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魔法使いと皇の剣  作者: 123
3章 神の肉
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拘束

 ジンは苛立ちを隠せず、鉄の扉を鋭く睨みつけていた。


「気分はどう?」

 皮肉交じりの声が2人だけになった静かな部屋に響いた。アイシャが冷たい笑みを浮かべながら問いかける。


 ジンは短くため息をつき、肩をすくめて応える。アイシャはその姿を見て、小さく笑った。




 ――尋問と称したアランの調査が終わった後、待ち受けていたのは無情な言葉だった。


「よろしい、大体の流れは把握した。あー……明日、事実の確認を行う。それでは」


 呆気に取られたジンは、思わず声をあげた。

「明日? それはつまり……今日はここに留まれということですか?」


 アランは面倒くさそうにため息をつき、冷たく言い放った。


「左様。私は忙しいのだ。では、さらばだ」


 アイシャが小さく首を振りながら無言で見送る中、ジンはさらに強く抗議する。


「お待ちください! 私の身元を証明できる方々は、七騎士のガルシア殿やバスバ殿、さらにはケイオス殿下もいらっしゃる! あの場にいた方々なら……!」


 ジンの言葉を遮るように、アランは苛立たしげに鼻を鳴らし、深く息をついた。


「ふん……お前の証明を行う方々は忙しい身だ。ガルシア殿やバスバ殿はすでに国を離れている。ましてやケイオス殿下に話を通す? そんなことは不可能だ」


 ジンは声を荒げた。

「では、あの場にいた他の騎士や貴族の方々に――!」



 その瞬間、アランの顔が真っ赤になり、怒りに満ちた声が部屋を震わせた。


「私もあの場にいた!」


 アランは激昂し、荒々しい鼻息を立てながら言葉を続けた。


「聞け! いまや我が国はベイルガルドとの戦前だ! 本来なら、こんな仕事は下級騎士や貴族がやるものだ! 私は治安維持の役ではない。盗賊どもの相手など、私の務めではないのだ!」


 アランはこれまで抱えていた鬱憤を爆発させるかのように、声を張り上げた。


「ましてや、盗賊の要求は王族を連れて来いだと? ガルシア殿は国を軽んじている! 我が国の現状を知らぬ者が軽々しく口にするな! ガルシア殿がどれだけの愚かな決断をしたか、分かっているのか!」


 ジンは圧倒され、一瞬言葉を失った。しかし、アランの怒りは収まる様子を見せない。


「盗賊団は必ず壊滅させる! だが、人質が外の国から来た竜族……たったそれだけのために、王子の捜索を優先させたガルシア殿の判断がどれほど問題視されているか、知っておけ!」


 アランはジンとアイシャを交互に睨みつけながら、怒りにまかせて声を荒げた。


 ジンは内心でため息をつき、思考を巡らせていた。ガルシアの目的は、第二王子レグラス――が、【真の王】なのかだった。その事情を知らぬ者たちからすれば、国の優先事項を無視しているように見えるのも無理はない。


(何を言っても、この男には通じないか……)


 そんな中、アイシャが鼻で小さく笑う音が部屋に響いた。


「何がおかしい。盗賊の小娘が……」


 アランは冷たく睨みつけたが、アイシャは気にも留めず、淡々と呟く。


「何でもございません。アラン様」


 その言葉にはまるで敬意がなく、むしろ挑発とも取れる響きがあった。


 アランは顔を歪ませ、怒りを募らせる。


「どいつもこいつも、そうだ……牢屋にぶち込まれてきた者たちの話を聞けば、貴族への不満ばかり! お前たちは、私たちが遊んでいるとでも思っているのか!? 領地を持つ貴族ならいざ知らず、私たちはこの国で身を焦がしながら働いているのだ!」


 アイシャはアランの体格をじっと見上げ、わざと嫌みを込めた視線を送ると、口元にわずかな笑みを浮かべながら静かに言った。

「申し訳ございません、アラン様」


 その態度にアランの怒りは頂点に達し、待機していた騎士に命じた。

「この小娘は盗賊だ! 牢屋にぶち込んで徹底的に尋問しろ!」


 ジンは慌てて一歩踏み出し、必死にアランを宥めにかかる。


「お待ちください、アラン様。出過ぎた発言をしたことについては、彼女に私が責任をもって教育いたします。どうか、寛大なお心を……」


 しかし、アランは冷酷な視線をジンに向け、怒りの矛先を完全に切り替えた。


「貴様もだ! 外の大陸から来たなどという戯言を誰が信じるか! 信じているのは頭の悪い連中だけだ。今、この時期に神の力を持つ者と竜族がこの国に現れた……都合が良すぎるだろうが!」


