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魔法使いと皇の剣  作者: 123
3章 神の肉
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再び城へ

 朝日が石畳を照らし始める中、ミエラは城下町を急ぎ足で進んでいた。


 腰まで伸びた銀髪は朝日に照らされて輝きを増し、旅の疲労がその顔に影を落としていながらも、美しさを損なうことはなかった。


 ローブ越しにもわかるしなやかな身体のラインは、ただの儚げな女性ではなく、芯の強さを持った大人の女性であることを示していた。


 隣を歩くのは七騎士の一人、ガルシアだった。


 短く切りそろえた金髪と整った顔立ちは、ひと目で優美な印象を与えるが、その鋭い目つきと額に刻まれた深い傷が、ただならぬ経歴を物語っている。背後には忠実な部下たちが静かに従い、その威圧感が道行く者の視線を引きつけていた。



 ミエラの気高い優雅さとガルシアの鋭さと力強さ――対照的な二人の佇まいは、まだ人影が少ない城下町でも目を引かずにはいられなかった。


 まるで異なる世界から来た二人が交わり、共に歩むような印象を周囲に与えていた。


 朝の光を浴びながら、彼らはただ城を目指して歩を進める。ミエラの心には、大事な友人であるアイリーンを救い出すという使命が強く宿っていた。



 アルベスト大陸に到着して以来、ミエラに休息の時間はほとんどなかった。


 異国の地で慣れない環境の中、次々と起こる事案に心身ともに疲れ切っていた。しかし、ミエラの心には強い使命感が宿っていた――人質として捕らえられたアイリーンを救い出すこと。


 ただそのために、第一王子アーベンとの会談を急いでいた。


 しかし、アーベンとの交渉が鍵を握ることはわかっていても、その道のりが簡単なものでないことも感じていた。


 王子との会談を取り付けること自体が難しく、彼を説得するのはさらに厳しい試練となるだろう。


 さらにミエラの頭を悩ませるのは、盗賊たちが探している第二王子レグラスという存在だった。彼がどのような人物で、何を意味するのか。ミエラには未だ何もわからなかった。


 隣を歩くガルシアにそれとなく尋ねても、返ってくる答えは慎重なものだった。


「私には、主観の入ったお答えしかできません。お目通りが叶ったらアーベン王子よりお答えを頂けるかと。」


 ガルシアの言葉に、ミエラはわずかに眉をひそめたが、納得するしかなかった。


 レグラス――オーデント王家の第二王子。


 この名が任務にどのような影響を及ぼすのか、まだ何も明らかではなかった。しかし、盗賊たちがその名を追い続けていることを考えれば、何か重要な意味があることは間違いない。


「レグラス王子を盗賊たちはなぜそこまで探しているのか……」


 ミエラは独り言のように呟いたが、その言葉にガルシアは反応を見せなかった。ただ前を向き、冷静な声で忠告するにとどめた。


「ミエラ殿、余計な憶測は慎むべきです。特にこの城下町では。耳を立てている者がいないとは限りません。」



 その忠告に、ミエラは口を閉ざした。確かに、この地では一言一句が思わぬ形で利用される危険がある。異国の地であることを改めて自覚し、緊張感を保ちながら歩みを進めた



 やがて、城下町の喧騒が薄れ、オーデント王国の壮大な城が視界に現れた。


 その堅牢な作りが威圧感を放ち、美しい朝日の中にそびえ立っている。しかし、その美しさは同時に冷たく、拒絶感を伴うものだった。


「ガルシア殿、貴方から見てアーベン王子はどのような方なのですか?」


 ミエラはふと口にしていた。聞くべきではないと思っていた質問だったが、気がつけば言葉になっていた。


 先程のレグラスの時のように答えを得られないと思っていたミエラだったが、ガルシアは一瞬歩みを緩め、答えを考えるようにしてから口を開いた。


「アーベン王子は王族の中でも特に鋭い知性を持つ方です。その洞察力と冷静な判断力は国内外で高く評価されています。ただ、それだけに情よりも理を優先されることが多い。」



 その言葉に、ミエラは息を呑んだ。


 彼に会った際の記憶がよみがえったが、その印象は第二王子ケイオス――圧倒的な存在感を放つ人物の陰に薄れてしまっていた。アーベンの冷静な判断。


 それは場合によってはアイリーンの命を犠牲にすることを意味するかもしれない。


「つまり、感情に訴えかけても無駄ということでしょうか?」


 そう問い返すミエラに、ガルシアは淡々と頷いた。


「無駄とは申しません。ただ、あの方にとって最優先されるのは王国の利益。ミエラ殿のお話がそれに適うものであれば、道は開けるでしょう。」



 その答えは、希望と警告の両方を含んでいた。

 ミエラは強く心を引き締めた。アーベンとの会談は、言葉の選び方一つで全てが決まることを理解していた。



 城門が近づくにつれ、鉄と石で作られた門は、堅牢で侵入を許さない威圧感を放っていた。


 その前に立つ衛兵たちは、鋭い目で通行人を見張り、緊張感のある雰囲気を漂わせている。


 ガルシアが一歩前に出ると、部下の一人が衛兵に合図を送った。衛兵は即座に動き、門をゆっくりと開け始めた。鈍い音を立てながら動く門の奥には、広大な城内への道が続いていた。


「ミエラ殿、ここからは私が案内します。」


 ガルシアの冷静な声に、ミエラは小さく頷いた。足取りを揃え、二人は城内へと歩を進めた。



 広々とした城の廊下には、緊張感が漂っていた。装飾品の一つひとつが豪奢でありながら、無駄のない厳粛な雰囲気を保っている。


 やがて、ガルシアが立ち止まると、前方に重厚な扉が見えた。そこがアーベン王子の謁見室だと直感的に理解した。


「アーベン王子は非常に忙しい方です。短い時間で必要な話を伝えられるよう、準備を整えてください。」


 ガルシアはそう告げると、部下に合図を送った。扉の前に立っていた護衛兵が中へ入ると、しばらくして中から声が響いてきた。


「中へ。」


 その一言に、ミエラは緊張を感じながらも深呼吸をした。そして扉が開くと、ゆっくりとその中へと足を踏み入れた。

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