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魔法使いと皇の剣  作者: 123
4章 波乱
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思いがけない再会

「……ですが、ずっとここに籠るつもりですか?」


 ミエラの問いに、彼の表情はすぐに真剣なものへと変わる。


「いや、もちろんオーデントへは向かう。」


 レグラスは椅子の背にもたれ、腕を組んだ。


「だが、今オーデントに向かえば、ホイスタリンの軍勢とオーデントの戦いに巻き込まれることになる。」


 その言葉に、ミエラは眉をひそめる。

 まるで他人事のように、戦に"巻き込まれる"というレグラスの言い方に、彼の立場を考えれば違和感を覚えた。


「……この国の戦に、巻き込まれる、ですか?」


 レグラスはその反応を楽しむように微笑んだ。


「私の弟や、屈強な騎士たちがいるオーデントが、数で劣るホイスタリンの軍勢に負けるとは思えない。」


 彼の声音には確信があった。


「薄情だと思うかもしれないが、きちんとした理由がある。」


 ミエラは「勝てるかどうか」の問題ではないのでは? と思いながらも、その言葉を押し殺した。


「言葉足らずだったことは認めよう。」


 レグラスは落ち着いた口調で続けた。


「私はオーデントへ行くことを拒んでいるわけではない。"今"ではないと言っているだけだ。」


 彼は軽く指を鳴らし、ミエラに目を向けた。


「もちろん、オーデントにはいずれ向かう。だが、今の段階では、君にはしばらくここにいてもらう必要がある。」


 ミエラが何か言いかけると、レグラスはそれを制するように手を挙げる。


「竜族のことは心配しなくていい。何度も言うが、君の大陸に竜族がいないから分からないのかもしれないが——運命に導かれた者ならば大丈夫だろう。」


 ミエラの胸中に、やるせない感情がこみ上げてくる。


「話は終わりだ。」


 レグラスの言葉には、もはや議論の余地はなかった。


「君の選択肢は、もうない。」


 冷たく、だがどこか優しさすら感じさせる口調だった。



「戦いの疲れもあるだろう。それに、今から馬を使って向かったとしても間に合わない。そうであれば、無理に焦るのではなく、神に祈るべきだ。 もし本当に友を思うならばな。」