 アランは声を張り上げ、指をジンに突きつけた。


「本当は何者なのか……しっかりと吐かせてやる! これ以上、甘くは見ないぞ!」


 ジンは険しい表情を浮かべながらも、冷静に言葉を紡いだ。


「どうかお待ちください。私たちの仲間はアーベン王子殿下にお会いしているはずです!」


 その言葉にアランは一瞬反応を見せたが、すぐに苛立ちを隠さず返す。


「アーベン王子はガルシア殿と共に国境へ向かわれた。銀髪の女性を伴ってな!」


 ジンはその返答に素早く食い下がった。


「でしたら、その銀髪の女性が私たちの仲間であることは、もうご存知のはずです。もし私たちが不当な扱いを受けていると知れば、王子に報告が届くのではないでしょうか? 王子と親しい間柄の仲間が、私たちを見捨てるとは思えません。」


 アランの目が一瞬揺らいだ。言葉に詰まり、慌てたように声を張り上げる。


「わ、私を脅すつもりか!」


 ジンは即座に頭を下げ、膝をついて丁寧に言葉を続けた。

「いえ、決してそのような意図はございません。私たちの無礼な発言をお許しください。アラン様のお立場を理解せず、愚かにもこのような場を作ってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。どうか寛大なお心でお裁きをいただきたく存じます。」


 静寂が部屋を支配する。

 アランはジンを睨みつけたまま、しばしの間、迷うように考えを巡らせていた。



 アランはようやく大きくため息をつき、苛立ちを隠さずに言い放った。


「……いいだろう。だが、貴様らの処遇は一旦保留だ! 引き続きここで待機してもらう。」


 そう言い捨てると、アランは荒々しく扉を開け、部屋を出て行った。



 ジンは尋問を思い出しながら、暇そうに椅子に座り足を揺らしているアイシャに声をかけた。


「悪かったな。自由だとか言っておきながら、こんな状況に巻き込んじまってさ。」


 ジンが謝罪すると、アイシャは揺らしていた足を止め、静かに答えた。

「別に。期待なんてしてないから。」


 その言葉に、ジンはため息をつきながら椅子に腰を下ろす。

 アイシャの無関心な態度には慣れたとはいえ、どこか引っかかるものがあった。


「……身体は治ったの?」


 アイシャがふいに問いかけてきた。ジンは少し考え込みながら、曖昧に答える。


「ん? ああ……どうだろうな。今は調子がいいけど、完全に治ったのかどうかは分からない。」


 アイシャは不思議そうな顔をして、ジンをじっと見た。


「ふーん……何の病気か知らないけど、さっきまで死にそうだったのに…なんでそんなに平気なの?」


 その視線に、ジンは困ったように笑いながら肩をすくめた。


「俺にもよく分からない。けど、それよりも……早くここから出る方法を考えないとな。」


 ジンは遠くを見つめながら呟いた。


「ミエラに『何とかする』って大口叩いておいて、アジトから逃げ出したと思ったら、ずっと捕まってました……なんて、さすがに格好つかないだろ。アイリーンも無事でいてくれればいいんだけどな。」


 その言葉を聞いたアイシャは、少し表情を緩めたようだったが、すぐにまた冷めた口調で返す。


 アイシャは、ジンの言葉に一瞬だけ表情を緩めたが、すぐに冷めた声で返した。


「無駄。さっきの話、聞いてなかったの? あんたの仲間がレグラスを連れてくるなんて期待できないし、騎士団だってただガルシアを待っているだけ。竜族の命なんて誰も気にしちゃいない」


 ジンは言い返せず、ふと考え込む。そして、少し間を置いて口を開いた。


「そういえば……“真の王”の部下が来ていた。いつも来ていたのはあいつか?」


 アイシャは考えるように視線を落とした後、答えた。


「多分。でも、いつも姿を隠してるから同じ奴かは分からない。複数いるかもしれないし……どちらにせよ不気味な連中」


 ジンはさらに追及するように続ける。


「ただ、奴の口ぶりからするとアイリーンの殺害は依頼していないようだった……。となると、アイシャたちに依頼をしたのは誰なんだ?」


 アイシャは肩をすくめ、興味のない様子で答えた。


「さあね。私たちは真の王からの依頼ってだけ聞かされてた。詳しいことを知ってるのはボス――エースだけよ」


 それきり、アイシャは話を打ち切るように部屋の隅で横になった。


 静まり返った空間で、ジンは一人考えを巡らせる。


(真の王は複数いる……? だが、アジトにいたあいつは盗賊たちの態度から見て本物のはずだ。となると、アイリーンの依頼をした奴は偽物……? だが、盗賊たちはあの依頼に違和感を抱いていない様子だった)


 考えても答えは見つからない。だが、それに執着するべきではないとジンは自分に言い聞かせた。


(どうせ俺には関係のないことだ……俺の目的は“神の肉”――アスケラ。すべてはベイルガルドにある。アイリーンを助けたら、あとはこの国の問題だ)


 そう結論付けると、ジンは疲れた体を休めることにした。


 ふと、口や服にこびりついた乾いた血が視界に入る。買ったばかりの服が汚れているのを見て、ジンは苦笑を漏らした。


(……買ったばかりなのにな)


 そう呟いて目を閉じる。重いまぶたが静かに下り、部屋は再び深い静寂に包まれた。

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