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魔法使いと皇の剣  作者: 123
2章 戦乱の序曲
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アジト

 通路に足を踏み入れると、湿った空気と、わずかに鼻を突く鉄の匂いがジンの感覚を刺激した。


 足音を殺しながら進むジンの緊張感は頂点に達していた。


「罠の可能性も考えられます。慎重に進みましょうは。」


 ガルシアの問いかけに、ジンは頷き、ガルシアは部下たちに合図を送った。


「間隔を、開けて前後に分かれなさい。周囲を調べ異常があればすぐに知らせること。」


 部下たちは素早く動き出し、通路の前後ジン達を挟むように警戒しながら慎重に進んでいった。


 やがて通路の先に大きな広間が現れた。松明の炎が壁を照らし、粗末なテーブルや椅子がいくつか配置されている様子が見える。


 その中央には複数の人影が蠢いていた。


(思っていたより数が多いな⋯)


 ジンは目を細め、敵の動きと気配を観察した。


 広間にミエラ達の気配は感じられなかったが、それとは別の見知った気配にジンは自身が探してる盗賊のアジトで間違えないと核心できた。


 ガルシアは広間の様子を慎重に眺めていたが、静かに手を挙げ、全員を制すると


「奇襲を仕掛けます。どうやろ盗賊達は入り口の⋯此方側の警戒よりも別に注意がいってるようですね」


 ジンはミエラ達が更に奥にいた場合ここで盗賊達に奇襲をかければ悪手になる事を伝えようとしたが、それ以上の提案が思いつく事もできずただガルシアの作戦に頷くしかできなかった


 部下の一人が矢を構え、放つ共にジン達は広間に躍り出た。放たれ矢は盗賊の一人にあたり、痛みで叫ぶ盗賊の声が広間に響き渡った。


 響いた悲鳴とともに、盗賊たちは混乱に陥っていた。


「襲撃だ!!」


 一人の盗賊が慌てたように叫んだが

 危険を知らせる叫びは次々に上がる金属音と悲鳴に変わっていった。


 ジンは自身に向かってくる体格の良い盗賊の振り回す、鎖の先端に刃物が巻き付けられた武器を素早くかわしながら、隙を見て敵の動きを観察した。


(開けているとはいえ、乱戦の中で器用に使う)


 盗賊の鎖がジンに向かい伸ばされた瞬間、ジンは身体を低くし、躱すとそのまま自身の刀にわざと巻き付かせ、滑るように懐に入り込んだ。


 ジンは容赦なく刀を抜きさると、刀が振るわれた音と共にあたりは盗賊の血で真っ赤に染まった。


 その様子に怒りのままジンに突撃してきた盗賊の一人は視覚から輝くガルシアの剣によって首筋を切れに切り裂かれていた。


 ジンは乱戦の中で気配を辿り、探し求めていた相手の前に経つと静かに呼びかけた。


「俺の連れはここにきているか?お前が殺し損ねた竜族だ」


 ジンが呼びかけると、金色の髪をした青年は苦々しい顔をしてジンをみて静かに返答を返した


「死ぬやつに教える事などない」


 そういい青年はロングソードを構えジンに向かってきた。ジンは青年の動きを冷静に観察しながら、一歩後ろに引いて間合いを調整した。


「そうか」


 ジンは刀を構え直し、相手の動きを見極めた。青年の動きは鋭く、ロングソードを扱う技量は確かなものだった。


 一撃一撃に迷いがなく、その剣筋には容赦がない。


 青年の斬撃がジンの肩を狙って振り下ろされたが、ジンは横に一歩踏み出しかわし、刀を横に滑らせて反撃に転じた。


 だが、青年はそれを見切ったように身をひねり、攻撃を回避する。


(こいつ、ただの盗賊じゃないな…。元兵士か?)


