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23グラムの旋律  作者: 雨水雄
11/52

そのⅪ

それがもし、誰かの道を照らす灯火になるのなら、私は甘んじて捧げよう。

だけど、それは誰かの手を煩わせてしまうから、私は遠慮しておこう。

でも、だから……私は自分の光を見失うのだろう。


毎週日曜日に投稿してます。よろしくお願いします。

誰かを助けたいと思う気持ちと。

一人で目的を成し遂げたい気持ちは。

いつも相対していて、でも自分の中では混在している。

だから、心配や同情をされるとまるで下に見られているように思えて腹が立つ。

でも、かと言って自分がその立場なら、そうではないと断言したい。

隣で並んで、同じように苦労してはその分喜びを分かち合いたいだけ。

あぁ、分かる。分かるよそんなことくらい……。

ただ……ちょっと悔しいと思う自分もいるのだ。

分かち合う幸せというのが。

まるで半分こにされているかのように思えてしまうから……。本当はそうではなく、二人に等しく満杯のそれが与えられているというのに。

だからあえてそれを総じてこんな自分を表すのなら……。

無闇で、無駄で、無意味な…………強がりだ。




それが自分に対して過小評価なのではなく、妥当な判断だなと納得したのは、授業中のことだった。

いつものように待っていれば始まるそれは私にはまだその重要性を唱えてはくれないから。

だから私は、教卓に手をついて一生懸命にその責務を果たしている先生が可哀想に見えた。

失礼だとは自覚している。余計なことを考えてばかりいる自分が無礼だとも承知している。

でも伝わらないのだ……気持ちが。

緩急がなく、淡白で事務的なその仕草や口調が。

それが仕事だとか、やらなければいけないことだとかは授業を受けていれば分かる。

先生は間違ったことをしていない。今だって決して簡単ではない数式を、絡まった紐を解くように丁寧に教えてくれている。

だけれど、なにか熱意を感じられないのだ。

それが本気でやりたいことなのかと聞きたくなるほどに。

ただ、そうしないと生きていけないから仕方なくやってやってるだけなんだという姿勢ばかりが目に入る。

それは捻くれた私の性格のせいなのは理解している。

だから天邪鬼だとか邪推だとかそんな悪態の一つで片付けられるほど辟易されても構わない。

「仕事ってなんなんだろ……」

でもそんな私でもふと漏れ出してしまう愚痴が一つ。

おそらく人生の大半を占めるその生きがいというやつを。

果たして私はなにを選択すれば妥協できるのだろうか……。

「…………」

そうして無意識に目で追っていたのはあの子の後ろ姿だった。

私はあの子に強がった。

でもあの子は純粋に相談を促そうとしてくれていた。

いやでもだからこそ、その眩しすぎる純度が私との明らかな差を物語っていて、私はそれを認めたくなかったのだ。


その八つ当たりのように先生の授業はつまらないと興味を持たずに、仕事への対峙に思考を巡らせることのこの時間とは一体……。

「支離滅裂過ぎる…………」

なにが正しくて、私は一体なにになりたいのか……。

稚拙で、未熟なくせにその先の景色ばかりを気にしている私は……誰のなにを選べばいいのか。

いや、その誰かという助長が……私には分からない。

みんな一人なんだと。

一人で、たまには独りになってそれでもそこに夢があると信じてやまないから努力を続けることはもはや常識だ。

それが最善で、最短なのは確かだから。

でもその背中を支えてくれる手があるとするのならば。

それは情けなんじゃないかと……。

だって彼だって、あの子だって…………一人だ。

それなのに私だけほいほいと助けだけを頼りに橋を作っては渡ろうとするのは甘えなんじゃないか。

その一歩を踏みしめる瞬間だって、少なくとも私は時間泥棒をしている悪人のようなものなんだから。

だけどもし、自分に誰かを支える力があるとするならば……。

私はその手を伸ばすことを拒みはしないだろうから。

「………………」

だからこそ。

この二律背反は、どうしても私の中では処理できなくて、払拭できなくて。

ただ、結局私はなにも選べずにもがいているだけだった。




放課後になり、私は少し寄り道することにした。

「ねぇ、高原たかはらさん」

私は鞄に荷物を詰め込むその子の目の前に立つ。

「あ、黒田くろださん……どうしたの?」

「あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど……」

「うん、私にできることなら言って」

「このあと少しだけさ、高原たかはらさんの描いた絵を見せてくれない?」

「え…………?」

高原たかはらさんは目を点にして戸惑いを見せる。

「あ、いやなら全然断ってもらって構わないから。ただ、どんな絵をどんな風に描いてるんだろうって、気になっただけだから……」

「ううん、それは別に大丈夫だよっ。私もまさか黒田くろださんからそんなこと言われると思ってなかったから驚いちゃっただけ……」

「そっか。えっと、じゃあ……お願い」

「うん。分かった。それじゃ、一緒に部室まで行こっ」

ばっと立ち上がったこの子は、晴れた顔をして私を部室まで導こうと、先陣を切った。

「うん……よろしく」

前を歩く高原たかはらさんは躊躇も緊張も感じられなかった。

