけど、それを話題にすることはなかった。
その日が近づくにつれてもなお、口にすることはなかったから。
だから彼女のその色のように、私が忘れたというのも可能性としてはあり得るということ。
でも、私にとっては、限りなく不可能なのだ……。
「うん、覚えてるよ。忘れるわけないじゃん」
どうせ私は、それ以外なにか大切なものを詰め込めるほど、できた人間でも求められる人間でもないのだから。
「そうなのね、それは嬉しいわ」
あ、さっきより明るい色になったのが分かる。
でもそこまで明るくなれるのは、なんで? と言いたくなる。
だから何度も言うけれど、私は…………なにもないんだって。
「じゃあ明日はここにーー」
それでも彼女は、失望も絶望すらも、微塵に感じさせないその色で、私に近寄ってくるのだ。
そして、窓辺に映るその時間が、帰る時だと教えてくれるまで、彼女は私の隣で明日の予定を話してくれた。
あぁ、でもごめん……なんか頭に入ってこないや。
なんかさ……どんなに明日が楽しみで、彼女が喜ばしい表情をしていても。
その裏があるんじゃないかって。それが全ての本音じゃないんだよねって。
彼女の内緒は、まだ私の中で渦巻いているのだった。
じゃあね、と手を振って別れたあと、私は一人で帰路につく途中、コンビニに踏み入れた。
「いらっしゃいませーって、透華か」
来客合図の軽快な音楽が流れると、彼は出入り口にいる私に振り向いた。
「よ」
「よう、なんかここで会うの久しぶりだな」
「そうかな? でもそうかも……最近は愛歌も行きたいって言ってなかったしね」
「それで、今日はどういう心境の変化があって?」
「いや、たまたま。愛歌を駅まで見送って帰ってたら、偶然ここであんたが見えただけ」
「そうか。んじゃおれになんか用があるのか?」
「ないよ。愛歌もついにあんたに冷めちゃったみたいだし、残念だね」
「は? なんの話だよ?」
「んーや、こっちの話」
私はそのまま店内の奥まで歩いて行く。彼は頭を掻きむしりながらご機嫌斜めになりながらレジの方へ戻っていった。
幸い、というのか。今このコンビニには私と彼しかいない。ということは、彼がこの場面で私を追跡してきても、まぁおかしくはない。
でもそれをしないということは、そういうことか。
私は、彼にとっても用無しみたいなものなんだろう……。
とりあえず私はもう帰ろうと思い、近くにあった缶コーヒーを手に取って彼のいるレジに向かう。
「ん、よろしく」
「ん」
彼に缶を手渡して会計をお願いする。
バーコードが出て、会計金額がレジに表示される。あとはお金を払うだけ……私は鞄をごそごそとしていた。
最近財布を出すこともなかったし、奥の方へ入り込んでしまっていたようだった。
「なぁ、透華」
私が鞄を弄り合っている間、彼は退屈そうな声音で話しかけてきた。
「んー?」
私の目と手はずっと鞄の中だ。
「お前さ、明日なんか用事あったりするのか?」
「え? あーうん。明日は愛歌と……と、あった」
ようやく財布を見つけると、半ば強引に引っ張り出す。
あぁ、鞄の中ちょっとぐちゃぐちゃになっちゃったな……まぁでも明日から休みだしいっかと前を向く。
そういえば彼は今、私の明日がどうとか聞いていたような……それに私は彼女と過ごすと答えたはず。
「そっか、ならなんもねぇや」
「え、なに? 明日なんかあった?」
「いーや、なにもないならどこか誘おうと思ったけど先約があるならなんにもねぇよ」
「そ。ごめんね……あ、でも明後日なら」
「なんだ、そっちは空いてんのか?」
25日は空いている。というより明日しか私の予定は埋まっていないのだ。
だから大事なクリスマスと言ったって私と過ごす人なんて…………。
「………………」
ふと思い出す。蘇る誰か。
いや誰かじゃない。私にとってかけがえのない人だ。
その人の、あの顔が脳裏にこびりついているのに、今気づいた。
「おい、なんだよ? 結局明後日はどうなんだ?」
「ごめん、明後日もだめだった」
「…………そうか」
彼は間を空けて、了承の返事をした。
その隙間はきっと断られた寂しさとか悔しさとかそんなストレスがあったと感じられた。いや、それは傲慢かな。私のくせに生意気すぎる……。
「ごめん」
「いや、いいよ」
ちゃんと納得はしてないけど、そうするしかないという滲み出る声と共に、彼は缶コーヒーを私に渡す。
「……ねぇ、聞かないんだ?」
受け取って、私は質問を投げかける。
「なにが?」
「なんでって聞かないんだ?」
「聞いたところでなにも変わらないだろ。それにお前が謝るってことは、まぁ……大切な用事なんだろって思う」
彼は、そんなことを言いながら困ったように笑っていた。
それは本心じゃないけど、本当のことを言っているといった、そんな顔だった。
「……そ、そっか」
「だから、気になるけど聞かない方がいいだろ」
「それ、聞いてるのとあまり変わらないんだけどね」
「なら言わなくていい」
「ほんとに?」
「あぁ。たぶんこういうのってさ、言う言わないのは本人次第だし、結果的に言った言わないで変わるのは知るか知らないかだけだしな」
「まぁ、うん……」
確かに私がもし、あのとき、彼女にも母にもそれはなに? と一言聞いたとして返ってくる答えは、私の知りたかった答えだけではないだろう。
ただ、その答えだけが残っていて、過程という名の気持ちはどこかまた置き去りになってしまう。
「俺はここで知る知らないより、お前が明後日に一番の選択をして一番楽しけりゃそれでいいよ」
だから彼はあえて聞かないのではなく、私がしたいように任せるのだ。
自分と過ごすことを選ばなかったことを言及するより、選んだ答えがあるならそれで楽しめばいいと。否、そっちの方が楽しいから選んだんだろ、と彼は言っているのだ。
「…………ありがと」
なんかもう……敵わないな。
「じゃあ、俺は仕事に戻るから」
彼は強がるでもなく、悔しがるでもなく、淡々と受け入れてはその場を去ってしまったのだった。
そうやって信じられているという、当たり前のくせに重すぎる責任だけを置いて行くのだ。
「うん、がんばって」
彼のこの瞬間、薄々気付いてしまった私にとっては、到底理解しきれないものがあった。
でも、それはやはり私がまだ、まだまだだからなんだろう。
そして私は家に着いて、母が帰ってくると、その選択が間違いではないことを信じて、口火を切った。
「お母さん、25日ね。私と過ごさない?」
「…………うん、ありがとう!」
そして今、私は24日を、こうして迎えることとなり。
彼女に選ばれた私は、彼女の信頼にどう答えるべきなのだろうか。
どうもこんにちは雨水雄です。
最近の雨水はいろいろと映画を観ては刺激を受けては泣いている日々を送ってます。
まぁそもそも雨水は結構感情移入しては依存して引きずるタイプなんですけど……あぁ、ミッドナイト………と今項垂れているとこです。あ、気になる方はヒロアカの31巻を読んだあとに是非映画館へ!
では来週もまた映画に行ってくる雨水でした!
さて今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
また来週もよければここで。




