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第2話  作者: 穂低えんじ
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【小丸さんの500円玉騒動~100%集中バージョン〜】


その日の出刻途中、小丸さんの足がピタリと止まった。

公園の隅、雑草の影に、信じられないものが眠っていたのだ。

(・・・・・・ナメッ!?)

コンクリートの隙間に挟まり、朝日に照らされてギラリと光る、丸い金属。それは「500円玉」だった。

少ないお金をやりくりして日々を楽しんでいる小丸さんにとって、それは砂漠の中でダイヤモンドを見つけたような大事件だった。

小丸さんは周囲をギロリと見回した。誰も見ていない。

内股の足をさらにすぼめ、息を殺してしゃがみ込むと、人差し指と中指で500円玉をそっと挟み込んだ。

「500円、拾ったナメ・・・・・・・」

胸の鼓動が一気に跳ね上がる。小丸さんはその500円玉を、ズボンのポケットの奥深くへと滑り込ませた。

ーーしかしこの時、ズボンの奥底にある「暗闇の穴」をすり抜けて、500円玉がすでに地面にポロリと落ちていたことに、本人は全く気づいていなかった。


厨房に入ってからも、小丸さんは分かりやすくソワソワしていた。

本人は500円玉が今も自分のポケットに深く眠っていると信じ込んでいる。内股の足をモジモジさせながら、頭の中のニヤニヤとドキドキを隠しきれずにいるのだ。

いつもなら誰も近づきたがらない、厨房の不気味な孤島のような存在の小丸さん。それが今日は、仕事中も勝手にテンションを上げてニヤついている。あまりの挙動不審さに、私を含めて周りの人間はさらに警戒し、遠巻きに距離を置いた。何かとんでもない不吉なことでも企んでいるのではないか・・・・・・。厨房にピリピリとした緊張感が走り始める。まさかその原因が、すでに無くしてしまった「500円玉」のにドギマギしているだけだとは、誰も知る由がなかった。

小丸さんは心の中で不敵に笑う。

(誰にもやるもんかナメ・・・・・・・)

底知れない不気味さを漂わせながら、誰の視線も寄せ付けないまま、その「確かな富」を指先で確認しようと、ズボンのポケットの中に初めてそっと指を滑り込ませた。

・・・・・・あれ?


指先をどれだけ奥に突っ込んでも、あるはずの硬貨の丸い感触がどこにもない。

小丸さんの顔から一気に血の気が引いた。

「ないナメ。ないナメ!?」

そこからはもう、仕事どころではなかった。小丸さんは厨房の床を這い回り、ありとあらゆるところを探し始めた。キャベツのゴミ箱をひっくり返し、新聞紙で鼻を噛みながら、狂ったように床を凝視している。料理の盛り付けなど完全に放り出されているが、誰も声をかけようとはしない。小丸さんは耳の補聴器らしきものをパチパチ叩きながら、完全に自分の世界に入り込んでいた。

そして、小丸さんは気づいてしまった。自分が履いているのが、ずいぶん昔の古いズボンだということに。

ポケットの裏地に手を突き動かすと、指がそのまま穴を通り抜けて太ももに触れた。靴下だけじゃなく、ズボンのポケットにまで、見事な「穴」が開いていたのだ。

「拾った瞬間に、もう落としてたナメ・・・・・・・!」「うわああああん! 500円が、500円がナメえええ!」


小丸さんは厨房の隅で、背中の湿布を丸出しにしながら大泣きして悔しがった。

「500円・・・・。小丸さんはたった500円のためにあんなに探していたのか」

誰も近づきはしないが、そのあまりの哀愁と器の小ささに、私はただ呆れ果てるしかなかった。

結局、500円は見つからないまま仕事は終わった。

その帰り道。一文無しになった小丸さんは、我慢できずに娘さんを電話で呼び出した。

「頼むナメ、お金をせびらせてくれナメ」といつもの甘えっぷりを発揮したのだ。

待ち合わせ場所にやってきた娘さんは、呆れた顔で小丸さんの履いている穴の開いたズボンを見て、カバンからお守りのように輝く1枚のコインを取り出して言った。

「そういえばお父さん、来る途中の道で、ちょうど

500円玉拾っちゃった。ラッキーじゃない?」小丸さんは目を見開いた。

それは間違いなく、自分が朝一番に拾い上げ、最初から落としていた、あのドキドキの500円玉だった。


お金が無事に身内に戻ってきたという奇跡に、小丸さんは言葉を失い、その顔に夕日の赤い光が綺麗に反射していた。

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