 ミエラは沈黙した。


 彼の言うことは、ある意味では正しい。

 確かに、もう間に合わないかもしれない。


 だが、それでも——


 黙って見ていることなどできない。


 やるせない気持ちのまま、ミエラは立ち尽くしていた。

 外に向かう足も動かせず、レグラスに言葉を返すこともできずに。


 そんなミエラを見つめながら、レグラスは静かに告げた。


「……部屋を用意する。」


 その言葉に、ミエラは顔を上げる。


「今日は我々がオーデントに向かうことはないが、明日から状況を確認するために近くの拠点まで向かう予定だ。」


 ミエラの瞳が揺れる。


「もちろん、私自身も同行する。君にもついてきてもらう。」


 レグラスは淡々と続けた。


「悩むならば、それからだ。」


 彼はわずかに微笑み、ミエラを見つめる。


「私は君の意向を尊重する。だが、それが最善だと私は思うよ。」


 そう言い残し、レグラスは外で待っていた兵士に何かを伝えた。

 しばらくすると、一人の女性がミエラを迎えに現れた。


 ——服にはところどころ汚れが目立つ。

 だが、その姿勢にはどこか誇りのようなものが宿っていた。


 女性に案内され、ミエラは拠点にある一室へと通された。


 簡素な部屋の中、ミエラは一人、静かに床に腰を下ろした。


 疲れがなかったと言えば嘘になる。


 それを自覚するほどに、彼女の体はベッドに沈み込むようだった。


 目を閉じると、仲間たちの顔が浮かぶ。

 アイリーンは、どうしているのだろうか。

 ジンは、無事だろうか。


 次第に、意識は深く沈み、微かな不安が夢の中へと溶け込んでいった。


 ——だが、その夢は記憶の隅へと消え、


 朝の光と共に、静かに目覚めることとなる。起床したミエラは、昨日と同じ部屋へと案内された。そこにはレグラスを含めた数人の男たちが座っていた。


 ミエラが現れると、彼らの視線が集まる。

 探るような目、何かを期待する目——


 どの視線も、決して敵意はない。だが、親しみとも異なる。


「おはよう。」


 レグラスが穏やかに言った。


「よく休めたかい?」


 ミエラは、戸惑いながらも頷いた。


「顔を洗う前に呼んでしまって申し訳ないが……皆で食事ができる時間が限られているのでね。」


 レグラスは軽く微笑み、空いている席を指した。


「座るといい。」


 ミエラは促されるままに席に着く。


 目の前には、乾燥したパン、野草のスープ、そして何の肉か分からないがしっかり焼かれた肉が置かれていた。


 ちらりと視線を向けると、レグラス自身もまた、他の者たちと同じ食事をとっている。


 ——王子であるはずの彼が、こうした食事をする生活を送っている。彼が"ただのレグラス"を名乗る理由も、少しだけ理解できる気がした。


「食事をしながらでいい。」


 レグラスは食事を続けながら、ミエラへと語りかける。


「耳だけ傾けてくれ。皆に正式に紹介しておきたい。」


 その言葉に、ミエラは手を止める。


「もう知っている者もいるだろうが……彼女はミエラ。外の大陸グランタリスから来た、運命に導かれた女性だ。」


 食事をとる手が止まり、周囲の者たちが一斉にミエラを見つめる。ミエラは戸惑いながらも、何とか言葉を探そうとした。


 だが、レグラスは苦笑しながら手を振る。


「すまない。もうここにいる者たちは、ある程度、君のことを知っている。」


 彼は気遣うように微笑んだ。


「これはただの形式的な紹介だよ。食事を続けて大丈夫だ。」


 そう言われ、ミエラはようやく手を伸ばした。


 次々と交わされる会話の中、ミエラも食事を進めていた。パンをちぎり、スープを口に運ぶ。


 静かに話を聞いていればいいとレグラスに言われたが、それでもこの場の空気にはどこか馴染めずにいた。


 そんな中、不意に隣の男が口を開いた。


「……よお、味はどうだ?」


 低く響く声に、ミエラは顔を上げた。


 そこにいたのは、昨夜、彼女が部屋を出ようとした際に立ちはだかった男だった。

 屈強な体格に、鋭い目つき。だが、その顔にはどこか見覚えがある気がした。


「えっ? あ……はい。美味しいです」


 戸惑いながらもそう答えると、男は何が可笑しいのか微かに笑い、肉を口に運びながら続けた。


「……ジンの奴とははぐれたのか?」



 その言葉に、ミエラの手が止まる。ジンの名前がここで出てくるとは思わなかった。


「……ジンを、ご存知なのですか?」


 驚いて尋ねると、男は少し顔をしかめる。


「ん? あぁ……まあな。大して関わりはなかったかもしれねぇが……お前ら、俺たちの船に乗ってたんだよ。」


 ミエラは一瞬、理解が追いつかなかった。


「船……?」


 疑問を口にした瞬間、ある名が脳裏をよぎる。


「——ローグクランク号!?」


 その名前を叫んだ途端、周囲の空気が変わった。食事をしていた者たちが動きを止め、ミエラを見つめる。話をしていた者たちも、何事かと注目していた。


 その視線に戸惑うミエラを見て、男——ボルボは少し慌てて手を振った。


「おいおい、そんなに慌てんなよ」


 彼は肉を口に放り込みながら、気楽な口調で続ける。


「俺はボルボ。お前らを乗せていたローグクランク号の海賊だ」


 ローグクランク号——セスナが率いる海賊船。

 確かに、ミエラもジンも、一度あの船に乗り、アルベストへと向かった。


 ——では、エイランは?

 他の仲間たちはどうなったのか?

 彼らもここにいるのか?


 次々と湧き上がる疑問を口にしようとしたミエラだったが、それよりも先に、レグラスが笑みを浮かべて言った。


「順番が変わってしまったようだな」


 レグラスは周囲の食事の進み具合を確認すると、静かに言葉を続けた。


「皆、すまないが少しだけ時間をもらう。食事がまだの者は続けてくれて構わない」


 ボルボは申し訳なさそうに片手を上げたが、レグラスは気にした様子もなく、ゆっくりとミエラへ向き直る。


「ミエラ」


 その名を呼び、レグラスは穏やかに語る。


「君の知る人物たちとは、実はすでに会っていたのだ。」


 ミエラは息を飲む。


「だからこそ、私は君の大陸にもオルフィーナ様の話が伝わっていることを知っていた」


 レグラスの言葉の意味を、ミエラはすぐには理解できなかった。

 だが、確かなことは一つ——


 自分が思っていたよりも、この大陸とグランタリスは深く繋がっているのかもしれない。

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