 二人の剣が交差するたび、火花が散る。その間にもジンは冷静さを保ちつつ、相手の癖や隙を探っていた。


「竜族の連れを探していると言ったな。」


 青年が一瞬の間合いで口を開いた。


「あいつらは特別な客だ。簡単にお前に渡すつもりはない。」


 ジンはその言葉に眉をひそめた。


「何を企んでるかは知らないが、俺達には関係ない」


 青年は冷笑しながらロングソードを振り上げ、再び攻撃を仕掛けてきた。


 ジンはその勢いをそのままに振り下ろされた剣を弾くとそのまま青年の腕を切り落とした


「⋯っあぁぁ!!」


 青年が驚きにより上げた、叫び声をかき消すようジンはそのまま首を切り落とした。


 青年の首が地面に転がる音が広間に響き、ジンは一瞬だけ刀についた血を見つめ、静かに息をついた。


「お見事です。流石はケイオス様と素晴らしい立ち会いをされたお方です」


 振り返ると、盗賊達の返り血を気にした様子もなく、立派な鎧を血に染めたガルシアが剣を収め微笑んでいた。


 周りを見渡すと広間の盗賊たちは次々と無力化されていた。


 既に敵を一掃し、部下たちが広間を封鎖しながら最後の確認を行っていた。


「ジン殿、あの青年が『特別な客』と言っていた以上、奥に何か重要なものがあるはずです。恐らく盗賊共の頭も奥でしょう」


 ガルシアが鋭い目で広間の奥にある扉を見つめながら言った。


 ジンは頷き、その扉に向かって歩み寄った。


「ミエラたちがいるなら、もう時間がないかもしれません。騒ぎの音は奥まで響いたでしょうから⋯急ぎましょう」



 ジンとガルシアは広間の奥にある重厚な扉に向かい、中へと進んだ。



「まるで迷路ですね⋯」


 ジンが低く呟くと、ガルシアが頷き


「道を間違えれば時間を無駄にします。人数を分担させましょう」


 しかしジンはガルシアの申し出を断ると


「いえ、それなら大丈夫です。私を信じて頂けるなら道は此方です。ここまでくれば気配でわかります。」


「気配?」


 ジンの言葉にガルシアは驚き表情を浮かべた。


「ジン殿は剣聖の域に達しているのですね⋯」



 ジンはガルシアの驚きに、困惑して聞き返した。


「剣聖⋯ですか?そんな大層な名前がつくような者ではありません。自分達の大陸ではそう珍しくないです」


 ガルシアは一瞬真剣な表情を見せた後、微笑みを浮かべた。


「なるほど興味深いですね⋯是非共詳しくお聞きしたいですが。今はその力が頼りになります。道案内お任せします。」


 ジンは頷くと前方の通路をじっと見据え、気配を探るように目を閉じた。わずかな空気の流れ、遠くから聞こえる微かな物音、それらが一つの方向を示していた。


「こちらです。」


 ジンは確信を持って進む方向を指し示し、先頭に立って歩き出した。ガルシアと部下たちがそれに続く。


 進むにつれて、通路は次第に広くなり、奥からは低い声での話し声が聞こえ始めた。それが近づくにつれ、ジンの眉が一瞬だけ険しくなる。


「この先にいる…私の仲間の気配も感じますが⋯ただの盗賊ではありませんね。」


 ガルシアも剣の柄を握り直し


「ええ、ジン殿。盗賊のボスに関してはなるべく話せる状況で連行したいのでご協力お願いします」


 ジンはガルシアの申し出に頷くと腰に差した刀を握り真っ直ぐ気配の先を目指した。



 通路を抜けると、大きな広間に出た。


 そこはこれまでの荒廃した空間とは異なり、ある種の威厳と統制が感じられる場所だった。壁には装飾が施され、天井から吊り下げられたランタンが温かな光を放っている。


 中央には長いテーブルが据えられ、その奥には豪華な椅子が置かれていた。


 椅子には一人の中年男が座り、周囲には屈強な護衛たちが控えている。


 その近くにはミエラ達の姿を確認でき、ジンは安心したが、すぐにその近くにいる存在に気づき安心した気持ちはかき消さていた。


 ミエラの近くには栗色の髪をした痩せた青年がミエラの首にダガーをあて、今にも口にいれるのではないかと思える距離でミエラの髪の匂いを嗅いでいた。


 ミエラはジンの顔を見ると一瞬表情を緩めたがすぐに近くの男に対する不愉快そうな顔に変わったミエラの近くにはアイシャの姿も見られたが、アイシャはジン達の姿をみて動揺しているようだった。


 その横ではアイリーンがジンも見知った顔であるロスティンの短刀で身動きを封じられていた。


 ジンがロスティンに目線を合わすとロスティンは楽しそうに笑みを浮かべていた。アイリーンはそんなロスティンを横目でみてイライラしたように足を動かしていた。



 椅子に座る中年の男は、ジンたちを見据え、ゆっくりと立ち上がると深い声で話し始めた。


「誇れ高き七騎士ガルシアがわざわざお越しになるとは思わなかった。面は初めて見るが⋯なるほどイカれた王子が好きそうだ」


 冷たく笑いながら話す盗賊のボスに周りの護衛達も囃し立てるように声をあげていた。


 ガルシアの表情は無表情であるがその目は冷たく

 発する気配から怒りに満ち溢れているのが感じ取れた。


 ガルシアはそんな怒りを隠すよう静かに盗賊のボスへと話しかけた


「卑しい盗賊の頭は人質をとって余裕のつもりのようだが⋯元々交渉やお喋りで此方は来たわけでない。頭のお前には聞きたい事があるが⋯周りを片付けさせてもらってからだ」


 ガルシアと周りの部下は武器を構え、盗賊達を殲滅しようとしていた


 ジンはそんな様子に慌てて


「ガルシア殿お待ちください⋯!貴方のご決断を尊重しますが一旦は私の仲間の為に盗賊と会話をさせてください⋯!人質を取る以上は向こうもヤケクソではないでしょうから」


 そんなジンの頼みをガルシアは聞こえないかのように無視をして盗賊に切りかかろうとしていたが


「落ち着けよ。騎士のお嬢さん。人質はこいつらだけじゃなくあんたの命もだぜ?ここの建物をよくみて言った意味を考えな」


 ガルシアはロスティンから発しられた言葉の意味を瞬時に理解したのか、飛びかかろうとした身体を一旦落ち着かせていた


 そんな様子にわざとらしく安堵したように身体を動かしロスティンは話を続けた


「ここにいる人質は、騎士のお嬢さん⋯ガルシアと呼ぼせてもらおうか、ガルシア。あんたの為の人質じゃない。あの王子と共に戦った騎士に人質なんて無駄だしな、其処にいるジン。お前の為の人質だ」