きっと私だったら……。

誰かに評価されることは恐れるだろう。



「はい、どうぞ」

躊躇いなく開けられたその扉のその先へ私は入り込んだ。

完全にお邪魔状態だなと、その新鮮感と落ち着かなさが心拍数を上げる。

「まだ誰も来てないからゆっくりしていっていいよ」

「大体どれくらいで部員は揃うの?」

「ん? ん〜ごめん分かんないかな……うちね、ほとんど幽霊部員だから」

「あ、そうなんだ……ごめん」

「なんで黒田くろださんが謝るのっ。私は全然気にしてないから。だから黒田くろださんも余計な気を遣わなくていいよ」

「うん……」

それから高原たかはらさんは遠慮なく座ってと、私の元まで転がっていた椅子を持ってきてくれる。

私はぐるりと教室内を一瞥する。

確かにこの子が全く独りではないんだろうなと思えるくらいまばらに散りばめられた椅子と、パレットや道具。

でも、今この教室に佇んでいるキャンバスは一つだけ。どう考えても、ここで絵を描いているのは独りだけだった。

「じゃあ、見せるね。黒田くろださん」

高原たかはらさんはキャンバスにかけられたカバーを優しく摘む。

「うん、お願い」

この子がこれを翻すと、そこには私が知りたかった情景があるのだろう。

どうして、どうして、どうして……と散々積もった足跡がきっとそこには詰まっていて。

それが私にとって天国なのか地獄なのかそれとも煉獄なのかは定かではないけれど……。

そして、高原たかはらさんは、そこにある、それだけの証を見せてくれた。


「あ…………」

なんだろう…………。

私はそれを見た瞬間、本当の意味で思考が止まっていた。

なんでだろう……。

もっと、ちゃんと分かると思っていた。

上手いとか下手くそだとかそんな抽象的な。

綺麗だとか汚いだとかそんな漠然的な。

心に響くだとか目を奪われるだとかそんな心情的な。

でも、そこにあったのは……。

「これ、高原たかはらさんらしいね……」

そんな具体的な、特別感だった。


その絵が教えてくれたのは。

高原たかはらさんを包み込む、私も知っている世界だった。

言ってしまえば、いつも何気なく暮らしいているクラス教室の雰囲気や風景だった。

線が細かいとか、色使いが丁寧だとかそんな前提的なことではなくて。

今の高原たかはらさんにしか描けない、今の高原たかはらさんにしか表現できない、自己満足だと言われてもそれが美しいと覆してしまいそうな……そんな絵だった。

「えへへ……改めて誰かに自分の絵を見せるのって恥ずかしいね……」

「これ、高原たかはらさんが一人で描いてるんだよね?」

「え? まぁ、うん。そうだね」

「誰かと相談したりとか、誰かに助けてもらったりもしてないんだよね?」

「う、うん……ただ、私が思いついたことを思いっ切り描いてるだけ。私はここにいるんだって、忘れないように」

「…………上手」

「あ、ありがと……」

たとえ、離れ離れになったとしても、作品は残るから。

だから、この絵はきっと高原たかはらさんを忘れさせてはくれない。

絵が上手なのは当たり前。だって努力はその分報われるから。

だからこそ、それを踏まえた上で気持ちがあるから。

やっぱりこうして、心の奥底に伝わるものがあるんだろう。

高原たかはらさん、ありがとう。いいもの見せてもらった」

「うん、こちらこそ。来てくれてありがとう」

私は複雑な心をまだざわつかせながら、最後までこちらに目を向けてくれている高原たかはらさんに手を振った。

部室を出て、分かったのは、分からないことだった。

あの子はやはり、私の知らない、私の持っていないものを持っていた。

でも、それをどうして手に入れることができようか……。




愛歌あいか、どこ行ったんだろう……」

なにも告げずに遅れてしまったと、私は申し訳程度に駆け足であの教室へ向かった。

しかし、そこに彼女はいなかったのだ。

扉は空いたまま、鞄も置いたまま、ピアノは開いたままで。

私は、まだ鎮静を取り戻せていないこの心境で、彼女がいない困惑をさらに抱えて学校を巡ることとなった。

どうも最近積読に悩まされている雨水雄です。

これはおそらく、極度の虚無感のせいなのです。伽藍堂のようにぽっかりとしてしまった虚しさを埋めるための欲求が強いてくるからなのです。

…………まぁ、つまり。

最近完結される作品が続出してるなぁ……と。

それは快挙ですし、光栄ですし、もう尊敬の意を表したい気持ちでいっぱいなんですけど。ですけど……!

やっぱり寂しい…………。だから新たな出会いのために気付いたら需要が供給に追いつかない状況になってしまったのです……まぁ、こつこつ読みます。こつこつ。

あ、あとは今期のアニメ……始まりましたねぇ。

実に雨水にとっては好みのものばかりで、特にあれがいいです。

マシンガンチャイニーズとか、かのんちゃんの「可可ちゃん」の声色とかとか……わたるしみってきます。

あとあとアニメ映画のほうも次々公開されて正直今の雨水の脳内は落ち着かないです。でもそれだけ楽しみで溢れている…………いい夏です。

あ、そろそろ一人劇場は閉幕したいと思います。

さて、あとがきをとりとめのない話で続けてしまったにも関わらずここまで読んでくださりありがとうございました。

では来週もよければここで。

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