第四章:強制搬入とカモフラージュ作戦
バスの自動ドアがプシューと開き、私たちはついに目的地へと降ろされた。
お世話になったベテランのバスガイドさんは、寸分の狂いもないプロの笑顔のまま「それでは皆様、良いご旅行を」と一礼し、バスと共に去っていった。
私たちの最後の盾(あるいは看守)が消え去った瞬間だった。
案内されたのは、きらびやかなシャンデリアが輝くロビーの正面玄関ではなかった。
『関係者以外立ち入り禁止』とデカデカと書かれた、薄暗く、ひんやりとしたコンクリート壁が続く従業員用の勝手ロー一不気味なバックヤードの搬入口だった。表のフロントに助けを求めることすら許されない、完全なる裏口からの強制搬入である。
だが、古参の先輩たちは絶望していなかった。それどころか、その目が怪しくギラリと光った。
彼らは去年もこの不気味な裏口から連行されたからこそ、この通路の景色を、壁の色を、完璧に記憶していたのだ。
そしてこの瞬間のために、一年間温め続けてきた「極秘プラン」を、ついに発動させる時が来た。
「みんな、今だ!作戦コード・カモフラージュ!」ベテランの先輩の低い合図と共に、古参の先輩たちが息の合ったコンビネーションで、一斉に上着を脱ぎ捨てた。
その下に仕込まれていたのは、驚くべきことに、この旅館のバックヤードの壁と全く同じ、くすんだグレーのトタン色のスウェットだった。
「ふははは!見ろ、この日のために壁のカラーサンプルを脳内に焼き付け、完全に一致する特注のスウエットを買い揃えておいたんだよ!」「生地の質感までコンクリートに寄せてある!これで私たちは壁だ!ただの通路の一部だ!」
先輩たちは素早い動きで廊下の壁際にピタリと背中を貼り付き、微動だにせず気配を消した。
本当に消えた。薄暗い通路の照明も手伝って、パッと見ではそこに人間が立っているとは到底思えないほど、見事なまでに通路の色と同化している。頭の上からつま先まで、完全にバックヤードの背景になりきっていた。
同期のものかさんは「一年前の敗北から学び、環境色への擬態を自前で用意してくるとは•・・・・・・!命がけのステルスミッション、まさに忍者の精神です!」と大興奮でノートにペンを走らせている。
私はといえば、壁に向かって大真面目に直立不動の姿勢を取り、必死に息を止めている先輩たちを見つめ、「グレーのスウェットを全員でお揃いで着て、これから何かの最先端のストリートダンスでも踊るのかな」と、やっぱり呑気に眺めていた。ぶっちゃけ、いい大人が壁に張り付いている絵面はシュールすぎて言葉を失う。
名簿を持った店長が、前を歩きながら怪訝そうに後ろを振り返った。
「あれ?みなさん、どちらへ行かれたんですか?さあ、早く中へ入ってください」
店長の目が、先輩たちが擬態しているグレーの壁をそのまま通り過ぎていく。勝った。古参たちの顔に、静かな勝利の笑みが浮かんだ。店長の包囲網を、彼らの圧倒的な執念が上回った瞬間だった。
しかし、その静寂の通路の奥から、カツ、カツ、と静かな足音が響いてきた。