 ジンは別段驚く事はなかった。


 会話の中でも予想できていたから、それは構わないと、それより先、人質をとってまでロスティンが何をさせたいのかがジンには気になっていた。


「理解した。それであんたは俺に何かしてほしいのか?まさか⋯人探しか?」


「その通りだ、ジン。」


 ロスティンは満足そうに短剣を指で弄びながら続けた。


「お前の腕前は見せてもらったが、俺が期待してるのはお前達と王家の繋がりだ、一緒に旅をするんだろう?第一王子様と」


 ジンはロスティンの言葉に届きながらも相手の真意を探った。


「探している相手とは誰だ?そんなに大事な相手なら自分で探せばいいだろう」


 ロスティンは笑いを抑えきれないように肩を揺らしながら答えた。


「そいつが簡単に見つかるなら、最初からお前達を招きいれないさ。俺たちが探してるのは、第二王子レグラス・オーデント。どこかに隠れてやがるが、その行方が掴めねえ。」


 ジンが声を上げるより先にガルシアはその名を聞いた途端、驚き声を上げた


「第二王子…!馬鹿なお前達が何故⋯」


 ロスティンはガルシアの言葉に眉をひそめ


「騎士様。ただの依頼だよ。」


 ジンは、ガルシアをみて考えていた。

【真の王】その存在に一番近いのはガルシアの話だと第二王子だったはず⋯


 しかし今はその真の王に近いはずの盗賊が

 第二王子を探してる⋯ジンは情報が足りないと考えロスティンに追求した


「第二王子を探したいのは分かったが、見つけてどうするんだ?」


 ジンは冷静な声で問いかけたが、その裏には相手の反応を計る意図が隠されていた。


 ロスティンは短剣を一度クルリと回し、アイリーンの首筋近くに刃を向けた。


「見つけたら?始末するだけさ。俺が依頼された任務は殺しも含んでる」



 ジンはロスティンの冷淡な言葉に微かに目を細めた。

 ガルシアの予想が外れて真の王は別にいるのだろうか。そんな考えがよぎり横目でガルシアを見ると困惑した表情を隠しきれていない様子だった。


「殺しが依頼だと?今やお前達のお得意様だろう⋯?真の王と名乗って」


 ガルシアは静かに問いかけた。

 探りをいれているのはジンには分かったが

 良い回答が得られるとは思えなかった。


 ロスティンはガルシアの問いに笑みを浮かべたまま肩をすくめた。


「何が言いたいのか分からんね。ただ、任務に忠実に従うことが俺の仕事だ。誰が誰なんて俺には関係ねぇ。ただ、命じられたことを遂行するだけさ。」


 ガルシアはその言葉を聞くなり鋭い目つきでロスティンを睨みつけた。


「盗賊の分際で偉そうに、お前達の任務とやらは王家に⋯この国に対する反逆だ」


 ガルシアの怒りがこもった反論に盗賊のボスは


「ならどうする?お前がこの場所で出来ること等ないぞ?俺達と共にここで生き埋めになるか⋯?真実も得られず、事態は謎のままだぞ」


 ジンは近くで苦々しい顔をしているガルシアを横目にみて


「そちらの事情はともかく何故アイリーンを其処にいる、竜族の女性を狙ったのかは教えて貰えないみたいだな」


 ジンの問いかけに盗賊のボスは


「今の状況を理解してないバカなのか?話すわけもなければ選べる選択肢もないだろう?さっさと決めるんだな」


 ジンには解決策が浮かばず隣のガルシアと目を合わすと彼女も同じ様だった。


 ガルシアの中では人質が死ぬ事や、自分が死ぬ事よりも何も情報を得られなくなる事が決め手のようだった。


 ジンは諦めたように溜息をつき


「わかった。従う」


 静かに伝えた。

 盗賊達は勝ち誇った顔をしていたが、今まで黙っていたアイシャだけは不安の表情で話に割り込んできた。


「待って!あんた達がここにいるって事は広間の仲間をどうした⋯?」


 ジンはここに来る間に切り捨てた盗賊を思い出した。

 盗賊のボスは煩わしい様子でアイシャに下がるよう伝えており、ロスティンも笑みを消しジン達とアイシャを交互にみていた。


 ジンはそんな様子をみて


「⋯恐らく聞きたいのは宿の襲撃で、君と一緒にいた金髪の彼だろう?⋯⋯殺した⋯」

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