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第2話  作者: 穂低えんじ
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キャベツと夏バテの夜

今年の夏は、容赦なく暑い。

飲食店の厨房にこもる熱気は、冷房の冷風をいとも簡単に掻き消してしまう。

「だめだ・・・・・・。もう、箸を持つ力も残ってねえ・・・・・・」

常連の男が、カウンターに突っ伏したまま蚊の鳴くような声を絞り出した。

店の従業員たちも、幽霊のように肩を落として使い物になっていない。冷たいものの摂りすぎか、あるいはこの猛暑のせいか、全員が重度の夏バテに冒されていた。

そんなお通夜のような店内で、ただ一人、いつもはみんなにバカにされている小丸さんだけが、驚くほどのハイペースで動いていた。

ーートントン、トントン、トントン。

小気味いい音が店内に響き渡る。

小丸さんは無表情のまま、ものすごい速さでキャベツを刻んでいた。


「おまえら、これ、たべるナメ」ドン、とカウンターに置かれたのは、山盛りのキャベツの千切りだった。

一同は不審そうな目を向けたが、背に腹は代えられない。渋々、箸を伸ばしてシャキシャキとした緑の山を口に運んだ。

「・・・・・・あ、あれ?」

最初に声をあげたのは常連の男だった。

「・・・・・・うめえ。なんか、胃のムヤムヤがスーッと引いていく・・・・・」

「本当ですね。さっきまであんなにダルかったのに、急に体が軽くなってきました・・・・・・!」

従業員も目を輝かせる。キャベツの水分と栄養が、干からびた胃腸にじんわりと染み渡っていくのが分かった。全員が夢中でキャベツを貪り食う。


しかし、全員が完食した瞬間、ハッと我に返った。

互いに目配せをし、激しい焦りが一同を襲う。

(あ、いけね。このままだと、小丸さんを大絶賛する流れになっちまう・・・・・・!)

いつもナメた態度をとっている小丸さんに、ドヤ顔をさせるわけにはいかない。常連の男は、慌ててそっぽを向いて言い訳を怒鳴り散らした。

「ち、違うわ!俺が元気になったのは、さっき飲んだ水がちょうどいい冷たさだったからだ!キャベツのおかげじゃねえ!」

「そうです!あと、エアコンの風向きがたまたまこっち向いたからです!小丸さんの実力じゃないですからね!」

必死すぎる言い訳合戦。そんな一同を、小丸さんはジト目でじっと見つめた。

「・・・・・・フン。みず、と、エアコン、えらいナメ」たどたどしい日本語で、一言のもとに切り捨てられる。

だが、胃腸が完全に復活した一同の暴走は止まらない。元気になったからこそ、今度は別の欲求が頭をもたげてきたのだ。


「というかさ・・・・・・正直、キャベツばっかりじゃ物足りねえんだよ!」

「わかります!胃が元気になったら、もっとこう、ガツンとした肉とか油っこいものが恋しくなってきました!」

「そうだ!唐揚げとかラーメン持ってこい!もう草(キャベツ)は飽きたんだよ!」

現金なものだった。さっきまで死にかけていたくせに、回復した途端にこれである。

小丸さんは、深くため息をついた。

「・・・・・・肉、だめナメ。おまえら、まだ、これ、たべるナメ」

静まり返る店内に、再びあの音が鳴り響く。

ーートントン、トントン、トントン・・・・

見ると、小丸さんはすでに二玉目のキャベツをまな板にセットし、無心で包丁を動かしていた。


「ひえっ!小丸さん、もう次を刻んでる!?」「だからもうキャベツはいいって言ってるだろ!まだ刻むんかい!!」

「キャベツ、からだ、いいナメ。」トントン、トントン、店内に響き渡るトントンという音をBGMに、俺たちのツッコミはどこまでも虚しくこだまするのだった。


後書き・豆知識スペース

【作者より:今すぐ使える夏バテ豆知識】

作中で小丸さんが「からだにいいナメ」と言っていた通り、キャベツは本当に夏バテ(特にお疲れ気味の胃腸)に効果抜群の食材です!

* 弱った胃腸を優しく修復:キャベツ特有の栄養素「ビタミンU(キャベジン)」が、冷たいものの摂りすぎでバテた胃粘膜を保護してくれます。

* だるさをリセット:豊富なビタミンCが、夏の暑さによるストレスや疲労を和らげます。

* むくみ・熱をスッキリ:カリウムが体内の余分な水分を出し、体を整えます。

物語の常連たちのように「胃は元気になったけど、草(生キャベツ)は飽きた!」という時は、豚肉と一緒に炒めて回鍋肉にすると、豚肉のビタミンB1も加わって最強のスタミナ食になります。

みなさんもぜひ、小丸さんのトントンキャベツを見習って、この猛暑を元気に乗り切ってくださいねナメ!


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