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第2話  作者: 穂低えんじ
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1.5倍速の超速チェックアウト (結末)


「いってらっしゃいませ!」というスタッフ全員の澄んだ声が青空へと響き渡り、最後のお客様の車がロータリーを滑り出ていった。

自動ドアが、静かに閉じる。

その瞬間だった。

さっきまで一・五倍速の残像とともに、完璧な笑顔で手を振っていた先輩たちの動きが、ピタッと止まった。

張り詰めていた空気が、一瞬で弛緩する。

ドサッ、ドサササッ.......!

まるで糸の切れた人形のように、フロントの先輩も、ベルマンも、厨房の板長たちも、全員が床へと崩れ落ちていった。

「せ、先輩方一一つ!?」


一倍速の私だけが、ロビーに倒れ伏す先輩たちを見渡して絶叫した。

しかし、彼らは死んだわけではない。その顔には、超高速の過酷な労働から解放されたというよりは、何かから「目覚めた」かのような、いつものトボけた日常の表情が戻っていた。

そう、すべてはこのクソジジイ(小丸支配人)が仕込んだ、例のウイルスのせいだ。

お客様全員が敷地内から出たことで、脳内の言語回路や身体機能を一・五倍速にブーストしていたウイルスの効果が、ピタリと時間切れを迎えたのだ。

魔法が解け、めでたく「ただの普通の一倍速の人間」へと戻った先輩たちは、溜まりに溜まった強烈な反動(デバフ)によって一斉に白目を剥いてぶ倒れたのである。

静まり返ったロビーのなか、唯一、直立不動のまま微動だにしない男がいた。

フロントの最奥、小丸支配人だ。

(まさか、あのクソジジイだけはウイルスに耐性が

ーー)

そう思った、次の瞬間だった。


支配人は、非の打ち所がない完璧なホテルマンのスマイルを浮かべたまま、丸太が倒れるかのような綺麗な直線の姿勢(フラット)で、床へとバタンと正面から倒れ込んだ。

床に激突する寸前まで表情は完璧な「一流の接客

顔」のまま、彼自身のウイルスも完全に切れたようだった。

(お前も切れるんかい!!!)

ツッコミを入れる元気すら残っていない私も、バキバキになった身体の痛みを床に預け、ゆっくりと大の字に寝転がった。

ウイルスに感染させてまで、お客様を完璧におもてなしする。

この恐るべき狂気のタクティクスの余韻に包まれながら、私もまた、深い眠りへと落ちていった。

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