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第2話  作者: 穂低えんじ
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後頭部の奇跡、五円玉の三つ編み


おでこの日本列島アザや、背中の湿布将棋盤の事件を経て、私は確信していた。

観光地のお土産屋さん兼食堂『おいしいよ』の厨房に生息するクソジジイこと小丸さんは、歩くフリークスであり、ツッコミどころのデパートなのだと。

だが、人間の慣れとは恐ろしいものである。

「トントントントン豚トントン、ナメ」

毎日耳元で唱えられる呪文のようなキャベツの千切り音にも、最近の私は「ああ、今日も悪夢が始まったな」くらいで受け流せるようになっていた。

しかし、そんな私のささやかな平穏は、小丸さんの『後頭部』によってあっけなく打ち砕かれることになる。


お昼のピークが終わり、小丸さんが厨房の椅子に腰掛けて休憩に入った時のことだ。

普段は調理帽を深く被っているため気づかなかったが(ちなみに、上半身はまだ前回の事件を引きずって裸のままである)、帽子を脱いだ小丸さんの頭髪は、後ろから見ると散々な状態だった。

(.....薄い。っていうか、汚い・・・・・・)

全体的な頭髪の残量は、贔屓目に見ても全体の『30%』といったところだろうか。しかもその貴重な30%が、手入れを完全に放棄されたような、なんとも言えない汚い白髪なのだ。後頭部から前の方へと、ほんの少しの毛束だけが申し訳程度に伸びている。まるで不毛の大地に健気に残った枯れ草のようだった。

小丸さんの後頭部は、ただ丸くハゲているのではなかった。

信じられないことに、五円玉の「中心の穴」に相当する部分にだけ、なぜか奇跡のように、真っ黒な髪の毛がフサフサと残っているのだ。

(なんでドーナツ状にハゲてんだよ!!どんな器用な抜け方したんだ!!!)

私の中の「理性の壁」が、スタンディングオベーションをしながら全力で脳内絶叫した。


しかし、衝撃はそれだけでは終わらない。

小丸さんは、その五円玉の穴の場所から生えている貴重な黒髪の束を、ものすごく綺麗に、きっちりと『三つ編み』に編み込んでいた。

(なんでそこだけオシャレしてんだよ!!!!!)

後頭部に佇む、一筋の黒い三つ編み。汚い白髪の砂漠の中にぽつんと存在する、黒いロープのような塊。それはまるで、クソジジイの後頭部からピョコッと生えた尻尾のようでもあり、筆舌に尽くしがたい気持ち悪さとシュールさを醸し出していた。

「ぶっつ!!!」


隣の調理台で、淹れたてのお茶を飲んでいた鈴木さんが豪快に吹き出した。だが、手元を拭きながらも、その場から小丸さんの方へ近づこうとはしない。

「おい佐藤さん、ちょっとそこから見てみるよ。小丸さんの後ろ頭から、なんか黒い紐みたいなアンテナが生えてんぞ!!」

「嫌だ、何よそれ・・・・・・!


遠くの洗い場から身を乗り出した佐藤さんも、小丸さんの後頭部の三つ編みを見た瞬間、顔を真っ赤にして口元を押さえた。シンクに手を置いたまま、爆笑を必死に堪えている。

当の小丸さんは、後ろで大人二人が死にかけているのもお構いなしに、「・・・これ、お気に入り、ナメ」と、後頭部の三つ編みを愛おしそうに指先でツンツンと触っている。

なぜそこだけ髪が残ったのか。なぜそれを三つ編みにしようと思ったのか。

後頭部だけでどれだけのエンターテインメントを提供すれば気が済むのだろうか。


「かっこいい、ナメ・・・・・・・」

恍惚の表情で呟いたクソジジイは、再び調理帽を頭に被ると、「トントントントン豚トントン、ナメ」と、また上半身裸の格好のまま、平然とキャベツを刻み始めるのだった。私の夢に、今夜は三つ編みの豚が出てくることが確定した。

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